組合員と歩むこの先のJAを描くためには
◆組合員との関係は、今
シンポジウムは受賞者それぞれが長年の農協人としての体験を発表した後、第26回JA全国大会議案のテーマである「次代へつなぐ協同」の課題を中心に議論した。コーディネーターの石田正昭三重大教授は、JAと組合員との関係をどう構築するかをテーマにした。
JA相馬村の元リンゴ販売本部長の田澤俊則氏(営農事業部門)は、同農協は小規模農協のため役員が職員、組合員をしっかりとリードしてきたが、退職して一農家組合員となると「農家が何を求めているのか、農協が聞いてこない」という面も実感したという。現場より事務所にいる時間の多い若手職員も増えて、今後は「職員への教育がいっそう重要」と強調した。
では、職員教育のキーワードは何か。それはJAそれぞれが掲げる理念であることも指摘された。
JA厚木市の井萱修己代表理事組合長(信用事業部門)は「組合員のためのJA」、「農を基軸とした地域に根ざしたJA」を掲げている。「利用者にJAのこうした考え方を知っていただく」ことを指摘し、信用事業でも単に金利の有利性をPRするなどの事業面ではなく「総合JAとしてのメリットをいかに理解してもらうか」が必要で、それがJA職員の課題でもあると話した。
農村部でも流通業が乱立し競争が激しいというJA愛媛たいきの梶谷昭伸代表理事組合長(一般文化部門)は購買店舗や直売所などを集約した総合センターを開設、直売所を「絆の里」と位置づけ、出荷者と消費者を結びつける場に。JA職員にとってもふれあいの場になっており、「教育は大事だが、いかに日ごろから組合員との付き合いを持つかも重要」などと述べた。
◆合併進展のなかで
組合員との関係をどうつくるか、という課題はJA合併を進めてきた結果でもあるとの指摘も出た。
JA高知はたの宮川昌弘元代表理事組合長(経済事業部門)は「合併して支所を統廃合。これはJAの都合だった。これでは組合員離れを防げない」と率直に指摘。第26回JA全国大会議案が打ち出した「支所機能の強化」について「組合員に理解されるには対話と心のふれあい。支所中心に組合員とともに歩む農協の将来をここで描けるかが問われている」と話した。
酪農専業地帯で北海道の生乳生産の1割を担うJA道東あさひは4JAが合併。旧JA別海の吉田達夫元参事兼務理事(営農事業部門)は、生乳生産という単一品目の産地のため、組合員のより負担減と職員のスキルアップで組合員の営農を支えることを目的に合併を推進した。
ただ、「4JAがひとつのJAになったと実感できるまで、総代会制ではなく総会制とした」と制度面でも組合員との関係づくりを配慮してきたと話した。
◆暮らしへの視点を
JAかみましきの梅田穰代表理事組合長(共済事業部門)は若手職員からの新聞記事の感想文提出を続けていると職員教育の一端を話したが、一方で平場から山間部まで品目もさまざまな地域が合併したことで「組合員に一体感をいかに持たせるか」も課題だと話した。 そのためJAの行事にいかに多くの組合員を参加させるかの努力が重要になっていると指摘。
同時に、中山間地域では公共共通機関も姿を消しつつあり「JAとしても食材や生活用品の宅配を始める」など支店単位でのくらしの活動の重要性が増していることも話した。
支店中心のJA運営についてJA小松市の西沢耕一代表理事組合長(共済事業部門)は「1支店1ふれあい運動」を実践していると報告した。「いかに組合員との絆を強化していくか。JAを理解してもらうためにも教育文化活動を重視しており、支店単位でふれあい座談会を開くなど、待っているのではなく出向いていく活動が大事」と述べた。
暮らしの活動や教育文化活動に、生活指導員として長く関わってきた食育工房・農土香代表の渡辺広子氏(福祉事業部門)は、農家らしい豊かな生活を、と組合員とともに取り組んできた自給運動は「結局、食卓をいかに自立させるか」に行き着いたといい、これは日本農業をなぜ守らなければいけないのかを訴える「農政運動でもあった」。
しかし、現在は教育文化活動、福祉活動、食農教育など「暮らしの活動も縦割りになって、それぞれの事業をこなすための事業になっていないか。横断的な視点と取り組みが必要」と強調した。
また、佐野厚生連の落合武代表理事理事長(厚生事業部門)はJAの介護や福祉事業と厚生連事業の連携がいっそう求められると同時に、最先端医療の提供を追求する一方で病院に農園を開設し病院食の自給と雇用の場の創出もめざすなど地域貢献への新たな役割も紹介した。
◆農を核に地域づくり
JAの暮らしの活動が重要だとされるなか、地域協同組合としてJAの役割が語られることも多くなっているが、地域の混住化が進むJA周南の金子光夫経営管理委員会委員長(信用事業部門)は「めざすべき姿は地域協同組合ではなく、あくまで地域農業協同組合ではないか」と“農業”が軸であることを強調した。地域の農業は小規模経営が主で消費者が多い。ただ、直売所にはそうした消費者が「JAの新しい利用者」として集まる。総合ポイント制度などでJAに関心を持ってもらうと同時に「利用者懇談会も開き、できるだけ地域住民の声を聞く」という。
その理由は「利用者視点に立つこと」。「地域の農業者に対しても利用者が何を求めているかを伝える。消費者あって自分たちがある。これも組合員との関係づくりでは大切」と話した。
JAみな穂の細田勝二代表理事組合長(経済事業部門)は米単作地帯であり組合員の世代交代が進むなか、新たな生産・販売戦略への取り組みが重要になっていると話した。米のブランド化と輸出への取り組み、同時にブルーベリー、黒豆、モモなど「とにかく米以外の作物にチャレンジしてもらい、プラスワンをつかんでいきたい」とし、販売面では6次産業化、所得向上につながる契約販売などを進めたいという。
◆引き継ぐ「農」とは?
JAの基盤は生産部会と強調したのはJAちばみどりの営農顧問で元農林中金本店参与の中川純一氏(一般文化部門)。「合併への批判もあるが生産組織をしっかりさせ、品目や組織の特性に応じたきめ細かい販売、供給体制をつくっていけばJAは貢献できる」。
「集落農場構想」を支店単位で進めてきたJAあいち中央の元常勤監事の安藤義美氏(一般文化部門)は支店ごとに営農組合を結成、担い手に一定の農地集約を進めて中核的な経営体づくりを図りながらも、兼業農家や女性、高齢者には野菜、花づくりなど“生きがい農業”に携わってもらって直売所に出荷してもらい、地域全体で農地を守る取り組みに関わってきた。多様な組合員とJAの関係をどう維持していくかも課題となる。
こうした“農”を基軸とした地域づくりが語られるなかで「農業とは何か」を問う視点も大切だとの意見もあった。
有機農業運動に携わってきたJA山形おきたまの遠藤周次元高畠ふれあいセンター所長(一般文化部門)は「有機農業は単に化学肥料、農薬を使わないことではない。
農業とは自然との対話、持続的な生存のために何が必要かを考えること」と指摘。
「自分たちの地域をどんな農業で持続させていくのかを改めて考える必要もあるのでは」と問題提起した。
(写真)地域特性を踏まえたJA運営の必要性も強調された
シンポジウム総括
次代へつなぐ協同
組合と組合員の関係性をどう構築するか?
三重大学大学院特任教授・石田正昭
◆問われる支店の機能
農協人は、たえず組合員のことを思って事業を組み立てている。いろんな取り組みを行い、沢山の情報も流している。ただし、それが組合員にどう受け止められているのか、その点の確証はない。
JAにいると分からないが、JAをやめて1人の組合員に戻ると、その落差の大きさを初めて知ることになる。心を打つものが少ないのである。次代へつなぐ協同、そのキーポイントはこの落差の解消にしかありえない。
簡単な事例として、第26回JA全国大会で打ち出されている地域農業戦略を考えてみよう。そこでは、1階部分を合意形成組織(集落または農家組合)、2階部分を担い手経営体に区分している。JAにとってこの発想自体が危うい。
というのは、担い手経営体への支援は営農センターの仕事である。支店とは関係なく、出向く営業というスタイルをとる。一方で、集落(農家組合)の事務局機能は支店にある。支店と営農センターの連絡協調がとれていればよいが、そうではないところが多い。
支店はもはやかつての支店ではない。JAバンク支店と呼ぶのがふさわしい。営農への関心や知識、農家組合との人脈が乏しい金融支店長が采配をふるっている。これでは農家組合長たちは支店と相談のしようがない。浮かばれないのは、営農センターからも、支店からも遠い存在となっている農家組合とそこにいる大勢の小規模農家である。彼らは、今般の「人・農地プラン」の押しつけに戸惑うばかりである。
◆くらしの相談窓口を
そもそも人と人が助けあって生きていくべき集落を、出し手と受け手という機能で分けること自体が間違っている。この発想からはもはや集落営農などという助けあい組織は生まれてこない。農地を利用権設定で貸してしまうと、農業者ではなくなり、正組合員の資格を失うことになりかねない。
こうなると、農協への関心はもとより農業への関心も薄らぐ。これは集落機能を出し手と受け手に分離させたことによる農協崩壊の始まりを意味する。
そんな農協をつくることは農協人の本意ではないはずだ。支店機能を金融特化型にするのではなく、営農とくらしの相談窓口、農家組合、女性部、青壮年部、助けあい組織などの組合員組織活動の拠点として整備すべきである。金融窓口もくらしの相談窓口の一部署として位置づけるべきだ。
◆農協固有の価値とは何か?
農協文化という用語があるとすれば、ただちに問題となるのは「農協固有の価値とは何か」という点である。人それぞれ意見はあるだろうが、今回のJA全国大会議案では「ライフラインとしての総合性」という提案がなされている。
これは、生活インフラ、衣食住、雇用、金融・共済、医療・福祉、健康、生活文化・教育、環境、防犯・防災、コミュニティ、家族・いきがいなどの面で、組合員の活動、農協の事業、さらには連合会の事業などを動員して、組合員ならびに地域住民の幸せづくりに取り組むことを提案している。
反農協論者や一部マスコミから、現に支店と営農センターが分かれているのだから、信用共済事業分離はいつでもできるはずだと攻撃されるのは目に見えている。そんな主張をさせないためにも、農協みずからが経済の論理に流されることなく、「農協固有の価値とは何か」を考え直す必要があるだろう。その検討の中から「次代へつなぐ協同」の具体像が見えてくると確信する。