農政・農協ニュース

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【提言】「懐かしい地域」こそ未来へのヒント  哲学者・立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科・教授 内山 節

 いまのところTPPは幽霊のようなものである。どのような内容になるのかが伝わってこない。TPP交渉はすべての関税を実質ゼロにし、締結地域ではその内部の国々が自由に経済活動ができるようにすることを目指しているが、例外措置をまったく認めないということではまとまらないだろうし、それぞれの国のさまざまな安全基準や社会保険制度にまで踏み込んで、すべてのルールを統一するというのも不可能だろう。それらの事柄がどうなるのかがさっぱりわからない以上、現状では幽霊という他ない。

GDP優先から転換し充足感のある社会を

◆TPPを考える視点とは

 しかしこの幽霊が現実の姿に変わったとき、どのようなことが起こるのかは推測できる。それは、世界をひとつのルールで、実際にはアメリカのルールで動かそうとする方向性が、加速度をつけていくだろうということである。すべてのものを市場原理に委ねるという方向性が、である。
 このTPPの動きに対して賛成意見があるのは、それによって利益が上がりそうな産業部門や企業、個人があるからであろう。実際農民のなかにも、ごく少数ながら、TPPの成立をチャンスとしてとらえる人もいる。しかし私は、どちらが得かというような次元でこの問題をとらえてはいけないのだと思う。大事なのはこれからの社会のあり方を見つけ出すことであり、その視点にたってTPPとは何かを考えることである。

 

◆人々を破壊する経済発展


 戦後の世界は、経済活動がうまくいけば、国の経営も人々の幸福も結果としてついてくるというかたちで、基本的には形成されてきた。しかし今日私たちの前にあるのは、この発想がもはや通用しなくなったという現実である。経済を発展させるためには、企業活動が拡大していかなければならない。そのためには企業は利益を上げなければいけないのだが、それを目指した結果は非正規雇用の拡大でしかなかった。今日の日本をみれば、若者のおよそ半数が非正規雇用の下で働いている。中小、零細企業からつくりだされる部品や農民が作り出す作物などは買いたたかれ、それらの部門では持続困難な現実まで生まれている。これまでのかたちで経済発展を目指そうとすると、逆に人々の経済を破壊してしまうという事態が発生しているのである。とするならいま私たちに必要なことは、経済とは何か、経済と社会はどのような関係にあったらよいのかを、根本から問いなおすことであろう。少なくともGDPさえ大きくなれば人々の幸せは自動的についてくるという予定調和説が、すでに幻想になっていることを私たちの社会は知らなければならない。


nous1201120601.jpg【プロフィール】
(うちやま・たかし)
1950年生まれ。1970年代に入った頃から、東京と群馬県の山村・上野村との二重生活をしている。現在、NPO法人・森づくりフォーラム代表理事など。

(続きは 2012年新年特集号 もう一度考えよう! この国のかたちを【提言】「懐かしい地域」こそ未来へのヒント で )

(2012.01.12)