図は牛肉とトウモロコシの風評被害の推移を示したものである。
風評被害で、価格が下がったものもあるし、出荷制限などで供給量を減らして、価格を維持したものもある。だから、価格だけみても、また、供給量だけみても、風評被害の程度は分からない。
そうではなくて、供給量と価格を掛け算した売上金額をみるとよい。売上金額には、季節変動があるので、前年の同月同旬と比べるとよい。比べて、少なくなった分が風評被害の程度、と考えられる。これは、国民の支出金額の減少分である。図では、それを縦軸にとった。縦軸が1以下になった分が風評被害である。
横軸は今年の1月上旬から、最近の9月上旬までの、日数の経過である。
旬別の資料だから、今年は前年とは曜日が違っているし、市場を開く日数も違うし、消費量に強く影響する天候も違うので、図は上下に大きく振れている。だが、大局的にみて、これが風評被害の推移と考えていい。
◇
この図の中のホウレンソウをみると、風評被害が始まったのは、ホウレンソウからの放射能の検出を発表した3月19日からである。図にはその直後の3月下旬から影響がでている。
その後、風評被害が続き、6月中旬になって、ようやく縦軸が1以上になって、売上金額が前年並みに戻った。つまり、風評被害が治まった。風評被害は、ホウレンソウのばあい、2カ月と1旬の間、続いたことになる。
だが、これは、全国でみたもので、東日本の生産が前年並みに戻ったわけではない。ホウレンソウの供給地の一部が東日本から西日本に移ったからである。東日本の風評被害は、まだまだ続いている。
◇
同じように、図の中の肉牛のばあいをみてみよう。東京市場で肉牛の価格が大暴落した7月19日から風評被害が始まった。この図をみると、7月下旬から風評被害が始まった、とみられる。その後、2カ月近く経つが、まだ終息の気配がみえない。
先日の日本農業新聞によれば、子牛市場は、いま「西高東低」の状態だという。つまり、東日本は西日本と比べて肉牛の生産意欲が弱い、という。
肉牛農家にとって、子牛の購入は、牛肉生産のための先行投資である。だから、将来の牛肉生産に明るい見通しが立たねば、子牛の購入意欲は弱くなる。東日本は、そうなっているという。
◇
このままでは、ホウレンソウや肉牛だけでなく、農業の全体が地殻変動を起こし、食糧生産の中心が東日本から西日本へ移るだろう。さらに、移りきれなくて、西日本を越え海外へ移ることも憂慮される。
その結果、いまでさえ低い食糧自給率が、さらに下がり、食糧安保をさらに激しく揺るがすことにもなりかねない。東日本の復興を急がねばならぬ理由は、ここにもある。
この上、もしも、万一、コメから放射能が見つかり、風評被害がさらに広がれば、計りしれないほどの影響をもたらすだろう。
◇
当面、なにをなすべきか。それは放射能検査を徹底させることである。すでに各県だけでなく、多くの大型小売店などでも全量検査を行っている。政府の検査を国民は信用していないからである。
だが、検査の責任は、原発を国策として推進した政府にある。だから、国民に信用してもらう責任は政府にある。抜取り検査などという安上がりな検査ではなく、徹底的な検査を、早急に行わねばならない。そして、検査の結果を隠蔽するのではなく、直ちに公表しなければならない。それと同時に、賠償を急がねばならない。
風評被害を終息させることは、東日本の農業者に同情するから、というだけではない。日本農業の全体を守り、食糧安保の体制を、これ以上弱めないことでもある。このことを銘記すべきである。
◇
最後につけ加えよう。昨日、東京の新宿で「さよなら原発5万人集会」が行われた。さすがに、マスコミも無視できなくなった。こうした小規模分散型の運動の集積が、これまでの大規模官僚型の運動に代わって、今後の日本の政治を揺るがす地殻変動をもたらすだろう。
そうして、風評被害の根本にある原発事故を起こさないための、原発ゼロへの政策転換をもたらすだろう。
(前回 コメ先物市場の先細り)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)