国会は、参議院で少数与党という、ねじれ状態にある。だから、農政を進めるにも、与野党の間で協議したうえで実施することになる。この状態が、これからも続くだろう。この状態は与野党で議論を尽くすという点で、よい機会でもある。
最大野党の自民党は、農村に堅い支持組織をもっている。それゆえ、農村の実態に明るい。与党はそうした野党の政策を、虚心に聞かねばならない。そうすれば、農政を互いに練り上げることができる。
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第1の課題からみてみよう。震災と原発事故の発生から、あと数日で半年が過ぎようとしている。だが、対策は遅々として進んでいない。
これから1か月半かけて、復興予算の政府原案を作るのだという。予算が決まるまでには、2か月以上かかるだろう。政治は暢気なものだ。政争に明け暮れて、現地の窮状を全くみていない。腹立たしく思うのは、筆者だけだろうか。
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復興政策について、与野党の間でそれほど大きな違いはない。しかし、実行の迅速さには大きな違いが予想できる。それは、与党には現場の声が届きにくく、したがって、現場に受け入れられるかどうか、自信がないからだろう。
だから、与野党の間で充分な協議をし、与野党で予算の大枠を決め、それを執行する組織を与野党で作ったらどうか。与野党のなかで最も実力がある人を最高責任者に選び、そこに、権限と責任を持ってもらい、予算の細目はそこで決め、協議の結果を直ちに実行する体制を作ったらどうか。
このような体制が成功すれば、農政以外の他の分野での与野党協議の参考になる。ねじれ国会が今後も長く続くと予想されるなかで、政策運営の模範にもなる。
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第2の課題である戸別所得補償制度の評価は、与野党の間で大きな違いがある。野党は4Kという、ばらまき政策の1つとして、槍玉にあげている。
新首相が就任早々に、順守するといった民主、自民、公明の3党合意では「農業戸別所得補償・・・については、政策効果の検証を基に、必要な見直しを検討する」ことになっている。
この検討の過程で、野党はどのような主張をし、与党がどのような妥協をするのだろうか。
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この政策は2年前の政権交替のときの、与党の目玉政策だった。それまでの前政権の選別政策を否定し、食糧自給の向上に貢献する全ての農家を対象にした政策だった。
野党はそれを否定して、以前の選別政策に戻ることを主張するのだろうか。そして、与党は政権交替のときの目玉政策を棄てる、という妥協をするのだろうか。
いずれにしても、この論争は、国民の前に開かれたものにしなければならない。国民は、それを次の選挙で重要な参考にするだろう。そしてまた、この論争は、主要な3党の間だけで行われるのでなく、国会の場で少数政党を含めた全ての政党の間で行わねばならない。
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第3の課題は、TPPへの加盟問題である。この問題は与党の内部でも意見が2つに分かれている。そうしたなかで首相は就任早々に「早期に結論を得る」という発言をした。
それに加えて、新しく与党の政調会長になった前原誠司氏は、以前に1.5%発言、つまり農業を犠牲にしてTPPに参加すべきだ、という趣旨の悪名高い発言をした人である。
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まさか、とは思うが、早ければ11月12、13日のAPECの首脳会議で、参加を決めるのかもしれない。また、9月下旬の、つまり、再来週の日米首脳会談で、参加を約束してしまうかも知れない。
しかし、野党の中だけでなく、与党の中にも根強い反対がある。さらに、内閣の中にも慎重派の閣僚がいる。例えば、山岡賢次食品安全担当相、自見庄三郎金融担当相、鉢呂吉雄経産相、一川保夫防衛相、平野達男復興担当相などは慎重派のようだ。
こうした状況の中で、早急に結論を出すとすれば、参加の見送りしかない。もしも拙速に参加を決めようとすれば、新内閣は、発足早々に閣内不一致の醜態を曝け出すことになる。多くの国民は、新内閣の最初の政策決定の試金石として、重大な関心を持って見守っている。
(前回 肉牛の出荷再開、だが風評被害が心配)
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