◆先進地域の事例に学ぶ
今回のテーマにある「地域包括ケアシステム」は、高齢化が加速する日本社会がめざしていく姿として厚労省が掲げているもので、高齢者が住み慣れた地域の中で在宅による生活が送れる地域社会の実現をすすめている。
そのための課題のひとつに「在宅医療」の推進がある。1日目には「在宅ケアと地域連携をどうすすめるか」をテーマに長野県厚生連佐久総合病院副診療部長の北澤彰浩氏から長野県佐久地域の取り組みについて報告があった。
◆顔の見える関係づくり
佐久地域は訪問看護の充実によって全国的にも在宅医療が進んでいる先進地域だ。これが実現している背景には地域での連携した取り組みがある。
その事例として北澤氏が挙げたのは、地域の開業医や民間病院の医師など佐久医師会メンバー9人からなる「地域ケアネットワーク研究会」。ここでは在宅医療の普及を目的に、地域の医療を担う医師同士が「顔のみえる関係」を築くことで在宅医療のバックアップ体制をつくることなどを検討している。
もう一つはSCCNet(佐久コミュニティーケアネット)。これも「まずは顔の見える関係をつくろう」と発足したネットワークで、地域の医師や看護士、ケアマネージャーなど、在宅医療に関わる他職種同士が偶数月に1回、午後7時から集まってお互い気になっていることや地域で共有したいことなどを話しあっている。
在宅医療の普及にはそれに関わる他職種間の連携が重要となるが、「お互いの仕事内容がわからないと本当の連携はむずかしい」ことからSCCNetはまさに有効な取り組みで、今年は毎回90人近くが集まっているという。
2日目のパネルディスカッションでは、高齢化の進行で高齢者の要介護度が高まることは必至で職員の人数や技術の向上が今後求められるとして「厚生連と各JAがもつ機能をお互いが理解し、地域の中で認められる事業にしていくことが重要になる」というJA職員からの意見もあった。
また、自分のJAが行う介護保険事業を認知していないJA職員がいることも課題であるとして、介護・医療の連携と合わせてJA内部、さらには地域に認めてもらうための取り組みを考えていくことが大事とも指摘した。
◆住民主体で地域力を高める
また、在宅医療に従事する者同士の連携とあわせて北澤氏がとくに強調したのは「地域力を高めること」。
地域で在宅医療の普及をすすめていくうえで、地域住民に在宅医療の良さやそれに携わる職種の役割などを知ってもらうことも大切であるとして、住民が主体的に参加できる場づくりの必要性を示した。
オランダでは子どもから専門職まで誰もが参加できる「アルツハイマーカフェ」が全国に200カ所も展開しているのだという。実際に佐久総合病院でも住民が関心を持つ内容で身体や病気などの課題を考える機会として月1回、「がん哲学外来カフェ」を開いており、「気になっているけれどわからない疾患について考え、対等に話し合える場」を地域住民に提供している。
◆誰もが医療の担い手として
佐久総合病院の在宅医療に対する考え方は「その人が希望する場所でその人らしく最期まで生きることを支える医療」だ。
北澤氏は現在の医療の定義である「医術で病気を治すこと」から「その人らしい人生を過ごすために」、「最期までその人らしく生きられるために寄り添い支えること」に見直すべきだとして、「医療の民主化」を強調。「子どもが熱を出したとき親が子どもに寄り添うように、医師や看護士だけでなく地域のみんなが医療の担い手であることを自覚し、医療を身近なものに感じてもらうこと」が大事だとする。
こういった医療の民主化が在宅医療をすすめるうえで重要なことだとして、もともと「包括ケアシステム」の先行ともいえる地域に寄り添い、人々の暮らしを支えてきたJAの役割発揮にも期待した。
(関連記事)
・「地域社会のため、JA共済制度を守り育てる」 懇話会で今尾氏が講演 (2012.09.25)
・このままでは日本の医療が危ない 渡辺賢治 慶應義塾大学医学部漢方医学センター副センター長、診療部長、准教授―加藤一郎 ジュリス・キャタリスト代表 (2012.09.19)
・TPP参加に全面的反対 日本医師会 (2012.09.04)
・高齢者食宅配、2割拡大見込み 富士経済 (2012.08.14)