農協は、TPP参加に強く反対している。日本医師会も日本の医療が崩壊するとして反対している。経団連や連合や生協の、現場に密着している地方組織も、中央組織の考えに反して、TPP反対の意思を表明している。
こうした状況になっているのに、政府首脳や経団連や連合の中央組織は、いったい、どんな根拠で参加すべきだと考えているのだろうか。
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経団連は、推進派の中核にいる。TPPに参加しなければ、世界の流れに乗り遅れる、ことに、今後の世界経済の牽引車になる東アジアの経済発展に関与できない、という。だが、それでは、なぜアメリカが盟主のTPPなのか、に答えない。なぜ、気心の知れたアジアの主要国が冷ややかな目でみているTPPなのか、に答えない。
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また経団連は、TPPに参加しないと、日本の企業がアジアへ流出するという。だが、ここでも、なぜTPPなのか、に答えない。TPPに参加しないと、日本はアジアの発展に貢献できない、と考えているのだろうか。だが、素直に考えるなら、アジアで不評なTPPではなく、アジアの主要国が参加する組織に入って、それぞれの国の発展に、互いに協力しあいうのがいいだろう。
TPPなら価値観を共有できる、と考えているのかもしれない。だが、そうした姿勢はアジアから歓迎されないどころか、異端の目でみられてしまう。価値観の違いがあるなら、互いにそのことを認めあった上で、現実的な経済交流を進めるべきである。そうして、外需に頼るのではなく、内需の充実を計るべきだろう。
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経団連会長の考えは甘い。「TPPは関税を即時に全て撤廃するものではなく・・・」といっている。もちろん、加盟したからといって、即時に全ての関税をゼロにするわけではない。厳しい交渉の結果、5年程度の猶予期間は許されるかもしれない。だが猶予期間が許されるか許されないか、が問題なのではない。関税をゼロにすることが問題なのである。
全ての関税をゼロにすることは、TPPの基本理念なのである。
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連合会長の考えも甘い。先日、連合会長が「むちゃむちゃに積極的ではないが、ルール作りから参加」すべきだ」といった。ルール作りに参加して、日本の主張が通らなければ参加しなければいい、というのだろう。
だが、連合にとって最も関心が強い雇用問題である人の移動の自由化、つまり、外国の単純労働者の受け入れの自由化も、TPPの基本理念なのである。
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TPPは、基本理念を覆すことが出来るような柔軟な組織ではない。昨年末のTPPの会合に、政府はオブザーバーとして参加したかったが、許されなかった。参加各国との個別会合さえもできなかった。会合に参加したいなら、加盟を決断してこい、という理由だった。
また、最近は日本抜きでルールを作り、日本が参加したいなら、ぐずぐず言わせないで、そのルールを丸呑みさせよう、という強硬な考えもあるようだ。
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いまの日本政府に、TPPの基本理念を覆せるほどの外交力があるとは思えない。もしもそれが出来るなら、TPPはその本質を失い、TPPでなくなる。誇り高い盟主のアメリカが、そうした恥辱に耐えて妥協することを期待するのは、全く非現実的である。
経団連と連合の会長は、こうした甘い見通しをもって、TPPに参加せよと主張している。それは、日本は努力したが、強硬なアメリカに押し切られた、という見え透いた、いつもの言い訳を周到に準備しているに過ぎない。
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政府は、野党が強く要求しているのに、TPPで加盟各国がどのような交渉を行っているのかさえ公表していない。公表するほどの情報を持っていないのだろう。情報さえ得られないほどに、日本外交は非力なのだろう。情報がないままで中途半端な議論をし、そのうえで、早急に結論を出したい、といっている。
結論は、TPP非加盟しかない。
(前回 効率主義に傾く民主党農政)
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