アメリカが国益を追求するのは、当然のことだが、2つの矛盾した思惑がある。
1つは、日本をアメリカが主導するTPPに参加させることで、アメリカの力を世界に誇示することである。国際政治の世界でも、「政治は数なり、数は力なり」なのだろう。だから、加盟国の数は多いほどよい。そのためには、日本の加盟を承認するための条件を甘くしたい。
もう1つは、実益の追求である。アメリカは、いま大統領選挙という政治の季節のさ中にある。だから目先の利益を追求することで、国民の支持を得たい。そのためには、日本の加盟条件を甘くする訳にはいかない。
このように、条件を甘くするかどうか、について2つの矛盾した思惑がある。一筋縄ではない。
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日本は、協議のなかで何を知りたいのか。そして確認したいのか。
農産物についていえば、日本は、コメなどの重要品目にはTPPの関税ゼロの原則を当てはめない、とアメリカに言わせたいのだろう。だがアメリカは、そんな言質は与えない。日本はすでに、全ての品目を交渉の対象にする、と言ってしまっている。アメリカは、いまさら何だ、といいたいのだろう。関税ゼロの交渉は、すでに始まっているのである。
交渉範囲についても、日本は、医療や医薬品の分野については交渉範囲から外す、と言わせたいのだろうが、この点も、うやむやな結果になってしまった。
政府の高官は、この分野はTPP交渉の対象になっていないといって、反対勢力を分断しようとしている。だが、TPPは全ての分野を対象にするのだ。
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アメリカが要求すると思われる具体的な条件と、要求の範囲を考えてみよう。
TPPで日本が要求される問題のうち、農業の分野はどうか。それを考えるばあい、韓米FTAが参考になる。
韓国はコメを除く全ての農産物の関税をゼロにすることになった。畜産物の一部には猶予期間を設けることが許されたが、いずれはゼロ関税になる。
TPPは、「高いレベル」の経済連携というのだから、韓米FTAよりも自由化の度合いが酷くなるだろう。日本は、「高いレベル」を容認しながら、その酷さをどの程度に抑えるかという、ちぐはぐな交渉になるだろう。そのような交渉は、いますぐに止めよ、というのが国民の大多数の考えである。
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次に、交渉の範囲だが、アメリカの考えは、毎年発表してきた対日規制改革要望書をみれば分る。これをみると、アメリカは毎年、決まり文句のように「日本の医療制度を変更するばあい、アメリカの業界の意見を充分に考慮するように」と求めてきた。そうして日本の医療を荒廃させてきた。TPPの場面で、こうした考えを捨てることは予想できない。
これまで、アメリカの要求と、それを支持してきた日本の財界によって、あるいは、逆に財界の主張をアメリカが支持してきたのか、いずれにしても、両者によって、世界に誇る日本の医療制度は崩壊されつつある。それを加速させよう、というのがTPPである。
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農業や医療だけではない。郵政や共済などにもアメリカは強い関心を持っている。それは、昨年2月の「日米経済協調対話」をみれば分る。関心は日本社会の全ての分野に亘っている。まさに国のかたちを壊して、日本をさらにアメリカ化するほどの要求である。日本を市場原理主義が支配する国にし、平等という正義に反して、格差を拡大させようとするものである。
だから、農業や医療の関係者だけでなく、大多数の国民がTPP参加に反対している。
(前回 TPPは中国包囲網)
(前々回 所得補償制度は両刃の剣)
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