土壌の反応と緩衝能
1.土壌の反応(pH)と緩衝作用
土壌が酸性またはアルカリ性の程度を表現するのにpHが用いられる。pHは水溶液中の水素イオン濃度の指数で、1〜14の値で示される数値であるが、7程度を中性域、7から小さくなる程酸性、大きくなる程アルカリ性となる。土壌のpHを下げる要因は、土壌コロイドに吸着保持される交換性水素イオン、交換性アルミニウムイオン、そして土壌溶液中に溶解している酸性物質(微量の硝酸、硫酸、塩酸、有機酸など)である。逆にpHを上げる要因は、石灰、苦土、加里、ナトリウムなどの塩基類であるが、アンモニア態窒素もpHを上げる要因である。
pHの測定方法には、水で抽出する方法と1M塩化カリ液で抽出方法がある。通常は水で抽出するが、塩化カリで抽出する場合は、活性アルミニウム由来も測定されるため、水抽出よりpHは低くなり、礬(ばん)土性(火山灰土壌のようにアルミニウムが多い)の高い土壌は差が大きくなる。通常の土壌のpHは水と塩化カリの差は0.4〜0.5程度であるが、ハウス土壌のように、硝酸態窒素が多くEC(電気伝導度)の高い土壌は硝酸の影響が大きくなるため、差が小さくなり0.2以下になることがある。このように、pHも二通りで測り、ECも測定すれば、水素イオン以外の要因でアルミニウムや硝酸態窒素が関係していることが分かり、現場での診断に活用できる。
また、図1に示したように、土壌のpHは土壌中の養分の溶解度と利用度に影響し、特に、りん酸と微量要素への影響は重要である。りん酸は酸性になると鉄、アルミニウムの溶解度が高くなり、これらと反応するため溶解度が低下し(りん酸の固定)、微量要素も土壌のpHに敏感で過剰・欠乏にも関係する。この図1の中の石灰や苦土は酸性域で溶解度が低くなっているが、石灰、苦土が少ないためにpHが低くなっているのであって、むしろ酸性になると石灰、苦土の溶解度は高まり、施用した石灰質肥料は溶解することになる。すなわち、pHが矯正されるわけで、逆にpHが中性を超え高くなると土壌中の石灰の溶解度は下がることを理解しておく必要がある。
表1に作物ごとの生育好適pH範囲を示したが、作物によってpHの適正範囲が違うことが分かる。作物ごとに改良目標値が設定されており、下回っている場合は酸性の改良のために、消石灰、炭カル、苦土炭カルなどの石灰質肥料が施用される。
2.陽イオン交換容量(CEC)
土性の項で土壌コロイドを形成する粘土と腐植の種類と量によって保肥力が異なることを説明した。土壌コロイドは、通常表面にマイナス(負)の荷電を持っておりプラス(正)の荷電を持つカルシウム(石灰)、マグネシウム(苦土)、カリウム(加里)、ナトリウム、アンモニアなどの陽イオンを吸着保持する。他の陽イオンと容易に交換できる陽イオンのうち水素イオン以外の陽イオンを交換性陽イオン(塩基)と呼んでいる。これらの交換性陽イオンの保持能力を陽イオン交換容量 (CEC)という。CECと塩基の関係は土壌診断にあって重要であるので、ここでは少し詳しく説明したい。
CECと交換性塩基の関係は、CECの分析法(ショーレンベルガー法という)を説明すればよく理解できる。図2はその仕組みを模式的に示したものであるが、計量した土壌を予め抽出液を入れたカラムに空気が入らないように詰め、pH7.0の1M酢酸アンモニウム緩衝液を一定量加え(通常は土:抽出液=1:10程度)、5〜10時間かけてゆっくりと流す。カラムの下からは、カルシウム(石灰)、マグネシウム(苦土)、カリウム(加里)、ナトリウムなど各イオンがアンモニウムと交換されて出てくる。これが交換性陽イオンである。カラムの中は、酢酸アンモニウムが残っているので、アルコールで洗浄し、土壌に吸着していないアンモニウムイオンを除く。最後に、1M塩化カリウム液を一定量、一定時間でカラムを通すと、土壌中に吸着されていたアンモニウムがカリウムと交換されて出てくる。アンモニウム(アンモニア態窒素)を分析し土壌100g当たりに換算し、更にNH4の分子量14で割るとmg当量(me)となる。これがCECである。100gの土壌が持つマイナスの手の数と考えればよい。
表2は土壌コロイドおよび土壌の種類別のCECを示したが、ベントナイトやゼオライトのようなモンモリロナイト系を母材とした土壌、腐植の多い土壌はCECが大きい。砂質の土壌や花崗岩のようなカオリナイト系を母材とした土壌はCECが小さい。
(前回はこちらから)
表2 土壌コロイドおよび土壌の陽イオン交換容量(CEC) | |
土壌コロイド・土壌の種類 | CEC(me/100g) |
カオリナイト | 3?15 |
ハロイサイト | 5?40 |
加水カスイハロイサイト | 40?50 |
イライト | 10?40 |
バーミキュライト | 100?150 |
モンモリロナイト | 80?150 |
アロフェン | 30?200 |
腐植 | 60?500 |
砂土 | 2?6 |
砂壌土 | 6?15 |
埴土(カオリン系粘土) | 15?20 |
埴土(モンモリン系粘土) | 30?40 |
火山灰土(腐植質) | 25?40 |
※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。
【著者】吉田吉明コープケミカル(株)参与 技術士