農政・農協ニュース

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地域と命と暮らしを守るために――ルポ・福島県

 東日本大震災は「2011年(平成23年)3月11日(金)に発生した東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波、及びその後の余震により引き起こされた、大規模地震災害」(ウィキペディア)で「天災」だ。
 しかし、福島県では、この地震と津波を引き金に、東京電力福島第一原子力発電所で信じられないような事故が発生し、100日以上経過したいまでもセシウムなど放射性物質が、毎日毎日大気中に「垂れ流されている」。これは人類が初めて経験することで、直接的な放射能被害だけではなく間接的な被害を含めて、甚大な被害を引き起こしている。
 つまり福島県では、地震と津波による「天災」と原発事故という「人災」が同時に発生し「復旧以前」の状態がいまも続いている。

地震

◆地震で灌漑用ダムが決壊

すべての水が流れ去り湖底に雑草が生えている藤沼ダム。決壊したのはこの奥 発生の早い順番に被害の実態を見てみよう。3月11日14時46分三陸沖深さ24kmを震源とする「東北地方太平洋沖地震」の本震が発生する。震度は7。
 この地震直後に須賀川市江花にある灌漑用ダム「藤沼ダム」の堤の最初の決壊が起こる。「どーんと大きな音がして」水が押し寄せてきて、それが止まったなと思ったら2回目の地震(15時08分に宮古沖で余震)のあと再び大きな音がして、約150万tの「真っ黒な水が山の木を巻きこみながら」簀の子川沿に濁流となって流れ落ち、死者7名、行方不明1名、流失もしくわ全壊家屋19棟、床上床下浸水55棟という被害をもたらした。被害地域の惨状は津波と同じように水の力の凄さ恐ろしさを見せ付ける。
 藤沼ダムは昭和24年に竣工した灌漑用ダムで、江花川の支流・簀の子川から取水し江花川流域約837haの水田(江花川沿岸土地改良区)を潤してきた。だが被災した滝集落は簀の子川流域にあるがダムの裏側にあり改良区が異なるのでダムの恩恵は受けていない。
 ダムの水はほぼすべて流出し、湖底には雑草が生え始めている。

(写真)すべての水が流れ去り湖底に雑草が生えている藤沼ダム。決壊したのはこの奥


◆完成間近の農業用水が損壊し作付できず

 同じころ、須賀川からすこし南の矢吹町を中心とする地域では、3月末に完成予定だった羽鳥湖から取水する「隈戸川農業水利事業」の幹線用水路(地中埋蔵パイプ)が10数カ所で損壊した。
用水用パイプ(直径2m半)を埋め込んだ用地が陥没。1600haで作付けができなかった かつて矢吹が原といわれていたこの地域は、宮内省の猟場はあったがやせた荒野だった。しかし、昭和16年からの国営白河矢吹土地改良事業の羽鳥湖から取水する用水施設などが整備され、県内でも有数の水田地帯に生まれ変わった。隈戸川農業水利事業はその用水施設が老朽化したことと、農業生産性を向上させるための「若返り」を図る事業として進められてきていたが、この損壊で約1600haの水田で今年の作付けができなくなった。
 江花川流域では今年、地域で作付けする水田を決めたり、残された溜池(溜池も5カ所で決壊)を利用したりして546haに作付けした(不作付は340ha)。心配なのは、来年「今年様子をみて作付けしなかった人が、作付けしたときに水が足りるのか」と須賀川市役所長沼支所の小林弘一主幹は心配する。なぜなら藤沼ダムの再建計画がないからだ。
 一方、隈戸川用水では、改良区を中心に国や県と修復についての折衝が行われている。分厚い書類の作成と審査で時間がかかるが、支線を含め82kmにおよぶ用水路を修復し、来春には「田植えができるようにしたい」と改良区の鈴木禎一主幹。
 火山灰地で地力がない矢吹が原に入植し、ほぼ3代にわたって苦労して県内有数の水田地帯に育ててきた生産者にとって「米が作れないことは、経済的なこともあるが、精神的なダメージが大きいから何としても米が作れるようにしたい」と思うからだ。

(写真)用水用パイプ(直径2m半)を埋め込んだ用地が陥没。1600haで作付けができなかった

 

(続きは 【特集】地域と命と暮らしを守るために  ルポ・福島県―原発事故の「終息」が復旧のスタートライン 全国に福島のサポーターを増やそう で)

(2011.07.13)