(写真)8月21日のJAあぐりスクールinJAえひめ南2日目、「遊子水荷浦(ゆすみずがうら)」の段畑を見学する子どもら
JAあぐりスクール全国サミットinJAえひめ南 現地ルポ
あぐりスクールで地域の「協同」を再生
◆次世代に農業と地域社会の大切さを
今回の全国サミットのテーマは、「子どもが元気! JAが元気! 地域が元気!」だった。
まさにこのテーマの通り、サミットで報告されたあぐりスクールの現況や、アドバイザーである佐藤幸也教授の発表からは、JAあぐりスクールが単なる地域貢献やJAの知名度アップなどをねらった取り組みではなく、それによって地域の絆を再構築するとともに結集力を高め、地域社会全体を活性化させようという協同組合運動を具現化するような活動であることが語られた。
全国サミット第1回から実行委員会の世話人を務めるJA鳥取中央の坂根國之組合長は、あぐりスクールの目的について「次世代を担う子どもたちに地域を大事に感じる心を育てること」だと述べた。
開催地となった宇和島市の石橋寛久市長は、「(行政や市民の間でも)食の大切さを見直そう、落ち続ける自給率をあげようという認識は持っているが、なにぶん厳しい時代だ。そんな中、子どもの時から農業の大事さを伝えるのは大変素晴らしい事業だと思う。ぜひ応援したい」とエールを贈った。
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2日目の農業体験から
◆年々、増え続ける開校
家の光協会の下川正志常務理事とJA全中の生部誠治食農・くらしの対策課課長からの情勢報告では、あぐりスクールの開催JAが年々増え続けるとともに地域に歓迎されていることを発表した。
JAあぐりスクールは平成22年8月現在で130JAが家の光協会に登録しているが、特に全国サミットを開催するようになってからの直近5年間で急増した。下川常務は「あぐりスクール開校の意義について、一定程度浸透してきた」と分析した。
また、JA食農教育については、昨秋の第25回JA全国大会で各JAで「JA食農教育プラン」を策定するよう決議し、現在全国の7割弱のJAが策定している。広島県のJA福山市ではプランに従い、学校での食農教育推進と市内農業の活性化のため地元の農産物を学校給食に出す協定を行政と結んだ。生部課長は「すべて自前主義でやるには限界がある」と述べ、JA食農教育は地域一体で取り組んでほしいと呼びかけた。
(写真)パネルディスカッションではあぐりスクールの方向性を話し合った
◆親子で参加できるスクールに
JAえひめ南のあぐりスクールはバケツ稲や果樹・野菜の収穫体験などを中心に年10回ほど行っている。
子どもたちは「農業をしている人の苦労と工夫を知った。もし将来、農業の人になるなら誇りに思いたい」などの感想を寄せている。
サミットでは実際にJAえひめ南あぐりスクールに携わった4人、山下由美さん(JAえひめ南女性部)、吉良弘美さん(保護者)、得能政史(パン工房みなみ店長)、清家理栄さん(あぐりスクール実行委員)と佐藤教授でパネルディスカッションを行った。
得能さんは農協観光の職員だった時代にあぐりスクールと出会った。「ただバスを出すだけなのでほとんど売り上げにはならないが、子どもたちの満足そうな笑顔を見た時、心底お世話できてよかったと思った」と、その感動を伝えた。
山下さん、吉良さんもともに保護者として、子どもが笑顔で一生懸命その日体験したことを話すのを聞いて「親としてホッとする」という。また、山下さんは「JAも、女性部も、いい活動をしているのにアピールが下手。もっと地域一体となるよう呼びかけて、地域の再生に取り組んでほしい」と要望し、吉良さんは「JAは色々なことをやっている奥深い組織だと知った。気持ちのいい場所だと思う」と讃えた。
清家さんは、「今の活動は子ども中心になっているので、親子で参加できる形にしたい」と、今後の課題を述べた。
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子どもと一緒にミニトマトの収穫をするJA職員
◆石と石が支え合う、「遊子水荷浦(ゆすみずがうら)」の段畑を見学
2日めには、JAえひめ南あぐりスクールを視察した。
この日、子どもたちは「農業体験学習農園」でミニトマトの収穫を体験し、200年以上も前から開墾が始まった「遊子水荷浦(ゆすみずがうら」の段畑を見学した。
遊子水荷浦は、急峻な斜面に拓かれた40段もの畑は面積にして4ha。現在、集落は28戸で20人の生産者がじゃがいもを栽培している。平成19年には日本で3番目の重要文化的景観に指定された。地元NPO法人が段畑の歴史を伝え守る活動を続けている。最近はじゃがいもを原料にした焼酎も開発した。
2日間の日程はここで終了。JAえひめ南の清家治常務は「この石段は先人が血と汗と涙を流して築いてきたもの。雨にも風にも干ばつにも地震にも負けず保たれているという原因をどう考えますか。それは1つの石が4つ、ひとつでも接点を失えば崩れてしまう。お互い支え合って日本の農業を立て直そうではありませんか」と参加者に呼びかけた。
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春にはジャガイモの花が満開になる遊子水荷浦(ゆすみずがうら)
◇ ◇
来年の第7回全国サミットはJA愛知東で開催することが決まった。河合勝正組合長は「JA北信州みゆきの取り組みを見て熱い想いに駆られ、平成17年にあぐりスクールを始めた。来年の全国サミットにも精一杯取り組みたい」と誓った。
サミット宣言
1.わたしたちは、「あぐりスクール」を通じて、作物を育てる楽しさ・大変さ、収穫する重び、農業の大切さを子どもたちに伝えます。
2.わたしたちは、「あぐりスクール」を通じて、多くの人たちに「食の安全・安心、いのちの大切さ」を伝えるため、地域との絆の強化に努めます。
3.わたしたちは、「あぐりスクール」を通じて、子どもたちが、ふるさとと農業に誇りを持ち、感謝の気持ちを忘れず、豊かな心を育むことをめざします。
以上、宣言します。
平成22年8月20日
第6回あぐりスクール全国サミット
in JAえひめ南(愛媛県宇和島市)
インタビュー
JAえひめ南代表理事組合長
黒田義人に聞く
あぐりスクールは現代人の課題や悩みを解決する
「社会教育の場」である
人間は食べなければ1日も生きられない、すなわち、他の生物の犠牲の上に生きる生物だ。私が若かった頃は「一粒の麦、もし死なずば・・・」(注)の言葉に感動したが、今は当たり前のように食が手に入りたくさんの残飯が出る一方で、世界には10億人を超える飢餓人口がいる。
社会に目を向ければ、失業率は増大し、現在136万世帯、189万人が生活保護を受けている。目を覆いたくなるような犯罪も増えた。
このような時代背景だからこそ、今こそ食農教育を根本からやり直し、子どもたちの豊かな精神形成の一助とならなければいけない。
◆食と農のドラマを知る大人に
現代は「安ければいい」がまかり通り、市場での相対取引の結果、大型店舗からは「とにかく安く」という声が強い。それを跳ね返す力がないから苦しんでやっている農業が報われず、管内の人口もどんどん減る。若者が農業をひとつの就業機会と考え、希望を持ってやることができない時代だ。
食農教育を受けた人がそのまま大人になって農業をやることがなくても、その人たちが小売店や商社に就職した時、農業と食と生命にまつわる大いなるドラマと現実を知っていれば、未来は違う形になるだろう。
あぐりスクールでやっている農作業体験やバケツ稲の栽培などは、確かに一過性の疑似体験かもしれないが、植物を育て、生育の変化を感じることに意味がある。子どもだけでなく、保護者や地域住民、スクールに担任としてかかわる職員たちも大いに意識が変わっていくのがわかる。農から学び、知ることがたくさんある証拠だ。
◆農協を次世代へ残すために
農協運動は戦後、理論と実践が両立して日本に根付いた思想運動だ。
国家社会の中で農協が果たしてきた役割は大きかったと自負しているが、高度経済成長を経て、農協の経営基盤は沈下し、農業者人口は激減した。経済発展の行き着く先には無気力な若者、残忍な犯罪、精神の病、があふれている。こんな状況のために昭和20年8月15日の終戦があったわけではない。
人と人のふれあいと命を育み、地域農業を振興し、地域活性化へとつなげる農協とその理念を次世代に残すべきだ。だからこそ、それを担う子どもたちを育てなければならない。
あぐりスクールは、現代に生きる人たちの課題や悩みを解決する「社会教育の場」でもある。すぐに儲けに繋がるような事業ではないが、それを一生懸命続けられるのは、ひとえに農協がマジメな組織、運動体だからだろう。最大限の利潤追求をめざす株式会社とは異なる「協同組合」としての心意気を示し、「地域とともに心豊かな明日をめざすJA」になるため、これからもあぐりスクールと食農教育に積極的に取り組んでいきたい。
(編集部注)
「一粒の麦、もし地に落ちて死なずばそれは一粒のまま。しかしもし死ねば、豊かな実を結ぶ」(『新約聖書』ヨハネ伝第12章24節)
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あぐりスクールであいさつする黒田組合長
(その1、佐藤幸也教授講演、林正照JA愛媛中央会会長、坂根國之JA鳥取中央代表理事組合長、下川正志家の光協会常務理事のインタビューはコチラから)