氏が主張するコメの輸入自由化論の骨子をみてみよう。
輸入米の価格は国産米の価格と大差ない。つまり、内外価格差は小さい。だから、輸入を自由化しても、影響は小さい。この小さい影響は、国産米と輸入米の価格の差を、政府が補助すれば、全く無くすことができる、補助のための財政負担額も決して多くはないという。
だが、この内外価格差は小さい、とする推計に致命的な誤りがある。
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氏は、この誤った推計を基礎にして、自由化の推進、TPPへの加盟を主張している。そして、さらに農業経営の大規模化や、コメの輸出産業化さえも主張して妄想をたくましく広げる。それに加えて、農協の改革も主張している。
ここでは、これらの主張の最も基礎になる、内外価格差は小さいとする推計を、やや詳しく検討しよう。そこに重大な誤りがある。
誤った基礎の認識の上に立った提言は、全て虚構にしかならない。議論にもならない。
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氏は著書「農協の陰謀」の195ページにある図の中で、中国産の輸入米は60kg当たり9780円で、日本産米は1万2687円だという。だから内外価格差は1.3倍以下だという(194ページ)。確かに割り算すると1.297で、1.3よりも僅かに小さい。
だが、この最も基礎になる数字を何の資料からとったのか、示していない。たぶん、中国からの輸入米の価格は、SBSの資料からとったものだろう。それ以外に主食用中国米の輸入の事実はないし、したがって資料はない。日本産の米の価格も、どの資料からとったものか明示していない。
それらを明確に示さないと、氏の主張は全て幻想になる。それほどに重要な数字である。
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その検討をするまえに、極めて初歩的な誤りを指摘しておこう。同図の注でことわっているが、この価格は、日本産は玄米価格で、中国産は精米価格だという。その2つを割り算している。
この誤りは、小学生でも理解できる。割り算して何倍というなら、単位を統一しなければならない。氏は2メートルを1グラムの2倍だ、といっているのと同じで、ただ呆れるばかりである。
単位を玄米当たりに統一して、正しく割り算しよう。そうすると、中国産米の玄米価格は、精米歩留まりを常識的に0.9として、9780円掛ける0.9だから8802円になる。だから、内外価格差は1.44倍になる。つまり1.3以下は誤りで、1.3以上が正しい。
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ここで、1.3か1.4か、にこだわるつもりは全くない。ここでは、氏の推計と、したがって、それに基づく主張の粗雑さを批判したい。米を玄米で流通しているのは日本だけで、他の国は精米で流通している実態をもみていないのかもしれない。他は推して知るべしである。
もう1つ批判したいことは、あるTV局が無批判にこの図を放送していたことである。世に害悪を流している。
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念のため、最新の資料を使って氏がいう内外価格差を推計しておこう。
日本産米の最近の価格は、農水省の資料でみると、玄米60kg当たりで1万5541円である。一方、SBSによる中国産米の価格は、精米1トン当たり17万5658円で、玄米60kg当たりに換算すると9486円になる。割り算すると内外価格差は1.6倍になる。
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だからといって、内外価格差は1.6倍だ、というつもりもない。これも誤りである。内外価格差の推定にSBSの資料を使ったことに、致命的な誤りがある。このことを言いたい。
都合のいい資料だけを使う、というのでは研究者ではない。世を惑わす扇動者でしかない。
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そもそも、なぜ内外価格差を推定するのか。それは、輸入を自由化したばあい、日本米にどれほどの価格競争力があるか。そのために内外価格差を推定したいのである。このことを銘記すべきである。
それを氏はSBSの資料から推定している。ここに致命的な誤りがある。どんなことを主張しても自由だし、意見の違いがあってもいいが、これでは議論にさえならない。
さて、これからが本論だが、予定した紙数を超えた。続きは明日だが、結論を言っておこう。内外価格差は1.3倍でも1.6倍でもなく、実に5.2倍である。(続く)
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