◆避けて通れない支店拠点化
研究会は、大妻女子大学教授の田代洋一氏がテーマ解題として「『支店を核に』の大会決定の課題」を報告した後、JA上伊那の下村篤常務理事が「JA上伊那、地域営農の実践」、JA周南の金子光夫経営管理委員会会長が「支所を核とした事業実施体制」を報告した。
田代教授はまず、「支店拠点化は基本的に適切だとしても、地域により農協により支店の態様は様々であること」や「単協の分化が激しく農協を一律に語れなくなっていること」を強調した。
それにもかかわらず農協が地域密着型の事業を展開していくためには、「支店拠点化は避けて通れない共通課題であり」、「農協の全組織・事業の再編が求められている」とし、そこでの問題点として4つ指摘した。
第1は「支店の地域範囲問題」である。
これまでの合併や支店の統廃合の歴史をみると藩政村(大字)、明治村(小学校区)、昭和村(中学校区)、平成合併の自治体を超える郡農協までがあるが、今日のニーズに即し支店はいかなる地域範囲に位置づけられるべきか、が問題となる。
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上:あいさつする梶井会長
下:田代洋一大妻女子大学教授
◆経営資源の配分も課題
第2は地域のライフライン、地域農業振興の第一線としての「支店はいかなる機能・事業を備えるべきか」だ。
定年帰農を含めた営農支援機能やアウトソーシングが進められている生活事業などを支店拠点との関係でいかに再構築するか。また、支店長に与える権限と同時に支店を支える人材育成が課題となる。
第3は「本店・支店間、支店相互間の経営資源配分問題」である。支店要員の適正規模はどのくらいか。支店に重点配置した場合の本店機能をどうするか。また、連合会に求める機能などを考えると支店拠点化は農協系統組織全体にも大きなインパクトを与える可能性があるという。
そして第4として首都圏生協ではユーコープ、コープネットなど超県域巨大単協を組織しているが、同じ協同組合として農協が支店拠点化を打ち出す意義を明確にする必要がある、ことを指摘した。
◆行政と一体で農業振興―JA上伊那
JA上伊那の下村常務の報告では、とくに地域農業振興への取り組みを中心にいくつかの特徴が紹介された。
その一つは地域農業の要としての市町村営農センターが設置されていることである。このセンターは市町村自治体、農業委員会、農業改良普及センター、農業共済組合などと農協が共同で設置しているもので、管内8市町村に存在している。
こうした行政との一体的な推進体制により農地利用調整も進み、平成23年度では全農用地面積の22.7%、農協分で11.2%が集積されているという。しかもこの農地集積には地図情報システムが活用されていることも注目される。
また多様な担い手育成対策も講じられている。その一つが農業インターン研修支援事業。これはおおむね18〜45歳を対象に、研修終了後10年以上農業を継続することを条件とし、研修期間中はJA上伊那のインターン雇員となり、毎月13万円が支給される制度である(経費は農協と市町村が折半)。平成8年〜24年までの間に65人が研修を受け、うち50人が就農している。
また、JA出資の農業生産法人の設立(子会社1、一部出資18)、農業アドバイザーの設置、営農資材の大口利用者対策をはじめ、平成21年には農業経営課も設置されている。
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JA上伊那・下村篤常務理事
◆創意ある地域農業振興ビジョン
地域農業振興ビジョンでも創意ある取り組みが行われている。
その1つは本所営農部を実践支援部署と位置付け、地区担当営農技術員、集落担当職員などを実践支援チームとして配置し、地区農業振興対策会議の定例開催などの体制がとられている。
ここでの注目すべき特徴は全職員が集落担当として出身集落に参画していること。もともとJA上伊那では平成21年より実施している農業開発積立金を活用して振興施策を拡大し、22年には地域農業振興ビジョンが策定されていた。しかし、その後の高齢化と担い手不足および農産物価格低下とコスト上昇のなかで、ビジョンの再構築を行い、地域に密着した農業生産と販売を目指している。
◆「地域支持率」でJA運営を検証―JA周南
JA周南の金子会長は、山口県は産業組合設立の功労者、品川弥二郎の出身県であることを紹介したうえで、現在のJA周南は都市型、中間型、農村型が混在する地域だと報告した。
したがって管内を5ブロックに分け18支所を設置しており、北(2支所)、西(4支所)、東(4支所)の3ブロックにはそれぞれ営農センターがあるが、中央西(3支所)と中央東(5支所)の2ブロックにはローンセンターが設置されているという。こうした地域の特徴を活かした事業運営体制としていることがJA周南の重要な特徴だ。
JAは基本理念に「信頼・貢献・改革」を掲げ、ビジョンとして「組合員の負託に応える経営」をめざしているが、このビジョンの進捗状況を「地域支持率」として指標化し、「見える化」して検証することで実現を図っていることも特徴だ。
この「地域支持率」とは既存利用者と新規利用者の農協利用状況および農協事業間取引の実態を指標化したものだが、これは事業推進に大きな力を発揮しているという。ただ、年齢別では若年齢層の利用率が低く、事業別では信用、共済にくらべると経済事業が極めて低いという実態にある。「利用者がいなければ組織の事業も経営も成り立たない」のは当然で、金子会長は「このまま何もやらなければ確実に負のスパイラル」に陥ると強く警告した。
同JAではこうした組織基盤の実態を改善するため第4次中期経営計画を策定するとともに、経営管理委員会などへの女性力の登用、直売所を起点とした総合ポイントサービスの導入をはじめ、「くらしの活動課」を新設した。
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JA周南・金子光夫経営管理委員会会長
◆先進事例に学んだ実践を
また、支所利用者懇談会を開催し組合員はもとより准組合員の意見も聞き、事業に反映させている。そして「地域協同組合としての地域支持率向上」、「多様なブロック・支所は当たり前」、「地域住民はすべて組合員」、「総合事業は縦割りから横断的に」を農協のめざすべき姿としている。
報告のあと質疑が行われた。支店・支所の現状についてJA上伊那では16支所のうち4支所は金融店舗で人員は6〜12人であることも補足説明された。その他の12支所は総合支所で20人以上が配置され、地区農業振興対策会議を定例的に開催し、その結果を4半期ごとに報告することになっているという。
一方、JA周南では地域格差があるため一律ではないが、支所が核となるためには一定の人員配置も必要で、そこでは採算性確保も重要な課題になるとの指摘もあった。
いずれにしてもこれまで農協組織は広域合併を基本方針とし支所の統廃合を進めてきただけに、「支店を核に」の方針には様々な問題がある。こうした問題については先進的な事例にも学びながら克服していくことが大会決議の実践であり、それが農協組織に求められていることが研究会では強調された。
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