シリーズ

JAは地域の生命線

一覧に戻る

【拡大版】JAは地域の生命線―<北海道>「食料自給率1100% 日本の食料庫からの挑戦」

・十勝は1つ ネットワークで地域興しを
・なりゆき任せではJA離れは加速する
・1戸あたり平均1844万年  農業所得日本一
・協同と競争が共存する JAネットワーク十勝

 「十勝では地産地消なんてできません」。
 JA帯広かわにしの有塚利宣組合長がこう言うのも当然である。なぜなら、十勝の食料自給率は1100%もあるからだ。旧十勝支庁(現十勝振興総合局)が4年前にまとめた統計によると、管内人口35万人に対して、産出される農水産物や食料品は392万人分になるという。
 十勝全体の耕地面積は25万5200haで、ほとんどが畑地と草地だ。農家1戸あたりの平均耕地面積は約39haで、全国平均の24倍になる。農業従事者は約2万人。農業産出額の2460億円は岩手県全体とほぼ同じで、県別ランキングにあてはめても11位に入る。さらに農業の流通、加工、販売などが地域に及ぼす経済効果は2兆円を超えるとも試算されている。農業が地域の経済基盤であり、まさに農業によって成り立っている地域だと言える。
 農家組合員の生活と営農を守るため、ひいては地域全体の発展のためには、地域だけでは消費し切れないこの農産物を外に向けて販売しなければならない。いかに販路を確保し、付加価値を付けて高く売るか。JAに課せられた使命、地域からの期待に、「地域のネットワーク化」で応えている十勝地方2JAの取り組みを伝える。

十勝は1つ ネットワークで地域興しを

対談
有塚利宣氏・JA帯広かわにし代表理事組合長
山本勝博氏・JA中札内村代表理事組合長・十勝農協連会長

◆経済的理由での離農者は絶対に出さない


有塚利宣氏・JA帯広かわにし代表理事組合長 今村 両JAとも本来農協がやるべき仕事、つまり組合員の所得向上と生活安定のための活動をしっかりやっている。それを全国に発信するとともに、JA帯広かわにしの有塚組合長とJA中札内村の山本組合長にそれぞれ、「JAはこうあるべき!」という路線を示していただきたいと思います。
 有塚 私は昭和の初めからいる人間ですが、現在を想うと、あらゆる困難を乗り越えた幸せを感じます。昔は統制物資だったから、農業やっても食べものがなく、お金も肥料も農薬も物資もない。農業はそういう時代にすごい壁を乗り越えてきましたから、また高い壁がそびえ立とうとも乗り越えられると思うし、そういう想いを若い人たちと共有したいと思います。
 山本 私は3年間非常勤理事をやった後、すぐに組合長になって、今年で9年目です。組合長になってまず最初に考えたのは、経済的問題による離農者を絶対に出したくない、ということです。そのためにはJAで生産・加工・流通・販売を一手に引き受けて有利販売をしなくちゃいけないと思いました。JA中札内村はわずか173戸と小規模ですが、1戸あたりの平均所得は北海道平均の633万円に対して1844万円です。昨年の粗生産高はついに目標の100億円を超えました。これからも安定して100億円以上の生産を出すにはどうすればいいかを考えていきたいと思います。

 


◆加工・流通・販売を一手に

 

山本勝博氏・JA中札内村代表理事組合長・十勝農協連会長 今村 どちらのJAも私の言ってきた農業の6次産業化、特に農産物の加工・販売に積極的ですね。JA帯広かわにしは特産の長いもをどう加工し販売するかが問題だったのでは?
 有塚 バブル崩壊前までは、帯広市近郊は非常に地価が高かったんです。だから、土地を買って規模拡大しても採算が取れないので、高収益の作物は何かないかと色々な作物を試して、残ったのが長いもとアスパラガスでした。
 長いもはとても病気に弱い作物なので、自分のほ場は大丈夫だけど隣が病気だらけというのではどうしようもない。だから生産者同士の高い共有意識が生まれ、強力な生産組織となって日本農業賞の天皇賞まで頂くことができました。ここまできたなら、NASAの精神に則って安心安全なものを作って地域・産地間競争を勝ち抜こうとHACCPに取り組み、販売戦略を推進したわけです。HACCPの価値観は、ブランドづくりに大きく貢献したと思います。
 今村 長いもを保護するための“おがくず”。これは一目見て触っただけで、苦心があるなと感じましたが……。
 有塚 HACCPは絶対に異物が入ってはいけないので、普通の木工所から出るようなおがくずではダメです。3社の専門工場と契約して、新鮮な香りを保ち、見映えがよく、適当な水分がある、などの細かく決めたマニュアルに沿ったおがくずを特注しています。
 今村 おがくず自体を食べるわけじゃないのにオーダーメイドというのはすごい。中札内のえだ豆工場も近々HACCP認定を得ることになっていて、非常に安全性を徹底して効率的ですね。そもそもなぜえだ豆なんですか。
 山本 中札内村の気象は寒暖の差が大きく、えだ豆生産には非常に適しているということで、平成4年からJAで取り組みを始めました。当時、3億3000万円をかけて、約250tほどの小さな工場を建てたんですが、平成16年度まで1回も黒字にならず、毎年1000万円以上の赤字が出てました。どこが悪いかって言ったら、売り先がなかったんですね。それで私が直接、東京や大阪に行って売り歩きました。
 販売で一番自慢できるのは学校給食用の冷凍むきえだ豆です。えだ豆の炊き込みご飯が子どもたちに大人気で、長崎県から始めたものが、今では32府県に広がりました。ただ、むきえだ豆の生産はどんなに頑張っても1日1.5tぐらいが限度なので、今年はフランスからほ場でさやを剥いて収穫できる機械を試験的に仕入れました。なんとかうまくいって、増産につなげたいと思います。
 今村 まさにトップセールスですね。ところでえだ豆は獲ってすぐ、マイナス196℃で瞬間冷凍しているそうですね。
 山本 液体窒素を使った瞬間冷凍で鮮度を保っています。収穫から加工まで3時間で仕上げています。ただ、液体窒素はコストが高くて、約1カ月半ある収穫時期だけで3億円ぐらい使うんですよ。中札内村のえだ豆が高いのは液体窒素の値段です(笑)。
 今村 長いももえだ豆も、自分の管内だけじゃなくて近隣の他所のJAからも受け入れている。大変優れたシステムだな、と感心しました。
 有塚 元々、長いもは春に植えて、秋に掘って、冬に食べるという季節野菜です。市場からなくなると暴騰、収穫すると暴落、という農産物だったので通年出荷が求められてきました。外食産業や量販店などの大きな需要に応えるためには、相当量のロットが必要ですが、それは1JAではできません。だから近隣のJAに呼びかけて、今では十勝管内の8農協で1万9000トンという全国にも類をみないロットを確保しています。
 山本 中札内村の生産者も、長いもはすべてJA帯広かわにしさんに頼んでいます。逆にえだ豆はJA中札内村でまとめて加工販売するという形でお世話になっております。

 


◆工場職員は定年なし、資格あり


 今村 地域興しという点では、JA帯広かわにしの主導で十勝にカルビーを誘致したのも大きいと感じます。
 有塚 これは農商工連携で、行政と商業資本と生産現場が一体になった産物です。カルビーさんには帯広市内に会社を設立してもらって、製造工場はJAからジャガイモを通年出荷する倉庫と屋根を繋げました。行政にも主に工場の水まわりの環境対策などでお世話になりました。
 今村 多くの場合、JAや組合員は、企業と取引すると食い物にされてしまうと不安がありますね。しかし、生産はJAや農家が誇りを持ち主体性を持てばできるんだ、ということを考えてほしいですね。
 有塚 大事なのは生産者と企業との信頼関係です。青果物は固定相場がないから、こちら側には、高い時は他所に売って、安い時だけカルビーさんに出すという選択の自由もあります。しかし、そういうことは絶対しません。一方、JAや生産者側に食品製造のノウハウはまったくありませんから、工場への原料供給は我々の責任、おいしく加工して付加価値をつけて売るのはメーカーの責任、とお互いの役目を最大限に果たしています。
 今村 両JAとも加工場を通年稼動し、地域の雇用を創出していますね。
 有塚 うちは人材派遣会社と契約していますが、毎日違う人ではなく決まった人を雇いたいということで取り決めをして、能率給も出しています。定年もないので、まさに終身雇用ですね。
 今村 一般的に工場というと、人件費を浮かすために日雇いでどんどん人が変わりますが、しっかり人を固定して技術や資格を持たせているのには非常に感心します。
 山本 うちも定年は決めてないので、体力に自信があれば70歳を過ぎても働けます。工場従業員もJA職員として雇っているので、基本的に全員に資格を取ってもらっています。

 


◆JAが村民を増やす


 今村 中札内村は、村としては全国的にも珍しく人口が増えてますね。JAが人口増にも寄与しているのでは?
 山本 JA中札内村では原則、職員は中札内村に住むこととしています。村の人口は4100人ですが、JA職員だけで、家族を含めると350人以上はいるんじゃないでしょうか。職員採用には毎年、道内外から80人以上の応募があり、今年も大学院修士を含む7人の大卒者を採用しました。
 今村 やはり地域興しに必要なのは「人」、人材育成は大きな課題です。山本組合長は講道館柔道の七段を持っておられますが、「礼に始まり礼に終わる」の精神が職員教育にも影響を与えているんじゃないですか。
 山本 自分が組合長になって驚いたのは、職員の多くが茶髪で、ネクタイも締めていないってことでした。これはとんでもない!と、まずは身だしなみをしっかりさせました。
 JAには5つの直売所がありますが、これも職員教育の一環です。固定の職員を決めずに、1週間ごとのローテーションで信用部も畜産部も部長も課長も若い人もみんな交代で店に立たせます。そうやって、あいさつの仕方、JAや地域の特産品の売り方と紹介の仕方などを学んでいます。

 


◆地域特性ある営農事業を生かすために


 今村 私は「多様性の中にこそ真に強靭な活力が育まれる。画一化の中からは弱体化しか生まれてこない。多様化を真に生かすのがネットワークである」という信念を持っているんですが、十勝は各JAの特性を活かしつつJAネットワーク十勝を作り、これはまさに「わが意を得たり!」と感じています。設立の経緯を教えてくれませんか。
 有塚 JAは地域農業に携わる組合員の生活と経営を守る砦です。十勝管内でも、海岸部、山岳地帯、都市近郊、平野部ではそれぞれ気象も特性も違いますから、一括りの十勝営農というのはできません。十勝には開拓して130年の歴史があり、それぞれ地域特性を活かした農業を展開して組合員を守ってきたわけですから、営農指導を合併するわけにはいきません。しかし営農はダメでも、経済は合併した方がうまくいくのではないかと、財務体質を改善して地域に貢献し、農畜産物を含めて流通コストの削減をめざしてネットワーク化したわけです。究極的には十勝は1つ。誤解を受けるかもしれないけど、十勝の農協は1つなんですよ。
 山本 私はJA合併の反対論者ではありません。今はネットワークが非常にうまくいっているので必要ありませんが、将来的に合併が必要な時があれば、組合員ともに検討したいと思います。
 今村 合併で個性のあるJAの顔をすべてのっぺらぼうにしてはいけない、と。
 山本 十勝は酪農地帯、畑作地帯など色んな顔がありますから、それを合併することでガラッと一まとめにするのはよくないことです。ただ、ネットワークをつくって「十勝は1つ」という方向性を出すのは非常にいいと思います。
 今村 ネットワークの典型例が広尾港のサイロですね。ほかにも馬鈴薯、野菜、酪農なども色々と協力してますね。
 山本 農協サイロは30年の歴史がありますが、十勝管内の農協にとっては非常に良く有効利用しています。これも一つの合併の形ではないでしょうか。
 今村 機能合併ですよね。機能がよくなるなら合併してもいいけど、組織を合併してはダメだと感じます。今日はお二方に会えて本当によかったです。ありがとうございました。

 


北海道に見るイノベーションの推進

 光り輝くJAは自らの基盤とする地域農業を踏まえて、多彩なイノベーションを、JAの役員、職員、生産者である組合員が一体となって、それぞれの持ち場で進めている。私の言うイノベーションとは次の7つの分野にわたる。
 (1)人材革新、(2)技術革新、(3)情報革新、(4)販売革新、(5)経営革新、(6)組織革新、(7)地域革新。
 それぞれについて解説するいとまはないが、私の訪ねたJA帯広かわにし、JA中札内村の組合長をはじめとする役員、JAの各部門の職員、そして地域農業を支え発展させている組合員が一体となって、この7つの革新の課題に、それぞれの立場から全力をあげて取り組んでいる姿を見ることができた。
 北海道十勝の畑作農業、戦前の入植からの歴史、そして戦後の苦難の歴史が長く続いた。しかし、その苦難を乗り越え、自らの地域の内包する数々の宝を掘り当て、磨きをかけ、そして先に述べたような農業の6次産業化の推進を通じて、日本最高とも言える豊かな地域に育てあげたのである。その先頭に立ったのがJAであり、まさに「JAは地域の生命線」というにふさわしい。その苦難の道を7つの分野にわたるイノベーション(自己革新)を通じて成し遂げ、今の姿が出来あがったのである。しかし、イノベーションは瞬時も止まっておらず、恐らくこれからも更なる展開をみせてくれるものと思う。
今村奈良臣

(関連記事:今村奈良臣教授の総論

 

◆  ◆  ◆

 

現地ルポ
JA帯広かわにし編


なりゆき任せではJA離れは加速する


◆長いもは逆境からの克服

長いも、ジャガイモ、小袋豆など、JA帯広かわにしの特産品 JA帯広かわにしの長いも(ヤマイモ)は、「十勝川西長いも」のブランドで国内だけではなく世界中に輸出され、地域を支える特産物になっているが、作付けが始まったのは昭和40年頃と比較的最近だ。そのきっかけは、逆境からの克服だった。
 十勝地域で最もポピュラーな豆類、とくに大豆については36年の輸入自由化以降、価格が暴落し、豆類作付の多い十勝では離農者が急増した。さらにオイルショック以降の地価の上昇も手伝って規模拡大が困難なため、高収益な作物への転換を検討し、目を付けたのが長いもだった。
 十勝川西長いもは46年、旧川西農協で1.5haの作付けで始まった。
 長いもは非常に病気に弱い。増殖率も5倍ほど(例えばジャガイモは20倍)と低いため、優良無病な種イモの生産には長い時間が必要だ。JAの試験ほ場、種子専門農家らによる4年間の隔離栽培と生産者の自家増殖などを経て、出荷品が育つまでには実に6年の歳月を要する。種イモの生産システムが確立した50年代中頃から本格的に産地形成がすすんだ。
 長いもは連作障害が生じ易いため、畑作4品目、飼料作物、野菜などを交えたしっかりした輪作体系が必要だが、JAは経営規模に応じた標準輪作体系を定めて、キメ細かい営農指導を行っている。
 生産量と販路が拡大するとともに、1JAだけでは需要に対応できなくなったため、近隣のJAも巻き込みながら発展した。60年には隣接のJA芽室町、JA中札内村を併せた3JAによる「十勝川西長いも運営協議会」が発足し、平成18年には「十勝川西長いも」の名前で地域団体商標を登録。19年には帯広市川西長いも生産組合が日本農業賞の天皇賞を受賞した。
 現在はさらにJA足寄町、JA浦幌町、JA新得町、JA十勝清水町、JA十勝高島が加わり8JAとなり、作付面積は487ha。生産量は1万9000t(平成20年産)と全国最大規模の産地となった。

(写真)長いも、ジャガイモ、小袋豆など、JA帯広かわにしの特産品

 

◆HACCPがもたらしたさまざまな影響

 「十勝川西長いも」がユニークなのは、8JAで収穫した長いもをすべてJA帯広かわにしが一元集荷し、調整・流通・販売を一手に引き受けている点だ。
 その拠点が別府事業所にある国内最大規模の「長いも洗浄選別施設」である。
 長いもの集荷から洗浄、選果、箱詰め、冷蔵、出荷までを効率的に行い、処理能力は1日75t。鮮度を保ったまま冷蔵することで通年出荷を可能にし、年間通して安定した価格を維持できるようになった。
 また、この施設は野菜工場としては世界初となる食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」認定を取得している。
 HACCP認定は付加価値を高め、有利販売に繋げる以上の効果があると有塚組合長は言う。HACCPの基準を満たすためには、常日頃から非常に厳しい衛生管理体制と細心の注意が必要なので、「職員同士の連絡、礼節、仲間との一体感、プロ意識、責任感などが強くなり、現場の作業従事者同士、職場の雰囲気も非常によくなった」。
 また、HACCPは食品に触れるあらゆるところに配慮しなければならない。
 同JA農産部長役で別府事業所長の常田馨さんが大変苦心したのは、長いも自体の生産・管理工程もさることながら、輸送用の緩衝保護材である”おがくず”の研究開発だという。
 おがくずもHACCP基準に従って、衛生管理、残留農薬検査をパスしなくてはいけない。また、長いもの水分をおがくずが吸って鮮度が落ちたり発芽するのを防ぐため、水分を60%に保つほか、粗さ、香り、コスト、見栄え、色などを綿密に計算し、厳選したエゾマツ・トドマツを原料にした特注おがくずを地元企業に発注している。
 十勝は古くから産学官の連携が強く農業のクラスター作りが進められてきたが、まさにこのおがくずは「学問の知恵の結集。機械工学の粋を結集した逸品」だと胸を張る。

◆輸出で所得向上・安定化

HACCP認定を受けた、別府事業所の長いも工場 今でこそ世界中に輸出されている「十勝川西長いも」だが、有塚組合長は「元々、長いもを外国に出すなんて考えていなかった」と語る。
 きっかけは、品質の良いものほど安く扱われるという矛盾だった。
 日本の家庭が核家族化の進展など、少人数化するに伴い、大きくて太いサイズはカットしなければ市場流通に乗らなくなってしまった。元来は最高品質であるハズのものが、規格外品としてカットされ安価で取引されているという状況を打破しようと平成11年(1999年)、薬膳料理の食材として重宝され大きいほど好まれているという台湾への輸出を始めた。
 初年度は200tほど出したが、すぐに台湾で広く流通していた安価な中国産を凌ぐ人気となり、2年目には3倍の600tに増え、20年には1600tを出荷した。今は世界各国とFTAを結んでいるシンガポールを通じて、北米、ヨーロッパなど世界中に出荷されている。
 輸出の効果は数字で見ると明らかだ。
 輸出を始める前までは、10aあたり収入が60万円前後で豊作時には30万円ほどまで暴落することもあったが、海外に売り先を伸ばしてからは大豊作になった16、17年でも同40万円以上を維持し、不作の年には同100万円を超えるなど、平均収入は2割も増えた。また規格による価格格差も縮小した。
 国内販売用は従来から青い箱で販売していたが、輸出用段ボールは国内用に比べて輸送時間が長いため、強度を高める必要があり、その分、印刷費を少しでも安く抑えるため白にした。
 同工場の選果費用は大量集荷のスケールメリットにより、他所の一般的選果場に比べてトータルコストが3割程度低く抑えられているという。
 「1ケース10円でもいいから、いかに経費を安くするかを常に考えている。なりゆき任せでは、みんなJAから離れていってしまうから」と話す有塚組合長。
 とかく「十勝は規模が違う」「条件がよい」と言われるが、決して恵まれた条件に胡坐をかいているのではない。その中でいかに組合員の手取り向上と生活の安定を実現できるかを模索している。組合員のため、ひたむきに取り組むJAの姿がそこにあった。

(写真)HACCP認定を受けた、別府事業所の長いも工場

 

JAの概況

◎組合員数:1万310人
(正組合員832人、准組合員9478人)
◎職員数:195人(パート含む)
◎販売品販売高:約175億6000万円
◎購買品供給高:約105億4000万円
◎信用事業(貯金高):約790億円
◎共済事業(長期共済保有高):約1853億5000万円
(以上、21年度)

 

 

◆  ◆  ◆

 

JA中札内村現地ルポ
JA中札内村編

1戸あたり平均1844万年
農業所得日本一


 JA中札内村と聞いて、すぐに「えだ豆」を思い浮かべる人はあまり多くないだろう。しかし中札内村のえだ豆は、作付面積580ha、生産量3500t(22年)と、だだちゃ豆で有名な山形県鶴岡市にも匹敵する生産量を誇り、全国的にも類を見ない産地である。
 収穫した枝豆の9割以上が「そのままえだ豆」(1パック300g)の商品名で、鮮度の高いおいしい冷凍えだ豆として、全国の量販店や外食店などに流通している。
 同JAでは、えだ豆を小麦、てんさい、馬鈴薯、大豆に次ぐ畑作“第5品目”として増産に力を入れている。

◆えだ豆事業は12年連続の赤字続き

 中札内村のえだ豆は昭和59年に、3人の農家が手もぎ収穫で始めた。当時は生産量がたった3t。試験的な栽培だった。
 JAは平成4年、3億3000万円をかけて冷凍加工場を新設しえだ豆事業に参入した。生産者は枝豆をJAに出し、JAが加工から販売まで一手に引き受ける、まさに農業の6次産業化の実現だったが、思うように作付けは拡がらず、40haほどで頭打ち。事業は毎年赤字だった。
 山本勝博組合長は、一生産者としてえだ豆を作っていた時は効率のいい作物だと思っていたが、組合長になりJA事業の状態を知って大変驚いたという。
 「なぜ、黒字にならないか。とにかく売り先がないからだ」と考えた山本組合長は、職員が販売や商談会に参加しても「検討します」となかば門前払いされるの見て、それなら組合長が直接行って話だけでも聞いてもらおうと営業活動に励み、大手外食店や量販店と次々に契約していった。

◆徹底した指導で生産者の意識を高める

フランスから試験的に取り寄せた大型ハーベスター。ほ場でえだ豆のさやを剥きながら収穫できる 販売先があれば、増産に踏み切れる。
 17年にはより鮮度の高い冷凍えだ豆を作りブランド力を高めようと、10億円をかけて工場を増改築するとともに、フランスから1台5200万円もする超大型ハーベスターを購入し、1日60t以上の効率的な収穫を可能にした。21年にも20億円を投じ、さらに工場・冷凍施設を増築している。
 加工場は収穫してから3時間で加工し冷凍保存する。選別から、塩度13度で3分30秒の塩ゆで、液体窒素を使ったマイナス196度の瞬間冷凍、JAオリジナルだけでなく契約者ごとに異なるパッケージでの袋詰めまで全自動ライン化されており、畑で獲ったそのままの色での商品化を実現した。
 工場増築に伴い作付面積も拡大。16年には50haほどだったが、17年には140haに。その後も毎年40〜120haほど拡げ、一大産地を形成していった。
 作付け面積の拡大に伴い、営農指導の役割も高まった。
 「生産者が責任を持ってつくるためには、JAが徹底した営農指導をしなくてはいけない」(山本組合長)との言葉通り、畑作4品目と飼料作物などで4〜5年の輪作体系を維持しつつ栽培面積を増やせたのは、JAの指導と計画によるところが大きい。隣接のJAで作付けされている分も併せ、5月初旬から6月中頃まで1カ月半ほどタネまき時期をずらして計画的な作付けもしている。
 数年前にえだ豆から残留農薬が検出された時、その生産者がつくったものは何一つ出荷を許さなかった。多少厳しくても、そのことで組合員に高い協同意識と確かな生産意欲を持ってもらうことができたという。
 JAが本気になれば、生産者の意識も変わるということだ。

(写真)フランスから試験的に取り寄せた大型ハーベスター。ほ場でえだ豆のさやを剥きながら収穫できる

 

◆組合員のため、組合長はセールスマンに

 山本組合長は、「組合長自らが組合員のためセールスマンになり、売り先を探し歩くのは当然」と言うが、その好例がえだ豆の輸出事業である。
 21年に渡航したのは香港、ロシア、台湾、タイ、シンガポールなど。22年3月には中近東のドバイ(UAE)の商談会にも赴き、輸出の確かな手応えを感じたという。
JA中札内村が販売するえだ豆加工品の数々。一部は通信販売でも購入ができる。 モスクワには350店舗以上の日本食レストランがあり、そこでは東京の築地から中国産やベトナム産のえだ豆を仕入れていた。ロシアの商談会に日本の企業・団体トップで唯一参加した山本組合長は、試食用に60kgのエダマメを持っていったところ大好評で、早速取引が始まった。「まだそれほど量は出してないが、今、ロシアでは日本食がブーム。今後は安定した輸出先になりそうだ」と期待している。
 ドバイでは以前から台湾産のえだ豆がかなり大量に出回っていたが、中札内村産のえだ豆は「味がまったく違う」と好評価をもらい、すぐに出すようになった。アメリカへの販売もロサンゼルスのすし店などを中心に19年から輸出している。
 販売面では加工品の存在も大きい。
 規格外品や、選別途中でキズがついたりもれたりしたものは、ペースト状にするなどして加工材料として活用している。
 JAの直売所に行くと、甘納豆、ようかん、ソフトクリームなどの菓子類から、みそ、そうめん、インスタントスープ・カレー、コロッケなどあらゆるえだ豆商品が並んでいる。
 特に地元の乳製品メーカーと協力して作った「えだ豆アイスクリーム」は、むきえだ豆がごろごろと入り、えだ豆のそのままの香りと味が上品なアイスの味と絶妙に絡み合っておいしく、食べ応えもある。「えだ豆焼酎」は、4年前の発売初年度に年間1万2000本を達成した人気商品で、今年からデザインを一新しさらなる販売拡大を狙っている。

(写真)JA中札内村が販売するえだ豆加工品の数々。一部は通信販売でも購入ができる。

 

JAの概況

◎組合員数:870人
(正組合員222人、准組合員648人)
◎職員数:176人(工場職員含む)
◎販売品販売高:約76億2000万円
◎購買品供給高:約25億円
◎信用事業(貯金高):約193億円
◎共済事業(長期共済保有高):約147億6000万円
(以上、21年度)

 

 

◆  ◆  ◆

 


現地ルポ
十勝農協連編

協同と競争が共存する
JAネットワーク十勝

◆十勝ならではの合併構想への回答

十勝農協連 平成6年の北海道農協大会で「新・JA合併構想」が策定された。当時237あった道内JA数を37に統合することが目標で、そこに「十勝1農協構想」が盛り込まれた。
 しかし、十勝のJA事業は営農・経済事業が大きなウェイトを占めており、「十勝1農協では各JAの特色がなくなる、組合員に密着した営農事業が停滞する」などのデメリットがあると判断し、「十勝1農協構想」実現への動きはなかった。
 協議が始まったのは構想策定から6年後の12年だ。検討委員会も設置したが、当時、JA合併に異論を唱えていた國學院大學の故三輪昌男教授のもとを十勝の全組合長が揃って訪問し、「合併ではなく、それぞれのJAの個性を活かしたネットワークをつくろう」という基本路線が決まった。
 こうして翌13年、24JAと十勝農協連からなる協同組織「JAネットワーク十勝」が誕生した。
 ネットワークの目的は、▽各JAの財務体質の強化、▽スケールメリットを活かしたJA間共同事業による生産性の向上とコスト削減、▽十勝1JAの基盤づくり、だ。
 基本精神の中には、「十勝の『自主独立とパイオニア精神』を大切にし、互いに競い合うことで生まれる協同の精神と力を強固なものに育てる」とある。
 つまり、将来的には十勝1JA構想の実現をめざすものの、現状では協同できる部分は結束し、それ以外の部分では切磋琢磨しながらお互いを高めあっていこうという、協同と競争をバランスよく配置した自己責任的組織なのである。
 ネットワーク内で、財務健全化基準の統一、共通顧問税理士の採用、事務用品の一括発注などをすすめ、各JAの財務基盤は大幅に改善された。
 一方、JA帯広かわにしの長いも洗浄施設など各JAの保有施設の共同利用、十勝農協連事業の利用推進などにより、合併反対の最大の理由であった営農・経済事業にも大きな効果をもたらしている。

 

◆十勝小麦を集約する国内最大のサイロ

 十勝のJAネットワークを象徴する協同事業が、小麦の集荷と十勝港の巨大なサイロである。牧草を除けば十勝最大の作付け品目である小麦だが、20万t以上ある生産量の大半は十勝港(広尾港)にある十勝港広域小麦流通センター(農協サイロ(株))に集められる。
十勝港(広尾港)の農協サイロ。今年さらに増設し、圧倒的な大きさだ 小麦は各農家が収穫すると、個人施設または共同施設で予備乾燥が行われ、その後、各JAの乾燥施設に移して、大型施設で乾燥し、製品と屑にわける調整選別が行われ、一時保管される。その後、JA施設から北海道外の製粉工場に出荷するものは、農協サイロに集められる。
 農協サイロはJAネットワーク十勝ができるよりも以前、平成元年にホクレンと十勝25JA(当時)の共同出資で設立した。
 総工費25億2000万円。直径7.8m、高さ33.1mで1000t収容の円筒型サイロ50基を並べたその大きさは、産地が持つ小麦サイロとしては国内最大級である。さまざまな商系の大規模倉庫やホクレンの施設などが集まっている十勝港でも、その大きさと迫力は目を見張る。
 その後も、安定して高収量を得られる新品種「ホクシン」の導入や作付けの拡大などでさらなる収容能力が求められるようになり、11年に1万5000t増設、18年に2万5000t増設した。さらに来年からはホクシンに代わる新品種「きたほなみ」が全域で導入され、さらなる増産が期待されるため今年2万7000tを増設し、来年には収容能力11万7000tになる。十勝小麦の物流拠点として、今後もその運営に期待がかかる。

(写真)十勝港(広尾港)の農協サイロ。今年さらに増設し、圧倒的な大きさだ

 

◆産学官連携でブランド・高付加価値化

 十勝は、JA同士の協同だけでなく、古くから農商工・産学官連携などによる農業のクラスター作りが盛んに行われてきた。現在、その拠点となっているのが(財)十勝圏振興機構、通称「とかち財団」である。
 とかち財団が設立されたのは平成5年8月9日。基本財産は12億7000万円。北海道、十勝管内の市町村、JAおよびJA関係組織、民間企業など合計117団体が拠出し、地域産業を支えるための研究開発を行っている。
 同敷地内にある地域食品加工技術センターでは、農水産物の加工を中心にさまざまな研究開発を行い、ブランド・高付加価値化、安心安全の取り組みを支援している。
 十勝は、本州に比べて加工技術が遅れているといわれる。なぜならそのままの状態でも充分売れてきたため、加工する必要性がなかったからだ。しかしこれからは、生鮮だけではモノが売れない時代になる。とかち財団の研究にかかる期待とその役割はますます大きくなるだろう。

十勝農協連の概要

 昭和23年、北海道全域を掌握する連合会の他に旧支庁単位で、農畜産の生産指導を主な業務とする連合会が設立され、そのうち十勝地区が最も活発に事業を展開している。それが「十勝農協連(十勝農業協同組合連合会)」である。
 現在、十勝地区19市町村で24の総合JAが加盟し、農産・畜産の生産指導の他、種苗供給、微生物資材などの開発・普及、病害虫検診、土壌・飼料・生乳の分析、残留農薬検査、化成工場、電算情報システムなどを主な業務としている。

【著者】<北海道>

(2010.10.27)