組合員間の協同を深め
JAと地域との結びつきを強める
教育文化活動
◆高まる「横糸」活動の重要性
開会のあいさつで(社)家の光協会の江原正視会長は、第25回JA全国大会では、組合員間の協同を深め地域のなかでの多様な連携とネットワークを構築していくことを決議したことに改めて触れ「トップのリーダーシップのもと教育文化活動の展開でどのように新たな協同を創造し、地域に元気を生み出すのか相互研究を」と呼びかけた。
家の光文化賞農協懇話会の木村春雄会長は「このフォーラムは教育文化活動の重要性を再認識する場であり会員相互の交流の場。率直な意見交換を期待する」などと述べた。
家の光協会の柳楽節雄専務は「教育文化活動ですすめる新たな協同の創造」を提案。
政府の行政刷新会議によるJA攻撃に対抗して「地域になくてはならないJAづくりが求められている」として、「教育文化活動はJAの組織基盤の課題に対応しJAの強みをさらに発揮するための必須の活動」だと強調。
この活動は「組合員と組合員」、「JAと組合員・地域住民」、「事業と事業、事業と活動」を結ぶ「横糸の役割」を発揮するものとしての役割があると訴えた。そのうえでJAに「教育文化活動活性化プロジェクト」の設置や家の光文化賞への挑戦、さらに再挑戦による「広域合併JAとしての完成」をめざすことなどを提案した。
(写真)
上:家の光協会・江原正視会長
中:家の光文化賞農協懇話会・木村春雄会長
下:家の光協会・柳楽節雄専務
◆人々の力を結集する教育文化活動
今年の実践報告はJA栗っこ(宮城県)の菅原章夫組合長とJA糸島の松尾照和組合長が行った。また、2日目には農事組合法人コスモス(三重県)の古市武巳代表が特別報告をした(別掲)。
報告と討議に先立ちコーディネーターの増田佳昭滋賀県立大学教授が今回のテーマを解説。市場原理主義の見直しの動きのなか、キーワードは「競争」原理ではなく「信頼」と「協調」だと指摘。人々がバラバラではなく自発的に交流しながら活動することが地域の豊かさを支えることになるとして、時間と手間のかかる「たい肥づくり」のような教育文化活動が、社会とJAの基礎になると強調した。また、JAの事業量とと組合員活動の活発さには相関関係があるという。
実践報告を受けて今年は若手研究者がコメントした。
福島大学の小山良太准教授はJA栗っこが合併後もJAの核である営農・生活指導の人員削減を行わず、また教育文化活動の専門職員を育成してきたことに着目、総合農協としての方向を見失わない取り組みであるとし、今後は教育文化活動をどう体系的に位置づけるかも課題ではと提起した。
愛媛大学の板橋衛准教授はJA糸島の実践について地域農業振興を図るために直売所や部会などに携わる「人づくり」「組織づくり」に力を入れてきたことを指摘、「JAの事業は組合員の願いを実現するものだが、しかし、多くは組織活動がおろそかになりがち」と同JAの実践を評価した。
静岡大学の柴垣裕司准教授は組合員だけでなく「地域住民の願いをかなえるためのサポートを」と提起、そのための広報や教育が重要で、それによって「人々が自らの力で願いを実現していく自主性」が地域を元気にするのではと話した。
(写真・上から)
滋賀県立大学・増田佳昭教授
福島大学・小山良太准教授
愛媛大学・板橋衛准教授
静岡大学・柴垣裕司准教授
◆JAの社会的責任
全体討議で参加者からは「トップとして教育文化活動実践を宣言することが大事」、「これは新たなJAのファンづくりでもある。どう事業に結びつけるか」、「組合員や職員のリーダー育成が課題」などの意見があった。
増田教授はまとめで実践報告と討議から浮かび上がってきたこととして▽JAの存在の基本である営農事業への正面からの取り組み、▽組織づくりへの腰を据えた取り組み、▽人の配置と職員への動機付け、▽総合農協を守るなどの課題を指摘した。
そのほか地域住民への発信はまだ不十分であることや、そのためには「組合長が理想や理念を語り続けること」が大事なこと、「地域のなかにJAのサポーターをつくる」ことなども指摘した。
教育文化活動への取り組みを計画的に進め「総合的な魅力あるJAとして発展させてほしい」と提起した。
なお、同フォーラムでは教育文化活動をテーマにした第3回懸賞論文最優秀賞に輝いたJAくにびき(島根県)の越野浩昭・ふれあい課長が表彰された。
(写真)
上:表彰されたJAくにびき(島根県)の越野浩昭・ふれあい課長
下:全体討議ではトップの姿勢が重要との意見が
実践報告(1)
協同活動で地域を元気に!
JA栗っこ・菅原章夫 組合長
平成8年に8JAが合併して誕生。菅原組合長は合併以来の取り組みを報告した。
購買・販売事業の落ち込みのなかで購買事業については子会社化。しかし、子会社もJAの総合事業に位置づけ、収支は大幅に改善しさらなる事業展開に弾みをつけているという。
一方、指導事業は「組合員農家と営農と生活を守り営利追求ではない地域にねざしたサービスを行うこと」を目標とし「営農指導員と生活指導員の数は減らさなかった」。
また、最近は集落営農組織のサポートセンター、広域専任営農アドバイザー(TAC)も整備した。
教育文化活動は「組織基盤拡充のための戦略として位置づけ」た。
生活基本構想も策定。一昨年の岩手宮城内陸震災での女性部等の助け合い活動は日ごろ協同の心を培った成果だと強調した。
メディアでも取り上げられたことから「教育文化活動はニュースになるほど社会的意義が高い」。事業部門間の連携強化の必要性も強調した。
実践報告(2)
JAが核となる地域農業
振興と組合員間の協同
JA糸島・松尾照和 組合長
長期農業振興計画の策定をどう進めたかを報告した。
組合員への意向調査をもとに地域全体の農地利用などを視野に策定した。取り組みの柱は「活力ある人づくり」、「魅力ある豊かな地域づくり」、「すばらしいものづくり」の3づくり運動。そのサポート事業として農地保有合理化事業に力をいれ管内の50%以上で利用権設定の実績。大規模農家との関係も緊密になった。
人づくりでは集落リーダーと女性総代への研修会を実施。また、組合員を支える職員づくりとして行政機関職員とJA職員がともに参加する糸島農業計画会議などを開き地域の農業者を支える一元的な体制もつくった。
一方、農業粗生産額にくらべてJAの販売高の減少が大きいことはJAの販売力不足だと認識し、糸島農産物の統一ブランドづくりや産直市場「伊都菜彩」の開設を実現する。事業の方針は「場所ごとの黒字化」。JAの基本として「生産農協であること」を強調した。
特別報告
集落営農で人・地域を元気に
農事組合法人コスモス・古市武巳 代表理事
三重県のJA松坂管内にあり古市代表はJA経営管理委員会会長も務めた。
集落で生産組合を結成したのが18年前。現在は構成員46戸で52haの農地を集団的に利用。45haで利用権を設定しているほか、周辺集落の農地も受託している。水稲、小麦、大豆などを生産。「みんなでできることはみんなで」を合い言葉に女性も含めて全員参加型の活動を展開。
とくに発足当初から地域住民を招いた収穫祭に力を入れてきた。現在は食農教育、レクリエーション農園なども運営、周辺の非農家とも交流を深めている。
三重県の実情に詳しい石田正昭三重大教授(写真・右)は「集落営農組織が地域の教育文化活動を担う注目すべき事例。他組織にも影響を与え同様の活動が増えている」と評価した。
記念講演
社会的共通資本としての農の営み
宇沢弘文・東大名誉教授
2日目には宇沢弘文東大名誉教授が記念講演した。
宇沢教授の唱えてきた「社会的共通資本」とは自然環境のほか、社会資本や医療や教育といった制度資本などだが「農業・農村もそこに加えるべき」という。
ただ、戦後日本は重化学工業化を押し進め臨海地帯に工場を林立させて豊かな海を壊し、一方で集団就職によって農村は大切な宝である人を流出させ農村という社会的共通資本を破壊し「日本はバランスを欠いた国になった」のだという。
その後、現在は儲かれば何をしてもいいという新自由主義がはびこり、大気という社会的共通資本を勝手に使って温暖化を招き、さらにその対策と称して排出量取引のかたちで利益に結びつけようとしていると批判。
しかし、平成の大恐慌ともいわれる昨今の状況は米国発の新自由主義による米国のための体制「パックスアメリカーナ」の終焉をつげており、協同精神に立ち返って子どもたちに伝えていくための社会的共通資本としての農村を守るために「協力していく時代」になっていると強調した。