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この1か月の経過をみてみよう。東京と大阪で取引が行われているが、東京をやや詳しくみよう。図は期先(決済日が最も先のもの)の取引価格と全銘柄の取引量を示したものである。
価格をみると、初めは1万7500円程度の高値があったが、その後、上下を繰り返しながら下がっている。先週末には1万4800円程度にまで下がった。
一方、取引量をみると、初日は4万トンを超えたが、その後、急激に少なくなり、最近は3000トン程度に減っている。
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最近の取引量の約3000トンを、1日の実際の需要量の2.5万トンで割り算すると0.12トンになる。つまり、コメの先物市場では、1日に実需量の0.12日分しか取引していない。大阪市場を含めても0.2日分にならない。
ちなみに、トウモロコシをみてみよう。先物の取引量は、1日に実需量の4.4日分になっている。つまり、コメの先物の取引量は、一般になじみの薄いトウモロコシと比べても桁違いに少ない。コメの先物市場が先細りになっている、というのは、このことを指している。
この程度の取引量では、政府がいう「十分な取引量」とは言えない。これでは、先物価格は、現物価格の指標にならない。
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だからといって、充分な取引量を確保せよ、と主張しているわけではない。
コメは、ほとんど全ての日本人が毎日食べる主食だから、なじみが深い。したがって、何かのきっかけで、投機マネーが殺到し、一般の人を巻き込んだマネーゲームになるだろう。米価は暴騰暴落を繰り返し、コメの流通を混乱させるだろう。そうした爆弾を抱え込んだことになる。
ことに、原発事故以来、農産物は放射能汚染の風評被害にさらされている。もしも仮に、コメが風評被害にさらされたら、先物市場は敏感に反応し、被害を拡大させるだろう。日本の主食のコメが大混乱に陥るだろう。
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それだけではない。コメの戸別所得補償制度を揺るがすことにもなりかねない。先物市場が機能するようになると、やがて、米価が下がるリスクは先物市場で回避すればいい、財政負担でリスクを回避するのは税金の無駄遣いだ、ばらまきだ、という批判がでてくるだろう。
そうなれば、戸別所得補償制度の変動部分の補償はなくなる。制度は根本的に変質する。
そして投機家は、農業者を先物市場に参加させ、暴騰暴落を繰り返す、激しいマネーゲームに巻き込もうとするだろう。先物に手を出して失敗する農業者が続出するだろう。
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だから、農業者と農協はコメの先物取引に参加せず、反対し続けねばならない。先物市場が先細りになることを、むしろ助長して、コメの先物市場の閉鎖を要求し続けねばならない。そうして、先人から受け継いだ生命の糧であるコメを守り通さねばならない。
(前回 野田新内閣の3つの農政課題)
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