農政・農協ニュース

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野田首相、TPP参加に向け「関係国と協議」を表明

 野田首相は11月11日、記者会見を開き、12日からホノルルで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議で「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」ことを表明した。APEC首脳会合に合わせて現在、TPP(環太平洋連携協定)交渉参加9か国が大枠合意をめざして会合を開くことになっており、野田首相はこの場やオバマ大統領との日米首脳会談の場などで日本政府の方針を伝えた。

◆慎重に考えて一日延ばした?

 民主党の経済連携PTは9日にTPP参加については、APECでの参加表明について「時期尚早」、「表明すべき」との意見のほうが多かったことをふまえ「慎重に判断すべき」との提言をまとめていた。
 野田首相は10日も判断を下すとされていたがこの提言がまとめられてことから1日先送りし「これ(提言)をふまえて熟慮をした。政府・民主党の3役会議を断続的に行い、関係閣僚とも断続的に協議を行った結果」、「関係国との協議に入る」との方針を打ち出したと述べた。
 交渉に参加する、との明確な表現にならなかったことについては「昨年11月(決定)の包括的な経済連携のための基本方針ではTPPについては『情報収集のために協議』ということだった。その段階から歩みを前に出すことによって『TPP交渉参加に向けて協議』という位置づけになっている」と説明した。 TPPは10年以内の関税撤廃が原則だ。野田首相は「その中身については即時撤廃がどれぐらいあるのか、長い時間をかけて段階的撤廃をするのはどういうものができるのか、あるいは例外というのはあるのか、ということも含めてまだ定まってないと思う。協議に入るなかでまさに国益を実現するためにしっかりと協議をしていきたい」と述べた。また、交渉の過程でわが国に不利な内容になりかねないと判断し交渉から離脱する可能性については「協議に入る際には守るべきものは守り抜き、勝ち取るべきは勝ち取るべく、まさに国益を最大限に実現することが基本だ」と強調した。

◆問われる農業対策 

 農業対策については、10月に政府として決めた「食と農林漁業の再生のための基本方針」と「行動計画」に基づき、経営規模拡大に向けて農地集約などを5年間で集中的に行ってために「必要な予算措置を行っていきたい」と述べた。
 しかし、政府がこの「基本方針」を決定する際には、TPP参加問題が前提ではなく、これと切り離した持続的な日本農業の再生策との位置づけが確認されている。野田首相のこの日の説明は政府の認識が問われることになる。
 しかも、同基本方針は集落単位を基本に平地で20〜30haの経営体を集落の徹底した話し合いと合意形成でつくっていくことなどが柱だが、関税が撤廃される「丸裸のFTA」であるTPP参加では、この経営規模を実現したとしても日本の100倍の経営面積の米国や1000倍以上の豪州などにはとても対抗はできないことはすでに多く指摘されてきた。わが国の重要品目が関税撤廃から除外されるならともかく、関税ゼロでは多くの農産物が輸入品に置き換わり、農業生産自体が崩壊してしまうおそれもあり農業支援策そのものが成り立たない懸念もある。 この日の野田首相の認識はあまりにも安易で、「美しい農村、そうしたものは断固として守り抜く」(冒頭発言)との発言がまさに空疎に響く。

◆交渉参加ではない?APEC後の説明が焦点 

nous1110130101.jpg 11日の衆参両院でも集中審議ではTPP参加判断について「国会で言いなさいよ」(福島瑞穂・社民党党首)などと国会審議のなかで方針を示すべきで、国会軽視との厳しい批判もあった。
 同様の記者会見での質問には「間に合えばできたと思うが、政府・民主党内の意思決定のプロセスを経ることによって結果的には衆参の集中審議が終わったあとになった。ただし、TPPのメリット、デメリットについては審議ができたと思っている。これからも国会での審議の場でしっかりと説明していかなければならない」と述べた。
 また、TPPをめぐっては国家安全保障の観点から推進すべきとの意見も党内にあったが野田首相は「私自身はアジア太平洋地域におけるまさに成長力を取り込んでいくという経済の観点。貿易立国、投資立国である日本はアジア太平洋地域でよりフロンティアを開拓していくことに意義があると思っている」と語った。
 首相会見の終了後、鹿野農相は「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」との方針について「(関係)閣僚会合では、交渉参加を前提とした協議入りではないのですね、と確認したところ、誰からも意見はなく、みなさんうなずいていた」と発言。そのうえで「参加するかしないかは別として、いずれにしても食と農林漁業の再生実現会議において決められたこと(=基本方針と行動計画)と、食糧自給率の向上に向けた取り組みを進めていく」と話した。
 一方、JA全中の萬歳章会長は11日夜に緊急記者会見を開き「交渉参加表明と解釈している」として交渉参加断固阻止に向けて国民運動をさらに拡大し強めていく考えを強調した。(萬歳会長の会見についてはコチラから)

(写真)
11日の首相会見後、農水省内で記者団の質問に答えた鹿野農相


【野田首相冒頭発言】

 本日は東日本大震災の発生から8か月めの節目にあたる。改めて震災からの復旧・復興、そして福島原発事故への対応に最優先で取り組んでいく決意を表明する。
 TPPへの交渉参加の問題については、この間、与党内、政府内、国民各層において活発な議論が積み重ねられてきた。野田内閣発足後に限っても20数回にわたって50時間に及ぶ経済連携プロジェクトチームにおける議論が行われてきたし、私自身も各方面から様々な意見を拝聴し、熟慮を重ねてきた。
 この間、熱心にご議論をいただき、幅広い視点から知見を提供いただいた関係者の皆様に、心から感謝を申し上げる。
 私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることとした。
 もとより、TPPについては大きなメリットとともに、数多くの懸念が指摘されていることは、十二分に認識している。
 私は日本という国を心から愛している。母の実家は農家で母の背中の籠に揺られながら、のどかな農村で幼い日々を過ごした光景と土の匂いが、物心がつくかつかないかという頃の私の記憶の原点にある。
 世界に誇る日本の医療制度、日本の伝統文化、美しい農村、そうしたものは断固として守り抜き、分厚い中間層によって支えられる安定した社会の再構築を実現する決意だ。
 同時に貿易立国として、今日までの繁栄を築き上げてきたわが国が、現在の豊かさを次世代に引き継ぎ、活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかなければならない。
 このような観点から関係各国との協議を開始し、各国がわが国に求めるものについて、さらなる情報収集に努め、十分な国民的な議論を経たうえで、あくまで国益の視点に立ってTPPについての結論を得ていくこととしたい。

(2011.11.13)