◆「再生元年予算」の原点は?
12月25日、2012年度予算案がようやく閣議決定となった。一般会計総額は前年度対比2.2%減だが、農林水産関係予算は前年対比4.3%減になっている(東日本大震災関連復旧・復興対策分を加えると一般会計総額は前年対比3.9%増だが、農水関係は2.5%増にとどまる)。農水関係予算は12年連続の減である。
農水省は、12年度予算を「食と農林漁業の再生元年予算」と“位置づけ”ているが、その予算が依然として農林漁業軽視を意味する12年連続減となっているということでは、12年が「再生元年」になるのは覚束無いのでは、と私は危惧する。
「再生元年予算」は、「戦略1 持続可能な力強い農業の実現」「戦略2 6次産業化・成長産業化、流通効率化」「戦略3 エネルギー生産への農山漁村の資源の活用促進」「戦略4 森林・林業再生」「戦略5 水産業再生」「戦略6 震災に強い農林漁業インフラの構築」「戦略7 原子力災害対策に正面から取り組む」の7「戦略」で構成されているが、そのなかには“就農前後の青年就農者への給付金の給付”を行う新規就農総合支援事業136億円(戦略1)や、農林漁業成長産業化ファンド300億円(戦略2)、農山漁村再生可能エネルギー導入事業12億円(戦略3)など、どんな成果があげられるか、具体的な事業展開を注視していたい新規予算もある。
が、この予算で今年が「再生元年」になれるかどうかを判断する上で最も問題にしなければならない予算は、前回の本欄でも問題にしたことだが、民主党農政の看板政策であり、戦略1の中心になっている戸別所得補償制度関連予算がどうなっているか、その予算で戸別所得補償制度はどうなるか、である。
◆注視すべき米価動向
前回ふれておいたように、「予算概算要求の概要」の段階では「戸別所得補償制度のあり方については、民主、自民、公明三党の合意(11.8.9)で“平成24年度以降の制度のあり方については、政策効果の検証をもとに必要な見直しを検討する”ことになっており、その“検証効果”が示されないので農水省としては予算の組みようが無く、前年度予算額をそのままならべている」状態だった。
その三党による“見直し”は行われなかった。12月9日の実務者会議で戸別所得補償制度の名称変更など4項目の予算反映を野党は求めたが、12日に予算反映は困難との考えを与党が示したことから、“協議打ち切り”になったからである。その結果組まれた戸別所得補償制度関連予算を一表にしてみると、こうなる。
農業者戸別所得補償制度(特会・一般)で前年比約1000億円の減だが、それはほとんど米価変動補填交付金の減による、といっていい。予算案作成時点までの11年産米の価格動向から判断しての大幅削減になったということだが、“年明けの相場動向については、見方が分かれる。JA全農あおもりは「年明けに相場が下落しないかとの懸念などから、年内に今年産米の集荷量の全量の契約を済ませたい意向」だ。関東の大手米卸は、小売店の販売が鈍っていることなどから「3月以降は下がる可能性がある」と分析”(12.21「日本農業新聞」)といったことが報道されていることからすると、この予算でやれるのか、問題ありとしなければならないだろう。
◆離農強要にならないか
より以上に気になるのは、前年度から始まった規模拡大加算措置に加えて農地の出し手に30〜70万円の「農地集積協力金」を交付する戸別所得補償経営安定推進事業が新たに加わったことである。
戦略1の説明のなかで、農水省はこの「再生元年予算」で“平地で20〜30ha、中山間地域で10〜20haの規模の経営体が5年後に耕地面積の大宗(8割程度)を占める構造を目指す”としている。そのための規模拡大加算であり、農地集積協力金だというのである。「新規予算の戸別所得補償経営安定推進事業」72億円は農地集積協力金65億円と地域農業マスタープラン作成事業7億円で構成されているが、“人と農地の問題の解決に向け、集落・地域の話し合いで決められる地域の中心となる経営体、そこへの農地集積、地域農業のあり方等を記載した「地域農業マスタープラン」の作成を支援”するのが「地域農業マスタープラン作成事業」である。
“5年後に耕地面積の大宗(8割程度)”を“平地で20〜30ha、中山間地域で10〜20haの規模の経営体”に占めさせるようにする“マスタープラン”は、離農強要プランになるであろう。戸別所得補償制度は構造改革強要政策に変質する。これでいいのか、である。
東京農工大学名誉教授