コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
食糧安保を軽視する朝日新聞

 今朝の朝日新聞は、第1面で、中国米が国内に浸透していることを伝えている。小山田研慈氏と大津智義氏との署名記事である。
 中国米の人気が高く、価格が安いので、外食産業などは輸入枠の拡大を求めているという。ここには、「何故か」という視点がない。表面的に事実を伝えるだけで、事実に突き刺さるという姿勢がない。この程度の記事なら小学生にも書ける。
 今後、TPPの議論にも影響が出るだろうという。だが、どのような影響が出るのか、この記事では見当もつかない。
 中国米が旨いことは、いまに始まったことではない。価格が安いことは周知のことで、北京支局で調べればすぐに分かるだろう。そうしたことを知らないで書いたとすれば、朝日新聞は恥をさらしたことになる。
 鹿野道彦農水相は、輸入枠の拡大は考えないという。「何故」か。この点についての言及はない。旨くて安いのに輸入を制限しているのは、食糧安保のためなのである。
 この記事に食糧安保の視点をいれれば、もっと読みごたえのある記事になっただろう。だが、この視点がないことで、軽薄な記事にしてしまった。

 「何故」中国米は旨いか。それは、日本の品種を基にした品種の米だからである。その栽培を日本人が技術援助をしたからである。だから国産米と、ほとんど変わらない。
 「何故」安いか。それは、中国の労働費が安いからである。昨日の卸売市場価格は精米1kg当たり約4元だった。玄米1kgでは約45円である。国産米の5分の1以下である。
 だから、中国米が旨くて安いことは、いま取り立てて書くほどのことではない。1kg45円の米を、「何故」ベイシアでは10kg2580円で売るのか。そのカラクリを知っている気配はない。

 最も重要なことは、「何故」輸入量を制限しているのか。「何故」農水相は、業者の要求に反して、輸入枠の拡大を否定するのか。この点の追求にある。それが、この記事にないことが、決定的な欠陥である。この追求は、食糧安保をどう考えるか、という視点が必要になる。
 そもそも、輸入量を制限しているのは、制限をなくせば、こうした旨くて安い米が日本を席巻し、日本の米が壊滅し、食糧安保の危機を迎えるからである。

 だから、これまで輸入量を制限してきた。当初は輸入量の77万トンの10%、つまり7.7万トンを輸入するはずだったが、いつのまにか10万トンになってしまった。そして、残りの67万トンは、国内生産に影響しないように加工用や飼料用や援助用として消費してきた。つまり、国内生産に影響しないように、最小限の量に制限して主食用の米を輸入してきた。そうして、国内生産を維持し、食糧安保を図ってきたのである。
 こうした食糧安保の考えを、どのように評価するか。この点をあいまいにしたことが、この記事を浅薄にしている。「何故」が深まらないのは、ここに原因がある。

 あるいは、日ごろTPP参加を主張している朝日新聞だから、日本の米を壊滅させてもいいから、つまり、食糧安保を犠牲にしてもいいから、TPPに参加すべし、という考えかもしれない。
 そうならそうと堂々と主張すればいい。輸入枠を拡大せよ、と主張すればいい。だが、それは食糧主権という中核的な国家主権を放棄するもので、多くの国民は賛同しないだろう。


(前回 TPPは東太平洋FTAにとどめよ


(前々回 TPP問題で政府の支持基盤に亀裂

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(2012.05.22)