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バイオエタノール用の米 転作作物として定着  JA全農

 JA全農は新潟県でイネを原料とするバイオエタノールの生産から販売、副産物利用までの一貫事業に取り組んできているが、このほど5年間の実証試験の成果をまとめた。転作メニューの1つとして水田の維持と地域水田農業振興に貢献するなどの成果が表れているものの、今後の持続と発展をめざすには、バイオ燃料政策やエタノール用米への支援など国の政策が不明確で、農業・環境・エネルギーを総合的に考える国家戦略が必要になっている。

課題は国の戦略的支援


◆新潟県下で300ha作付け

 JA全農は新潟県内のJAとともに、平成17年からバイオエタノール原料イネの栽培に関する調査・実証事業に取り組んできたが、その成果が評価され19年度から5年間の農水省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」に採択された。同事業によって原料イネの栽培からエタノール製造、混合ガソリンの販売、副産物の利用など一貫した事業に取り組んできた。
 目的は▽米の生産数量目標が減少するなかで地域の水田農業振興に寄与する、▽とくに畑作物への転換が難しい地域の水田活用を図り、地域の農地・水・環境を将来にわたり良好に保全する、である。
 全農は新潟東港近くにバイオエタノール製造所を建設。プラントの製造能力は玄米1tから450l程度のエタノールが製造できる見込みで、1年間に県内で原料玄米2200tを生産しそこから1000klのバイオエタノールを製造することを目標とした。
 それを全農新潟石油基地でガソリンに3%混合(E3ガソリン)、3万3000klを「グリーンガソリン」としてJA―SSで販売する計画とした。全農が新潟県内のJA―SSに供給する年間のガソリンは約10万klだから、その3分の1をグリーンガソリンで供給しようという目標だ。
 原料イネに選んだ品種は「北陸193号」。20年度から本格栽培に取り組み、現在は300農家が参加、作付け面積は300haになっている。


◆飼料・肥料の製造も

 バイオエタノール製造は21年度からスタート。
 製造所の特徴は、地域で発生するもみ殻を圧縮固形燃料化してエタノール製造のための熱源として利用していること。5年間の実証試験では熱源の6割をこれでまかなうことができたという。さらに、もみ殻を熱源として利用した後の残さは土壌改良資材としても活用されている。
 また、玄米2000tから発酵残さとして400tの残さも出る。いわゆる搾りかすDDGSで飼料としての活用も当初から期待されていたが、これをコスト削減のために乾燥させず液体飼料として県内の養豚農家に供給することも実現、出荷が早まったり食味評価も向上したなどの成果も出て付加価値を高めた畜産物販売という成果も出てきた。「エタノールだけでなく飼料も製造している取り組み」(JA全農営農販売企画部・中澤靖彦部長)だという。


◆持続的な支援策を

 5年間の実績としては、原料のイネの栽培目標として「北陸193号」の10aあたり単収を750kgとしたが、この間、冷夏や猛暑もあったことから平均すると705kgにとどまり、計画比95%の年間2125tの生産量となった。また、バイオエタノールの製造もプラントの故障などで年720klと目標には届かなかった。
 ただ、バイオエタノール1.5%〜3%直接混合のグリーンガソリンとしての販売量は3万8000klと目標を超えた。ユーザーからのクレームはまったくなく直接混合によるバイオ燃料の品質に問題はないことを証明できたという。
 そのほか先に触れたように肥料、飼料としての副産物利用を実現するなど「地域循環型」の農業・エネルギー事業としての姿を描くことはできたといえる。
 しかし、問題は農家への支援策だ。バイオエタノール用米は1kg20円で買い取り、20年、21年は10a5万円を産地確立交付金から交付した。その後、22年は戸別所得補償モデル対策の水田活用交付金でバイオエタノール用米も対象となり10a8万円の交付が行われた。しかし、同対策の本格実施にあたっては対象外とされ、県と協議し産地資金の枠内で交付水準を確保しなければならなくなり24年産でも同様の対応が求められている。
 一方、県内では300農家が300haの生産に取り組むなど転作メニューとして定着し、水田の維持に貢献している。また、バイオエタノール用米の「北陸193号」はコシヒカリより晩稲のため収穫期がずれ、JAにとってCEの不需要期の稼働率向上にも寄与している。
 バイオ燃料への取り組みは再生可能な資源を使う点や地球温暖化対策としての位置づけ、さらにエネルギーの循環型自給をめざすもの。イネによるこの取り組みは「水田」を「油田」として活用して維持しつつ、いざというときには「水田」として食料供給も担うという点で意義がある。
 この成果と課題が報告された3月21日の「イネイネ・日本プロジェクト第12回シンポジウム」では原発事故の放射性物質により汚染された農地の維持・再生に向けたイネよる福島県内でのバイオエタノール生産の提案もあった。
 農業政策だけでなく環境、エネルギー政策の観点からもこの取り組みの位置づけと支援策の具体化が改めて問われている。

地域エネルギー循環モデルイメージ(↑ クリックすると大きく表示します)


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