JA全中の前嶋恒夫常務理事は今回決議されたJA人づくり運動の概要について説明し、「新政権となり農協の根幹を覆すようなさまざまな法改正案が浮かび上がっている。これに対し、徹底して反論していく」。そのためにも「内輪を固める人づくり運動は重要。また地域と組合員にとっても必要だ。着実に運動を進めていってほしい」と期待した。
セミナーでは、3JAから人づくりを意識して取り組む事例報告があった。
◆“現場力”が基本
それに先立ち「協同組合における教育とJA人づくり運動への期待」をテーマに滋賀県立大学の増田佳昭教授が基調講演した。
「農業所得の激減やJAの支持層である農家の世代交代など、変化する環境に対応していかなければこれからJAは生き残っていけない」と指摘し、「変化への対応力をどう身につけるかが重要だ」と話した。対応力を支える教育の基本は「JAを通して必要なことを実現していく“組合員力”と、組合員の要求に対応する職員の“現場力”」の2点だとして、まずは役職員教育を進めることが重要だと強調した。また「仕事の考え方の転換が必要ではないか。仕事のやり方を変えていく意識改革を」とこれからの役職員に求められる力を話した。
【事例報告】 (以下敬称略)
◆自ら“動く”組合員に
千國茂 JAあづみ常務理事
地域の担い手として自主性のある組合員づくりに力を入れる事例を発表した。
1999年に高齢者が生きがいある生活を送れるよう、1期2年の「生き活き塾」を開講した。「生き活き塾」は部活動感覚で学習、勉強、実践の3つが連動する活動をめざしており、塾生には何かしら地域での実践活動が求められている。
またJAは2000年に元気な高齢者の活動を支援するための“あんしん広場”を開設したが、広場の世話役となりイベント企画や運営をおこなうのはほとんどが「生き活き塾」生だ。さまざまなイベントを通して地域の人同士が交流できる場にもなっている。
活動の原点は「自分たちが“生き活き”輝いていたい」という熱い思い―との考えから、組織あっての活動ではなく、一人ひとりの思いあっての活動だという意識を組合員に根づかせている。思いを実現するまでに直面する問題を解決していく経過こそ、組合員教育だと強調した。
◆職員取り込んだ教育
森倫子 JA東びわこ生活福祉課
組合員教育活動を利用して職員教育を実践する例を話した。
小学生を対象にした次世代活動「ちゃぐりんキッズクラブ」は生活活動担当者だけではまかないきれない人材に職員を取り入れている。年に3回、活動に協力する職員ボランティアを呼びかけたり、新人研修に協力員としての活動を盛り込んだ。農協やJA事業を知らない新人にとっては学びの場となる。
また、文化講座を行っている「さんさん講座」では、生活活動担当者が「家の光」について説明する時間を10分間取り入れた。受講者のJA理解を図るだけでなく、人前に立つ場に慣れることで担当者のコミュニケーション能力の向上もねらった取り組みだ。
◆やる気高まる職場をめざして
伊藤勝弥 JAあいち知多人事部長
松田定三 同CS推進課長
職場活性化への見直しに力をいれた取り組みを報告。
業務への提案や質問など、職員間の情報はイントラネット(組織内に構築したネットワーク)で共有できる環境を整えた。また役職員間が互いにほめあう「感謝のカード」交換、結婚や出産など職員のお祝い時には組合長が手書きの手紙を贈る、職員同士で誕生日会を行う、などES(従業員満足)で仕事への意欲を高める職場環境をつくっている。
CS(組合員満足)モデル店舗では手書きPOPや季節感を出した店内ディスプレイに力を入れている。組合員や利用者に喜んでもらうことで職員が仕事にやりがいを感じることこそが“本当のES”だと、人づくりへの考えを示した。