協同組合としての農協は
どう地域農業を立て直すか
(写真)3者の報告に熱心に耳を傾ける参加者。遠方から駆けつけた人もいた
■農協の農業経営をどう考えるか
報告を受けたパネルディスカッションでは改正農地法によって農協も農業経営が可能になった点をどう考えるかがひとつのテーマになった。
参加者からは、地産地消の促進や、直売所も盛んになっていることから、JAが「生産力をつけていくため」JAによる農業経営が求められるようになるのではないか、との意見があった。品目としては地元で需要のある野菜生産であり、水田ではJAによる直接経営は現実的ではないのでは、との指摘があった。
JAはだのの古谷組合長は直売所の目玉はやはり野菜だが、市場価格が高いときには市場出荷に流れる実情があるなど、生産量の増大とともに直売所利用者のための安定供給も課題となっていることなどを改めて報告した。
一方、田代教授は、水田であっても耕作放棄地化を防ぐ目的でJAによる農業経営へのニーズが組合員から出てくるのではないか、と各地の事例をもとに指摘した。
参加したJAトップからも、後継者育成と耕作放棄地防止対策を目的として、JA出資型法人を設立・運営をしている事例が報告され「現実には農家が手がけられない農地が増えている。JAは何もしなくていいのかということになる」と、JAの責任で農業経営を行うという事態も出てくると話した。
こうした議論について、ディスカッションに先立つ報告で農協の農業経営は慎重に取り組むべきと強調した研究会の梶井会長は、「JAは何のために農業経営を行うかを明確に、組合員の納得を得ることが重要」と指摘。ただし、JAに農業経営を認めた改正農地法の趣旨は、耕作放棄地対策などではなく、あくまで“農業経営”であることを理解しておくべきと強調、「荒廃地対策なら、それは『経営』ではない」と認識すべきだとし、それでも地域のニーズに応えて耕作放棄地対策として取り組むなら、「それは現場から政策提起するための、材料集めの取り組みと考えるべきではないか」と話した。
また、JAの農業経営への取り組みとしては、たとえば新作物を農家に提示し産地形成を図るための営農活動、など目的を整理すべきことも指摘された。
■組合員の参加意識も大切
改正農地法については、“貸借の原則自由化が注目されるが、農地集積を地域協議会やJAに任せる”など、農地の確保、担い手育成を民間に任せるばかりで、“国の責任を放棄したのが本質ではないか”との批判や、食料安保の観点から海外で生産を確保する方針が打ち出されるなど、“日本で農地を確保する姿勢がなくなっているのではないか”との意見が参加者からあがった。農業政策全体への目配りが改めて必要だとの認識だ。
そのほかJAのあり方では、報告で田代教授が指摘した「総代会ではなく、いまだに総会を開いているJAはだの」について注目が集まった。
古谷組合長は「組合員どうし直接話し合ってものごとを決めることは参加意識を高める。とくに准組合員にとっては『JAとは、を考える機会』になっている」と強調。国際協同組合デーの記念行事も毎年JAで行い「協同組合の仲間として認識を共有する場としている」ことを紹介した。
各報告の概要
報告1
梶井功
東京農工大名誉教授
「改正農地法と農協」
梶井氏は今回の農地法改正は財界の意向に沿ったものと指摘。
借地営農なら全国どこでも一般株式会社の参入を容認したが、これは現行基本法を検討していた90年代末の経団連提言に即しており、農地所有権取得に向けた「第二段階」が終了した、として「次には所有権取得への動きが懸念される」とした。
同時に、企業の農業参入とイコールフッティングさせるという理屈で認めたのが、農協による農業経営――。農協法もこれについての意志決定のハードルを下げる方向で同時に改正されたが、梶井氏は、組合員の営農と競合しかねない事業には農協は慎重であるべきではないか、と提起した。また、耕作放棄地化を防ぐため、本来なら行政による特定利用権の発動される案件であっても、農協の農業経営がその受け手として役割を押しつけられる懸念も挙げた。
そのほか、農地の利用集積促進事業についても、現に耕作している生産者からも委任を取るようなことになれば「組合員の権利制約になりかねない」ことも指摘した。
報告2
古谷茂男
JAはだの代表理事組合長
「農業に軸足を置いたわが農協の取り組み」
JAでは2013年度までの地域農業振興計画を策定し、その実践中だ。秦野市もほぼ同期間の振興計画を策定し、はだの都市農業支援センター運営協議会や、市民農業塾など行政と一体となった取り組みをしている。
市民農業塾は、家庭菜園水準の技術指導を行うコースから、パートで働けるレベルまで教えるコース、さらには本格的に新規就農を望む人向けのコースまで設定し、市外からの希望者もいるなど、実績を上げている。
また、耕作放棄地化しかけた農地をJAが地権者から借地料を支払って借り受け、市民農園として貸し出す「さわやか農園」事業は、現在298区画で展開、人気が高く市民の関心に応えるとともに、農業への理解を深めJA組合員になる住民も出てきているという。
本所敷地内にあるファーマーズマーケット「はだのじばさんず」は現在、出荷登録者700名を数える。施設園芸を中心にした多彩な農産物生産が特徴なだけに品揃えも豊富。じばさんずは、消費者との交流の場にもなっているが、毎朝の出荷時の「組合員どうしの井戸端会議が情報交換、交流の場」だという。 農業と協同組合への理解を深める広報活動や、食農教育などにも力を入れている。市民の日に生協と森林組合連携で「協同組合フェスタ」を開催しているのもほかにはない特徴だ。
「組合員、地域、JAが元気になる元気運動として取り組む」と古谷組合長は話した。
報告3
田代洋一
大妻女子大教授
「協同組合としての農協を考える」
米国流の金融資本主義、新自由主義が破綻したチェンジの時代――。田代氏は米国の過剰消費をあてにした輸出依存から内需依存経済への転換、とくに農業・食料問題では国民が自らの所得で自国の農産物が買える経済への転換が食料自給率向上の土台でもある、と強調した。
そのうえで「協同組合の出番の時代だ」として、協同組合の理念として(1)人々の自治組織が事業を通じて共通の願いを達成する=協同=農家組合員主体、(2)開かれた討議を通じて共通の願いを確認し達成する=公共性=地域住民主体、の2つを挙げた。とくに今後は公共性が問われるのではないかと指摘した。
こうした組合員と地域住民をともに視野に入れると、JAには「大きいことはいいことか」が問われると提起。事業には適正規模があり、その適正規模までは大きくなる必要はある。しかし、農業やJAの事業はあくまでも内需産業、地域密着産業であり、それを掘り起こす必要性からの要請であって、「大きくなりすぎて顔が見えなくなっては問題」だという。
産地規模、地域規模から適正規模は考えられるべきで、JAにとっては「がんばれば総会ができる」規模もあるとして現にJAはだのがそれを実践している。そのあり方が県内JAに影響力もたらしているとした。
一方、現在のJAは「地域のなかでまだまだ大きくなれる」余地があり、信用、共済、直売所などの事業は地域住民に開かれていることに着目し、「地域住民に組合員になってもらって農協運営に参加してもらう」視点から、准組合員の参加の仕方なども検討していくべきではないか、などを提起した。
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