はじめに、アメリカの世界戦略の中でTPPを位置づけてみよう。日本のTPP参加交渉は、オバマ大統領のアジア構想にとって追い風になった。大統領は、今後の外交の力点を、西アジアや北アフリカからアジアへ移し、いまや第2の大国になった中国の周りに包囲網を築こうとしている。
そのために、第3の大国である日本を、アメリカ主導のTPPに参加させることは、重要な要件になる。それゆえ、アメリカは、日本に妥協して、TPP参加の条件を緩めるのではないか。油断できない。
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だが、そうなることを、中国が歓迎するはずがない。日本がTPPに参加すれば、日中間の関係が冷えることになる。日本はTPPに参加して、今後のアジアの経済発展に貢献する、というが、かえって、そこに障害を作ることになる。
だからといって、TPPを潰せ、といっているわけではない。毅然とした姿勢で、中米両国の架け橋になり、アジアの経済発展に貢献せよ、といいたい。
そして、TPPに対しては、例外なき関税撤廃、などという食糧主権の侵犯や、他国の国内制度の改革、などという国家主権を侵す干渉を止めるように要求すべきである。
この要求を呑むなら、アメリカと貿易協定を結んでもいい。だが、そのときは、TPPという汚い手垢のついた名前を捨てるのがいい。
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今後、アメリカは西アジアや北アフリカから手を引く、という。この点から、今度の「アラブの春」を、反米運動の成功としてだけみるのは、片手落ちだろう。また、反独裁の民主化運動の成功としてだけでみるのは、その本質の一部しかみないことになる。
それだけではなくて、「アラブの春」には、反市場原理主義の運動の側面がある。市場原理主義による失業の増大、所得格差の拡大に反対する運動でもある。
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この点で、トルコの状況は際立っている。いまのトルコ経済の成長率は、中国に次いで世界第2位の高さである。そうなったのは、市場原理主義を否定したからだろう。
これまでは、EUに加盟しようとしていたが、いまやトルコ経済は市場原理主義を志向するEU向きから、アラブ諸国向きの、イスラム向きの経済に変わりつつある。
トルコはアジアの最も西の位置にあって、欧米とアジアの間の架け橋になろうとしている。日本はアジアの最も東にあって、トルコと同じように欧米との架け橋になるべきである。
アジアの両端に位置し、もともと友好関係にある両国には、手を取り合って、アジアと欧米の融和をはかるべき歴史的な役割がある。
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国会のTPP決議が中途半端に終わったのは、TPPは、いま欧米が、こぞって向かおうとしている市場原理主義の極致にあるから反対だ、とする姿勢がなかったからである。
来年の1月から始まる次の国会でのTPPの議論は、その本質に根ざした深い議論、つまり、市場原理主義を採るか否か、という厳しい議論を期待したい。判断するための情報がない、などという、ふやけた言い草は聞きたくない。慎重な判断を求める、などという、うじゃじゃげた言葉も聞きたくない。
そうではなくて、TPP参加交渉は直ちに止めよ、という要求を中心に据えた議論の、白熱した展開を期待したい。
(注 大阪市信用金庫のアンケート調査は http://www.osaka-shishin.co.jp/houjin/keiei/pdf/2011/2011-11-24.pdf で)
(前回 TPPは韓米FTAより破壊的だ)
(前々回 TPP問題で思考を停止した朝日新聞)
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