◆離島にも危機感
11月19日、埼玉県浦和市で開かれた党派を超えて自主・平和・民主の実現をめざす「広範な国民連合」の全国総会は、「アメリカの言いなりの政治をやめよ! 普天間県内移設、TPP参加を許さない!」を特別企画とした。
沖縄県議会の高嶺喜伸議長は、米軍普天間基地の辺野古移設には「県議会が全会一致で反対を決議」していることなどを改めて強調し、沖縄の現状がなかなか理解されない問題を訴えた。
沖縄本島の2割を基地が占めるなど沖縄県民の米軍負担は全国の280倍も多いことや、米軍基地が存在することによる事件・事故の危険にさらされ、この総会時点ではまだ運用改善が発表されていなかった日米地位協定の実態を報告。1月に米軍関連施設で働く軍属が引き起こした県民への自動車事故では死亡させたにもかかわらず起訴を免れ、5年間の運転禁止のみの処分となっていることを強調した。
その一方、全国県議会議長会などの場ですら、いまだに「基地によって経済的利益を得ているはず」との認識があると批判。4兆円の県民所得のうち米軍施設に関わるものは5%に過ぎず雇用も8000人であり、一方、地方交付金交付税水準は同程度の自治体比較で9割にとどまるなどの実状を強調した。
こうしたなか、たとえば人口減少に悩む与那国島ではかつて盛んだった台湾などとの交易を復活させて、基幹となるサトウキビや畜産も維持しながら次世代が暮らしていける地域振興を進めようとしている。
ところが政府は東シナ海の安全保障の重要性の高まりを理由に、自衛隊配備を進めようとしている。これに住民から大きな反発が起きて島の将来を守るため高校生たちにも運動が広がっているという。
高嶺議長は「平和交流、経済交流が最大の抑止力となるはず」と地域経済維持の重要性を強調した。ゼロ関税が原則のTPP参加によってサトウキビなど基幹産業が壊滅しかねない離島だが、同氏の指摘では、それどころか、すでに住民の暮らしを離れ、国の安全保障問題からのみ「島」が扱われかねない事態が進行していることを知らせるものだった。
(写真)
医療関係者がTPP反対を訴えた「ドクターズウォーク」。(11月20日)写真右下は集会。いずれの行動もマスコミに対して事前に記者会見して発表したが、当日、大手メディアは一切取材に来なかったという
(顔写真)
沖縄県議会議長・高嶺喜伸氏
◆TPPの排他性を強調
JA全中の小林寛史農政部長は「TPPは極めて排他的な条約」と強調した。
TPP参加国は米国、豪州、NZなど9カ国だが、協定が締結されると参加国間では同一の貿易条件となるが「協定に入っていない国には高い関税をかけるなど差別的なものになる」と指摘した。
世界人口は10月末に70億人に達したが飢餓人口は10億人を超え、そのうちアジアが多数を占める。
小林部長は、この日の報告で戦後日本が独立するためのサンフランシスコ講話条約の内容が議論された際、日本の国際社会復帰について「憎しみは憎しみで終わらせることはできない。それができるのは愛だけだ」とスリランカの代表が支援したことを改めて思い起こすべきと指摘し、スリランカをはじめカンボジアやラオスなども含めたアジアの一員として生きてきた日本のTPP参加は「これらの国に報いることになるのだろうか」と訴えた。
また、関係国との協議入りを表明した以上、「局面が変わった」として、今後は「9カ国が日本の参加を認めるかどうか」が焦点となり、日本は“入場料”として米国から牛肉輸入条件や共済、郵政問題などの見直しが求められる可能性があることも指摘。「これらはTPP問題とは別に米国が毎年日本に要求していること。間違った判断をすれば歴史に禍根を残す。日本にとって何よりも大事なのは震災からの復旧・復興が最優先。幅広く連携して反対運動を継続していかなければならない」などと話した。
また、TPPを考える国民会議副代表の久野修慈・中央大理事長はTPP参加で農業も競争力強化を、と強調する論調に対して「競争力をつけるという問題ではない。(砂糖でいえば)沖縄、北海道の環境をいかに守るかということ。それが分かっていない。TPP論議は食料問題を軽視している」と批判した。 そのほか済生会栗橋病院の本田宏氏らも報告(インタビュー記事はコチラから)。また、山田俊男参議院議員もあいさつし、野田首相がこれから国民的議論を行うと表明していることに対し「米国議会は米国政府と徹底して事前協議を行うが、その後は一括権限を与えられ米国では政府が議会に情報を出す必要はなくなる。結局、交渉は秘密主義で行われるから、国民的議論などできるわけがない」と指摘、TPP参加ではなく「アジアの仲間との連携」を基本とすべきと訴え、広範な国民運動の重要性を強調した。
(写真)
日比谷野外音楽堂に総勢2500人が集まった医療関係者の集会
(顔写真)
上:JA全中農政部長・小林寛史氏
中:TPP国民会議・久野修慈副代表
下:参議院議員・山田俊男氏
野田首相・「情報収集」と「国民的議論」を強調
民主党両院議員懇談会で
民主党は11月24日に両院議員懇談会を開き、TPPを含む経済連携協定についての政府の方針をめぐって意見交換をした。TPPについて野田首相は「関係国が何を求めているか、しっかりと情報を把握し、党内、あるいは国民的議論においても十分な議論を経たうえで、最終的にはあくまで国益の視点に立ってTPPについて結論を得る、というプロセスに入っていきたい」と話し、11月11日の記者会見で示した「関係国との協議入り」とは事前協議であることを強調した。しかし、国民にとっては非常に分かりにくい説明だ。
懇談会では野田首相のあいさつは公開されたが、質疑応答は報道陣に非公開で行われた。
懇談会後に「TPPを慎重に考える会」の山田正彦会長(前農相)らが記者会見をした。
野田首相が11月11日の記者会見で「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」としたことについて反対・慎重派議員がこれは交渉参加表明なのかどうかを改めて問うと見られたが、山田氏によるとこれまでの予算委員会の答弁で野田首相が国益を損なうことがあれば交渉参加をしない趣旨の発言をしていることや、鹿野農相が繰り返し「交渉参加を前提にしたものではないと理解している」と発言していることについても野田首相が否定していないことから「交渉参加が前提ではなく、事前協議だということは確認された」との認識を示した。
また、この日の質疑でも野田首相は「情報を収集し国民的議論ののち、TPPについて参加の是非を判断する」と話したといい、現段階では参加を決めたわけではないというのが、反対・慎重派の受け止め方だ。
(写真)
憲政記念館で開いた民主党両院議員総会。壇上には輿石幹事長、前原政調会長らが並んだ。質疑応答はマスコミシャットアウトで行われた
◆米国HPへの訂正要求多数
そのうえでこの日、10人程度の発言者の過半がホワイトハウスのホームページ(HP)に掲載されている日米首脳会談の概要についての訂正や削除を求めたという。
野田首相は冒頭あいさつ(全文はコチラから)にもあるように、日米首脳会談では▽TPP交渉参加に向けた関係国との協議入りを政府として決めたこと、▽包括的経済連携に関する基本方針に基づく高いレベルの経済連携、について話した、と説明した。政府の基本方針には、経済連携を進めるにあたって「センシティブ(重要)品目に配慮する」との一文が盛り込まれている。
しかし、米国のHPには「すべての物品とサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せる方針である」との野田首相の発言をオバマ大統領が歓迎した、と掲載されている。
山田氏ら複数の議員は野田首相に対して発言が事実でないのなら米国に訂正を要求すべきだと訴えた。しかし、野田首相は、訂正されていないことは「残念ながら修正には至っていない」とは述べたものの、今後、訂正要求するかは明確に答えなかったという。
また、この問題をめぐっては首相発言のポイントを経産省や外務省が会談前に作成、事前に交換していたのではないかと指摘も上がっており、この日も「言ってもいないのに、役所がトーキングポイントを事前に交換してHPが作成されたとすれば、大きな禍根を残す。党が決めた方針で対応しなければ信頼が失われる」などの発言もあったほか、官僚の責任を明らかにして追及すべきだとの意見も出た。
同会の川内博史衆議院議員は「HPの訂正や削除はこれからも実施されるまで(政府に)求めていく」と強調している。
(写真)
慎重な発言に終始した野田首相
◆山田前農相「不満残る懇談会」
また、16日から18日まで米国通商代表部のマランティス次席代表が非公式に来日し、北神圭朗政務官をはじめ政府・党関係者と会談したことも明らかになり、米国の専門紙は牛肉問題や保険、自動車販売、郵政改革などにさらなる改善を米側が求めたと報じているという。
懇談会ではこの問題について外務省など省庁が情報を隠しているとの厳しい指摘も出て、「国民的議論をするといっているのであれば総理が政治主導で情報を出すよう指示すべきだと強く求めた」と山田氏は話し、野田首相は「各省庁に指示する」と答えたという。
山田氏らは、米国へのHP修正要求をはじめとして野田首相らから明確な方針が示されなかったことについて「大変、不満の残る懇談会だった」として質疑や意見交換の場を今後も求めていくと強調した。