コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
コメ先物市場の先細り

 コメの先物取引が始まってから1か月が過ぎた。初めのうちは、価格は高く、取引量は、ほどほどに多かった。だが、しだいに価格は下がり、取引量は少なくなった。つまり、先細りの状態になった。
 これでは、政府がいう「十分な取引量」が確保されているとは言えない。だから、先物価格が現物取引の指標になっているとは言えない。先物市場へのコメの試験上場は、失敗しつつある。このままでいけば、2年後の本上場は阻止できるだろう。
 流通量の半分を占める農協が参加していないし、卸売業者も様子見を続けている。つまり、当業者ではなく、投機家だけの市場になっている。
 だから当業者、つまり農業者や農協やコメ業者は、関係がないといって、安心して無視していいことではない。主食を投機の対象にすることで、いくつかの大きな爆弾をかかえることになった。それは、やがて爆発し、大量の投機マネーが殺到し、暴騰、暴落をくりかえし、流通を混乱させるだろう。この混乱は生産にまで及ぶだろう。
 そして、コメについての基本的な制度である戸別所得補償制度を揺るがすことにもなりかねない。

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(↑ 図をクリックすると大きくなります)

 この1か月の経過をみてみよう。東京と大阪で取引が行われているが、東京をやや詳しくみよう。図は期先(決済日が最も先のもの)の取引価格と全銘柄の取引量を示したものである。
 価格をみると、初めは1万7500円程度の高値があったが、その後、上下を繰り返しながら下がっている。先週末には1万4800円程度にまで下がった。
 一方、取引量をみると、初日は4万トンを超えたが、その後、急激に少なくなり、最近は3000トン程度に減っている。

 最近の取引量の約3000トンを、1日の実際の需要量の2.5万トンで割り算すると0.12トンになる。つまり、コメの先物市場では、1日に実需量の0.12日分しか取引していない。大阪市場を含めても0.2日分にならない。
 ちなみに、トウモロコシをみてみよう。先物の取引量は、1日に実需量の4.4日分になっている。つまり、コメの先物の取引量は、一般になじみの薄いトウモロコシと比べても桁違いに少ない。コメの先物市場が先細りになっている、というのは、このことを指している。
 この程度の取引量では、政府がいう「十分な取引量」とは言えない。これでは、先物価格は、現物価格の指標にならない。

 だからといって、充分な取引量を確保せよ、と主張しているわけではない。
 コメは、ほとんど全ての日本人が毎日食べる主食だから、なじみが深い。したがって、何かのきっかけで、投機マネーが殺到し、一般の人を巻き込んだマネーゲームになるだろう。米価は暴騰暴落を繰り返し、コメの流通を混乱させるだろう。そうした爆弾を抱え込んだことになる。
ことに、原発事故以来、農産物は放射能汚染の風評被害にさらされている。もしも仮に、コメが風評被害にさらされたら、先物市場は敏感に反応し、被害を拡大させるだろう。日本の主食のコメが大混乱に陥るだろう。

 それだけではない。コメの戸別所得補償制度を揺るがすことにもなりかねない。先物市場が機能するようになると、やがて、米価が下がるリスクは先物市場で回避すればいい、財政負担でリスクを回避するのは税金の無駄遣いだ、ばらまきだ、という批判がでてくるだろう。
 そうなれば、戸別所得補償制度の変動部分の補償はなくなる。制度は根本的に変質する。
 そして投機家は、農業者を先物市場に参加させ、暴騰暴落を繰り返す、激しいマネーゲームに巻き込もうとするだろう。先物に手を出して失敗する農業者が続出するだろう。

 だから、農業者と農協はコメの先物取引に参加せず、反対し続けねばならない。先物市場が先細りになることを、むしろ助長して、コメの先物市場の閉鎖を要求し続けねばならない。そうして、先人から受け継いだ生命の糧であるコメを守り通さねばならない。


(前回 野田新内閣の3つの農政課題

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(2011.09.12)