インタビュー
JAあいち中央 石川克則 代表理事組合長
営農も暮らしも次世代対策が大切
インタビュアー・今村奈良臣 東大名誉教授
◆支店を暮らしの拠点に
今村 私は40年以上前の旧安城市農協の時代からこの地域のみなさんが全国でもいち早く集落営農に取り組むなどその歩みに関わらせてもらってきましたが、合併から17年、今の課題は何でしょうか。
石川 集落営農の取り組みは、もともと各集落ごとに農協があったその時代から農協が組合員と共に地域農業を担うんだという考えがあったからですね。その思想が脈々とつながってきた歴史の上に今の姿があると思っています。
ただし、JAあいち中央として碧海地区の5JAが合併したあとの平成13年から19年にかけて75支店を29支店まで統廃合しました。
これにはいい面もありましたが、マイナス面もありました。
JAの事業面と運動面を分けて考えると、運動面では支店が距離的に遠くなった、という組合員のみなさんの意識変化です。支店が遠くなってしまったことで、本当に農協運動を支えてきた高齢者の方々にご不便をおかけすることとなりました。
これをそのままにしておけば農協と組合員の心の距離まで離れてしまいますから、何とか支店が“地域の拠点”になろうというのが基本方針です。
今村 JAの基本理念のひとつに「くらしの拠点」になることを掲げていますが、その実践でもあるわけですね。
石川 そうです。その基本理念から「支店を拠点に」という方針で実践していこうということです。具体的には「支店まつり」の開催や、「食農教育」も支店単位での取り組みとして進めています。
そうした活動も支店運営委員会が中心となって実施をしていただいています。
支店まつりは、3年前から全支店で開いています。JA全体で催す農業まつりには毎年約6万人もの参加がありますが、支店まつりにも約2万人以上の地域の皆さんが参加してくれています。
支店を遠くしてしまったのだから、農協のほうから何とか働きかけなくてはいけない。それが少しづつですが認知されてきた結果と思っています。
また、今年からは全支店で「支店たより」を発行しています。JAの広報誌としては「アクト」があり、これはJA広報大賞もいただきました。その一方で「支店たより」という支店職員による手書き的なものも意外と人気を博しています。
やはり身近な感じがあるからでしょう。
◆農業経営の法人化に力点
今村 「魅力ある地域農業」も基本理念のひとつですね。これにはどう取り組みを進めますか。
石川 これまでの集落営農という基本的な取り組みのなかで、集落の営農組合がしっかり農業に取り組んできました。ただ、一部には高齢化が進みこのままで農業を引き継いでいけるのか将来に不安を生じさせる地域もあり、その対策を第4次営農振興計画のなかでも重点にしています。
とくに力を入れていこうとしているのが、農業経営の法人化です。これまでにも立派な法人が多数生まれてきましたが、まだ1人で営農を担っている地域もありますからそこの法人化を進めたいと思っています。
今後は、農業の担い手に不足する地域では、出資法人のあり方を含めて検討していくことにしています。
◆管内の直売事業も伸ばす
石川 もうひとつ力を入れていきたいのが産直販売です。この取り組みは100円市から発展させてきたもので現在、管内に12か所の直売所があります。
かつては、個々の農家が売るための農産物をつくるというよりも、自家消費できないものを出荷するといったことから、直売所の数は多くても規模は小さなままでした。
一方で、消費者のニーズの高まりからファーマーズマーケットへの期待が高まっています。
今後は、もう一歩踏み込んで店舗規模も大きくし、同時に消費者ニーズに合った農産物を作ってもらえるような店舗の形態に変えていこうと考えています。
そこで、新たなファーマーズマーケットを今年度中に着工し来年の4月にオープンをします。
この取り組みは米、麦、大豆は集落の農地に集約化させる一方で、野菜や花などはファーマーズマーケットなどの直売所で出荷をしてもらうようにしようということです。
農地を集約化し大規模化を図る必要はありますが、農協の組合員という面からすると農業をしない組合員が増えていくということになりかねません。それに農業を続けたいという人も多い。そこをどう乗り越えていくかを考えると、米、麦、大豆については農地の集積化に協力していただきますが、一部の農地では直売所に向けた出荷用の農業生産をしてほしいということなんです。
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組合員・地域住民とのコミュニケーションを大切に。写真は農業まつり
◆地域から支持される事業を
今村 今日も直売所を視察してきましたが、大変なにぎわいでした。
石川 産直事業でのもうひとつの課題が共選の農家グループの参加なんです。これまでは産直は産直、共選は共選、と農家が分かれていました。
共選のグループとはいわゆる生産部会ですが、生産物の大部分は市場を通じての販売です。ですが、これからファーマーズマーケットをつくるにあたっては、共選品も直売所に出荷してもらい農産物のレベルアップを図ると同時に、産直グループの人たちにとっても栽培の技術的なレベルアップにもつなげられないか、そんな仕組みを考えていきたいと思っています。
今は産直品の供給高は33億円ほどですが、できればこれを50億円程度にすることが課題です。産直事業をしっかりやっていけば地域の人々もJAを支持してくれると思っています。
◆人づくりをいかに進めるか?
今村 それらを実現するために何を重視しますか。
石川 やはり人づくりです。
合併以来の基本理念のなかには「利用満足度№1のJAをめざす」とあります。
それにはまず職員のCS満足度を上げていかなければ組合員へのサービス向上にもつながりません。私は協同組合理念なくしてJA職員なし、と思っています。
たとえば高齢化社会のなかでJAは重要な役割を果たさなければいけないと思っており、デイサービスを5か所で行っています。しかし、その事業のなかで難しいと思うのは職員の姿勢です。福祉関係の職員だけで100名を超えますが、介護に携わる専門の職員にはJAの職員であるという意識の醸成が比較的に遅れています。
だから私は、デイサービスで働くという以前に、農業協同組合の職員としてがんばってほしい、ということをいろいろな機会を通じて盛んに強調しています。これは1つの例ですが、このような職員教育が大事だということです。
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地域に貢献するJA職員としての人づくりも課題。写真はJAのデイサービス
◆組織活動の強化で結集力を高める
石川 もうひとつは組合員教育です。
とくに合併以降は組合員教育に力が入っていなかったのではないかと思っています。この問題については今年、「組織活動基本方針」を理事会で決め、これに基づいて組織活動を強化することにしました。
その第一のステップが「正組合員組織」の再構築です。今さら、と思われるかもしれませんが、残念ながら農地は減り専業農家も減って、総代を選出することも、なかなかうまくできない地域も出てきてしまっています。このまま放置をしておくと総代がうまく選べないということになってしまい、総代会でJAの事業をきちんと決定をしていくということが難しくなってしまいます。
たしかに地域協同組合論というものが広がって当たり前のようになっていますが、農協法はまだ農家の協同組合ということになっていてその農協法のもとできちんと運営していかないと問題が起きるわけです。
そのためにはきちんと正組合員の代表として総代を選出し、その総代によって役員を選んでもらう。これをしていかなければ地域の人々に理解されるようなJAにはなれないと思っています。
そこで改めて正組合員の組織として「正組合員班」をつくっていこうと構想しています。
それから先ほど話しました支店の運営委員会の活性化ですね。支店運営委員は支店運営委員長を中心に支店の行事などの方針を決めてもらっています。この充実を図ろうということです。
◆次世代と女性の組織化も
石川 それから次世代教育にも力を入れようと考えています。相続によって新たに組合員に加入してもらった人たちを集めて協同組合とは何か、といったことから伝えていこうということです。
女性部も重要なのですが、残念ながらJAの合併後、かつての女性部が残っているのは1地域だけです。
残念ながらなくしてしまった組織を元に戻すのはなかなか難しく、かつての女性部に代わる組織として「イキイキレディース」という組織を立ち上げています。これは役員のいない女性部というイメージですね。具体的には、JA全体を包括する「イキイキレディース」という組織があり、そのなかに趣味・教養活動を行なうグループがあります。
それらは支店を拠点とした、イキイキレディース支店代表のもとでグループが組織化されています。
しかしながら、そこには役員を置いていません。女性グループの交流会という感じです。
こうした活動には3人の女性理事や女性総代83名にもアドバイザーになってもらい、JAからはかつての生活指導員を「くらしの相談員」としてブロック支店を単位に12名を配置して活動を支援しています。
◆地域を守る気概を持つ
今村 今日は地域を担う農業者と話す機会もありました。彼らと話して思ったのは、JAに対してはともに議論するような人物を求めているなということです。今の日本はどうなっているか、他の地域ではどんな農業の動きがあるのかなど、幅広く議論し新しい方向をともに探し出そうという気持ちが強い。それに応える気概のある人物をJAに求めていると思いますし、私もそういう人づくりに期待します。
石川 そうですね。組合員に対して腰が引けているようではいけません。それに関係することでもありますが、JAとしての発信力も課題です。
JAあいち中央はこの地域の「食と農」を守っている重要な組織だということを自信を持って強く地域に訴えることとが大事です。
それには地域農業についてJAが引き続きイニシアティブを持っていく、そこに力を発揮することが求められていると思っています。
「JAは地域の生命線」の着実な実践
現在のJAあいち中央の中核に位置する旧安城市農協の地域は、かつて第2次大戦前には「日本のデンマーク」と称され、その農業の先進性と先進的な協同活動は高く評価されてきた。戦後になっても、いち早く、稲作の生産力向上のために集落を基盤にした「水稲の集団栽培」に取り組み、さらにこうした活動の展開線上に、都市化・工業化の急速な展開の中で、農協の強力な指導のもとに「一集落一営農組合構想」が推進されることになる。
その運動が着実に稔り、福釜地区の研青会、耕福、あるいは高棚地区の高棚営農組合のような法人化した大規模完全協同経営が各地区に確立し、稲作と多彩な転作の受託を行っている。
他方、こうした活動推進の拠点施設としてカントリーエレベーター、選果場、機械ステーションなどの総合センターが建設・整備された。こうした展開と機を一にして、多彩な果樹、野菜類の生産も展開した。特に注目すべきは、当初は転作作物として導入されたイチジクはいまや日本一の生産量を誇るまで成長した。
直売所――ファーマーズマーケットの活動が目を見張る一方、市民との交流の場である壮大かつ美しい農業公園「デンパーク」の建設、高齢化社会の中で多彩な福祉活動、暮らしの支援活動も展開され、そのための人材育成がJAの当面する最大の課題とされ、強力に推進されている。
JAあいち中央は、都市化・工業化地帯の中でまさに「JAは地域の生命線」と呼ばれるべき活動を着実に長い歴史の中で進めてきた。
(今村奈良臣)