いったい、なぜ内外価格差を推定するのか。そこまで深くさかのぼって考えねばならない。それは、輸入を自由化したばあい、日本米にどれほどの価格競争力があるか。そのために内外価格差を推定したいのである。
氏が推計した内外価格差の一方の、日本米の価格の推定には、それほど大きな問題はない。問題は他の一方の輸入米、ここでは中国産の輸入米価格の推計に大きな問題がある。氏はSBSの資料を使って、それを推計した。ここに致命的な問題がある。
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そこで、あらためてSBSを説明しておこう。
SBSの制度は、もしも輸入を自由化したばあい、コメがどれほどの価格で輸入されるか、をあらかじめ見ておこう、という建て前で始めた制度である。だが、実態は建て前どおりになっていない。ここに問題がある。
氏の主張は、建て前を鵜呑みにしたもので、実態を無視した主張である。
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前回に示したが、SBSによる中国産米の輸入価格は、氏の誤りを補正しても、玄米60kg当たり9486円である。
一方、中国の国内では精米1トン当たり約4000元である。この事実は重い。この価格で、約1億トンのコメが売買されているのである。
このコメを玄米60kgに換算すると、1元は昨日12.77円だったから2758円になる。自由化を想定して、日本が輸入するとすれば、これに流通経費を加えて約3000円が輸入価格とみてよい。氏のように、SBSの資料から推計した9486円とは、まるで違う。
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内外価格差を計算しよう。
前回示したが、日本産米の価格は、1万5541円である。だから、内外価格差は、3000円で1万5541円を割り算して5.2倍になる。
氏がいう1.3倍や、氏のように、SBSの資料を使って補正した1.6倍とは、全く違う。
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なぜ、氏は内外価格差の推計を誤ったか。
くどいほど強調するが、それは輸入価格にSBSの資料を使ったからである。SBSの価格を、建て前どおりに、輸入を自由化したばあいの価格として、内外価格差を推計したからである。
だが、SBSの価格は、建て前どおりになっていない。なぜ3000円のコメが9486円になるのか。建て前どおりに自由競争の市場になっていないからである。
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3000円の中国米の取引量は、1億トンを超える。だが、一方のSBSによる9486円の中国米の取引量は、2011年度で5万463トン、つまり、約5万トンに過ぎない。桁がまるで違う。
日本が輸入を自由化すれば、中国からの輸入米は9486円の価格では買い手がいなくなる。市場原理に従って、1億トンの取引量がある3000円の価格に限りなく近く引き寄せられる。
氏は、このことが分かっていない。内外価格差は1.3倍や1.6倍でなく、5.2倍なのである。
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氏は、この誤った推計を基礎にして、自由化の推進、TPPへの加盟を主張している。そして、さらに農業経営の大規模化や、コメの輸出産業化さえも主張して妄想をたくましく広げる。力みすぎたのか、それらに加えて、農協の無茶苦茶な改革も主張している。迷惑この上ない。
だが、これらの主張は、全て根拠がないゆえに、やがて雲消霧散するだろう。蜃気楼だったのである。
(前回 山下説は蜃気楼―その1)
(前々回 農協の病院が潰れた)
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