農政・農協ニュース

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【座談会】協同の力で全力で被災地の復興を 「震災支援で高まるJAグループへの期待」 北中勇輔氏・萬代宣雄氏・林正照 氏・白石正彦氏

出席者
北中勇輔 氏(JA滋賀中央会会長)
萬代宣雄 氏(JA島根中央会会長)
林 正照 氏(JA愛媛中央会会長)
司会
白石正彦 氏(東京農大名誉教授)

 JAグループでは物資の支援や義援金だけでなく、各県連合会の職員が中心となって直接現地入りして支援活動を行っている。全国各地からの支援には多くの感謝が寄せられている。ここでは、支援する側として西日本から3名の中央会会長にご出席頂き、それぞれ震災とその後の支援活動についてどう受け止めているか、また原発問題や災害へのリスク管理についてどう考えているかを聞いた。

◆災害時、もっとも大事なのは協同組合精神


【座談会】協同の力で全力で被災地の復興を 「震災支援で高まるJAグループへの期待」  白石 まず初めに今回の大地震、大津波、そして原発事故をどのように受け止め、そして各県JAグループでどのように対応されてきたのかをお聞かせください。
 北中 私は集会に参加するため3月11日は大阪にいたのですが、大阪でもひどく揺れて、本当にびっくりしました。あまりに時間が長く、また大きく揺れたので震源は地元の滋賀県ではないかと思ってニュースを見たら、東日本だと。地震はともかく、あの津波というのは経験なかったので、またびっくりしました。これはすぐに支援をしなければいけないと思い、やはり助け合い運動の基本は募金だということで義援金を募り、多くのみなさんのおかげでよく集まりました。
 私はちょっと年齢が上だから東京大空襲で焼け野原になった3月10日の風景をよく見ていたりしたのですが、今回の津波の傷跡はあれとよく似ているな、と感じました。何が似ているかというと、被害に遭われた方々は裸一貫で外に放り出されたわけです。だから救援物資はどんなものでも必要になると思い、ちょうど滋賀県では水と乾パンの備蓄をしっかりしていたので、それを提供しました。あとはパールライス滋賀から無洗米も送りました。
 萬代 私は当日、東京で会議があったので2時過ぎの飛行機で出雲に帰りました。4時頃空港についたら、TVの前がすごい人だかり。アナウンスでは羽田空港は閉鎖したと言っているが、ほんの1時間半前にいたばかりで、一体何を言っているんだと不思議に思いましたよ。そして時間が経てば経つほど、被害の大きさがわかってきたので、翌12日には災害対策本部を設置し、緊急対策としてトラック2台分の支援物資を県内のJAにも協力してもらって、全中の対策本部を通じて提供しました。
 島根県独自の取り組みとしては、コメとか水とかの一般的な支援物資以外にも、とにかく元気を出してもらおうと出雲の焼酎を300本、島根ワイナリーのワインを800本、出したことですね。これらは非常に喜んでもらったと伺っております。このような災害の時は、協同組合、互助の精神が何より大事だと改めて感じました。

 

◆義援金、税控除の仕組みづくりを早急に


 林 私も震災があった時間は海外へ移動しておりまして、現地に入ったのが日本時間の夕方6時半ごろ。そこで地震のニュースを知り、電話をかけたのですが、全然繋がらず不安になりました。ようやくTVを見たのが日本時間の夜10時半ぐらいで、あの真っ黒な津波が防波堤を超えて、家は流れ、ハウス、車、船を飲み込んでいくのを見ると、「これは一体、映画か夢なんじゃないか」とわが目を疑いました。
 何より気になったのは、JAえひめ南と姉妹提携を結んでいる東北の2JAです。14日の晩に帰ってきて電話をかけても、いまだ一向に繋がりませんでした。結果的に宮城のJA栗っこも、岩手のJAいわて中央も自所の職員は無事で施設に破損がある程度だと聞いて、ほっと胸をなでおろしました。
 その後、JA全国対策本部に基づき3月15日にJAグループ愛媛県対策本部を設置し、JAや連合会、青年部、女性協等で義援金や募金、緊急支援物資について取り扱うことにしました。早速、物資は白米、当時最盛期だったかんきつ類、POMジュース、お茶、水などの多くの品物が供給可能となりましたが、本部からなかなか指示が来ず、ようやく要請が来たのが3月20日ごろでした。そして24日に10トン車2台で福島県中央会へ送ることができましたが、それは衣類やコメ、水やジュースなど本部の指示通りのものを送らなくてはいけなかったので、せっかく集めたかんきつ類を送れなかったのは非常に残念でしたね。やはり支援物資については、全国本部と、JAグループ各県と被災地との間でそれぞれギャップがあったのではないでしょうか。せっかく頑張って集めたものがムダになってしまったので、対策本部としてもすぐにどんな食料と何と何が必要なので集めてくださいと明確な指示を出してほしかったと思います。
 萬代 支援活動での大きな問題の1つに募金の税控除があります。組織として日本赤十字などのルートを通せば控除対象になりますが、個人で各県中央会などを経由して募金をしても控除対象にはなりません。もしこれが控除になれば出す方も喜ぶし、もっとたくさんの義援金が集まったのではないかと思います。今後は少しでも多くの義援金が集まるような仕組みづくりが必要でしょう。
 白石 それは重要な検討課題ですね。
 北中 そもそも、その日赤のルートというのがよくわかりませんよね。聞いたところでは義援金が2500億円ほど集まっているのに、現時点で配分されたのはわずか400億円ほどだとか。差額はどうなっているのかと思いますよ。
 JAグループとしても多くの募金を集めたわけだから、全中さんはそういうところもしっかり頑張ってもらいたいと思います。

 

◆東北人の純朴さに心打たれる


 白石 JAグループは救援物資や募金活動以外にも、各連合会と連携して、医療、資金、共済、ボランティアなど総合的な取り組みで支援していますね。各県連合会の職員を中心にボランティアも相当な人数が現地に入って、7月ぐらいまで派遣の計画を組んでいるそうですね。
 北中 滋賀県では共済の査定支援で52人が現地に赴いております。わたしどもは16年前に阪神淡路大震災を経験していますが、それとは比較にならないほど被害が広範囲なのでずいぶん大変だと聞いております。
 ただ、阪神の時と何が違うかというと、以前から感じていた通りやはり東北の方々は非常に純朴だな、と。ご自身が被災して苦労されておられるのに、共済の査定に来た職員に「ご苦労さん」と言ってジュースをご馳走したりね。東北の人たちのそういう気質に触れると余計気の毒に思えて、なんとか助けてあげなければいけないなと改めて感じたわけです。だからどこまでできるかわかりませんが、ある程度復興のメドが経つまで、JAグループとしてはしっかり面倒を見なければいけないなと思います。
 萬代 島根でも共済の支援で450人ほどがずっと現地に行ってます。あとはボランティア支援ということで全中からも要請があったので、手上げ方式で参加者を呼び掛けたところ、40人ぐらいの予定だったのがたくさん希望者が出てしまって断るのに苦労するぐらいでした。
 5月2日には新世紀JA研究会としても福島に激励と視察に行ったのですが、そこで出雲大社のお守りを預かって行きました。福島の庄條会長やJAそうまの鈴木組合長からもわざわざお礼を頂き、大変喜んでいただけました。やはり物資的なものとは別に精神的な面でどうフォローするかというのが、われわれの一つの役目だと思います。
  愛媛では緊急支援として軽トラマルシェをやりました。女性部は手作りの加工品、青年部はかんきつ類などを軽トラに乗せて即売し、そのお金を全て募金に回しました。
 ほかにはJAグループ支援隊を呼び掛けて、あくまでも強制的ではなく手を挙げてもらっていますが、金融共済担当職員などのコンプライアンス遵守をチェックする“職場離脱”を推進しているので、その一環としてもいいのではないかと思っています。


(続きは 特集・JAは地域の生命線―協同の力で全力で被災地の復興を で)

(2011.07.14)