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JAは地域の生命線

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【特集・拡大版】明日の日本農業を拓くために―「地域の生命線」をJAの哲学に  今村奈良臣(東大名誉教授)

・ボトム・アップで6次産業化を推進
・直売所が突破口
・断固合併せず健闘

 今村奈良臣東大名誉教授が現地を訪ね本紙記者のレポートとともに各地のJA役職員のJAづくりを伝えるシリーズ「JAは地域の生命線」。今回は特集「明日の日本農業を拓くために」のなかで拡大版を企画。北は北海道から南は沖縄、そして本州は静岡を訪ねた。
 もちろん地域条件や歴史は異なるが、各地のJAづくり、地域農業振興に資すれば幸いである。今村教授は「JAは地域の生命線という理念・哲学が問われる」と強調している。

日本列島の両極と真ん中を見る

山本JA中札内村組合長(左)有塚JA帯広かわにし組合長(右)と今村教授 日本列島は南北に長い。北の北海道と南の沖縄諸島とでは、農業の姿も全く異なり、作物は当然のことながら違う。しかし、その農業を支え、組合員の内発力をかきたて、地域農業と農村を守る努力を重ねているJAの実像は、これまでほとんど全国に向けて紹介されてこなかった。
 そこで、北海道十勝平野の2つのJAならびに十勝農協連合会というJAのネットワーク活動を取り上げ、農業の6次産業化の推進の姿を描き、他方で49の有人島のある島々からなる沖縄のJAを取り上げ、比較・考察することにした。これに加え、本州中央にあり、JA合併の嵐の中で小さいながらも断固合併せずわが道を行くJAみっかびをこれらに配して、「JAは地域の生命線」ということを浮き彫りにすることに努めた。

(写真)山本JA中札内村組合長(左)有塚JA帯広かわにし組合長(右)と今村教授

 

北海道・十勝
 
◆ボトム・アップで6次産業化を推進

北海道・十勝 十勝の農業と農協の特徴を素描しよう。
(1)十勝ではごく一部の特殊事例を除き、JA合併はせず、各農協の独自性と特色・個性を生かしつつ、十勝農協連合会というネットワークを組みつつ、広域にわたる多面的な機能補完と必要な組合間協同を行いつつ、各JAで自らの道を切り拓き活動している。
(2)十勝の自然条件、立地特性を踏まえ、バレイショ、てんさい、小麦、豆類の輪作を徹底しつつ、これに畜産(乳牛、肉用牛、養豚、養鶏など各JAで特色あり)を加えた農業経営を組合員は行う。
北海道・十勝(3)こうした基本型の農業に加えて各農協で立地特性を踏まえた特有な作物を導入し、加工・販売も行うという、農業の6次産業化に全力をあげてきた。
(4)その代表例は、JA帯広かわにしの長いも(とろろ芋)である。前記基本作物に加えて、土地条件の許す範囲で長芋を生産し、野菜の分野では全国で初めてHACCPの認可を得た加工工場で清浄長芋として箱詰めされた商品としての長芋ができ上がる。この長芋は商品特性に応じて(大・小・長・短など)国内向け、海外向けに販売される。
 海外市場は台湾・シンガポールが主力であるがFTA地域のシンガポールから、さらに世界各地域へと再輸出される。薬膳料理に不可欠な長芋は全世界都市にある中華街で必須の食品だからである。
(5)JA中札内村ではエダマメが特産物になっている。5月初めから6月上旬にかけて段播きされたエダマメを8月から9月にかけてフランスから輸入した巨大なハーベスターで収穫、瞬時にマイナス196度に冷凍し鮮度を保持した上で、ここもHACCP認可予定の清潔な加工工場で多彩に加工・包装されて、安全・安心・美味の冷凍エダマメとして、国内はもちろん、ロシアや中近東までもがその販路となっている。
北海道・十勝(6)もちろん十勝の基幹作物である小麦は各JAで乾燥・調整・保管するだけでなく、十勝農協連では十勝港に巨大なサイロを持ち、そこで集積・調整のうえ日本各地へ輸出する。
 てんさいは十勝農協連ほかのてんさい糖工場へ、バレイショはカルビーなどの企業の工場誘致のもとに現地製品生産を行わせ、牛乳は四つ葉牛乳で加工させるなど、JAの主体性のもとに農業の6次産業化を徹底して推進している。
(7)こうしたJAを核とした多彩な活動を通して、組合員農家の平均純所得は1800万円という水準に達している。まさに十勝のJAは、「JAは地域の生命線」というにふさわしい活動をしている。
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沖  縄
 
◆直売所が突破口

沖  縄(1)新生JA沖縄の発足
 砂川理事長のお話(10/29更新予定)にもあるように、JAの合併・統合・経営体制・事業体制の確立の道は苦難の連続でもあった。しかしその中で新しい展望が着々と芽生えている。
(2)沖縄の立地条件・気象条件・資源条件をいかに活かすか
沖  縄 沖縄には49の有人島があり、その基盤には農業がある。生産しても販路を目指すには遠距離輸送が常に前提とされる。
 気象条件は亜熱帯性気候で本土で言う冬がない代わりに、夏から秋にかけての台風の襲来を常に前提としなければならない。作物生育等に必要な雨量もあり、かつ地下ダム方式等により用水の確保はかなり行きわたった。さらに台風等による海水のミネラル成分の自然散布により、高品質な作物生産には有利な側面もある。
(3)沖縄では離島を含めて、歴史的、伝統的にサトウキビ生産が主流になってきた。しかし、いわば「親方日の丸」作物とも言うべきもので、政策の動向や海外貿易交渉などにより、たえざる動揺に支配されてきた中で力強い展望が見出せない状況におかれている。こういう中で今回の調査を通じて次のような私なりの提案を行ってみたい。
沖  縄(4)農産物直売所をキーステーションにした地域農業振興
 JA沖縄のリーダーシップのもとに運営されている、2つの直売所を訪ねた。[1]JAおきなわ食彩館「菜々色畑」[2]ファーマーズマーケットいとまん「うまんちゅ広場」。いずれの直売所も大変な賑わいであった。ファーマーズマーケットを起点に新しい沖縄農業の特色を生かした方向の改革である、つまり多彩な新作物の開発ができるのではないかと痛感した。
(5)ついで糸満市の山城学氏(山城農園)を訪ねた。新規参入者でありながら大規模ハウス経営で野菜作りを行い、海水のミネラルを活用するなど、先端技術を取り入れながらも伝統技術を活かしている姿に感動を覚えた。
沖  縄(6)[1]おきなわハーブセンターに私の目は引きつけられた。SB食品とJAおきなわとの提携により運営され多彩なハーブ類や香辛料はSB食品に販売されているが、これからの沖縄農業の一つの方向を示しているように思われた。12戸の農家のハウスで栽培管理の徹底の上で生産され、JAハーブセンターでは徹底した品質管理が行なわれ、順調な展開を示している。このシステムを離島各島に展開すれば更なる発展がみられることであろう。気象条件の有利さを生かすためにも農業の6次産業化を徹底して推進することが最大の課題であろう。
地域ブランドも取得
沖  縄(7)石垣島においてもJAファーマーズマーケット=農産物直売所が来年4月オープンをめざして建設されていた。これが開店すると石垣農業も大きく変わることが予測される。石垣島は昔から和牛(黒毛和牛)の産地であった。これまでは肥育素牛(仔牛、育成牛)の供給が主力であったが、平成20年4月に「石垣牛」の商標で特許庁から地域団体商標(地域ブランド)を取得することができた。つまり、育成牛だけでなく島で肥育した食用に供される牛肉すべてに「石垣牛」のブランドを全面的に使用できることになった。
現地ルポなどの詳細はこちら

静岡・三ヶ日
 
◆断固合併せず健闘

 行政単位としての三ケ日町は、政令指定都市浜松市という巨大都市に呑み込まれて消滅してしまった。
静岡・三ヶ日 しかし、JAみっかびは合併せず独自の道を歩き残った。残っただけではなく、組合員の「三ヶ日みかん」にかける情熱とエネルギーを汲み上げ、みかんを主体とする農業の拠点として輝かしい光を放っている。行政組織をはじめとする既存の組織が、市町村合併を機に解体・消滅する中で、まさに「JAは地域の生命線」として生き生きとして活動を展開しているのである。
 JAは日本に2つとない高性能多機能選果機を拠点に、すぐれたミカンの販売戦略を展開しているだけでなく、マッピング・システムを活用してミカン生産の品質向上、生産技術の改善、あるいはミカン生産上の多面的機械の開発と推進など、営農指導活動には目を見張るものがある。
 さらに、JAみっかびが力を入れているのは教育、研修の徹底である。職員教育はもちろん、組合員にも協同活動の原点に立ち返って多彩な研修・教育を行っている。
 さらに教育的効果を持つ広義のグリーン・ツーリズムの展開、環境・農業教育の推進、あるいは農業参入希望人材の育成など、実に多面的な活動を推進している。そのための多彩なネットワークを作りあげているのである。
(現地ルポなどの詳細は、11/1掲載予定です)


むすびと提案

 以上、3地域のJAの調査・分析を通じて私は次のような感想を持った。
 かねてより私は「多様性の中にこそ真に強靭な活力は育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない。多様性を真に生かすのがネットワークである」と説いてきた。
 今回の十勝、沖縄、三ヶ日の調査を通じて改めて、私の長年提言してきたことは間違いでないと確信した。
 これまで全国的にみれば農協合併の嵐が吹き荒れてきた。そして、今なお続いている。大合併したJAは、本当にすばらしい活動をしているのか? 組合員の所得や生活の向上をもたらしてきたのか? JAという組織自体は活力をもっているのか? 「JAは地域の生命線」という理念や哲学をもっているのか?
 JA合併を推進してきた責任者、それにしたがったJA役員(役員であった方々を含む)、JA合併に賛意を示し推進する理論を展開してきた学者、研究者――こういう方々は、合併の成果と欠陥を明確に自ら考察・分析して世に問うべきではなかろうか。
(今村奈良臣)

 

(2010.10.25)