シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

一覧に戻る

(67) "日本再生戦略"にふさわしい農業予算を

・農業農村整備事業の位置づけ
・どうなる? 来年度本予算
・戸別所得補償予算の見直しを

 "政府は26日、2012年度予算の予備費を使った緊急の経済対策を閣議決定した"(10.27付日本農業新聞)という。総額は3926億円、うち農林水産関係が実にその4分の1、1000億円だそうだ。民主党政権になる直前の2009年には総予算の2.89%だった農林水産予算が、10年2.68%、11年2.46%、12年2.41%と下がってきていたことが端的に示しているように、予算編成では冷遇し続けていた農林水産予算に対してのこの措置は、異例といっていいのではないか。

◆農業農村整備事業の位置づけ

 “政府は26日、2012年度予算の予備費を使った緊急の経済対策を閣議決定した”(10.27付日本農業新聞)という。総額は3926億円、うち農林水産関係が実にその4分の1、1000億円だそうだ。民主党政権になる直前の2009年には総予算の2.89%だった農林水産予算が、10年2.68%、11年2.46%、12年2.41%と下がってきていたことが端的に示しているように、予算編成では冷遇し続けていた農林水産予算に対してのこの措置は、異例といっていいのではないか。
 野田内閣は、7.31閣議で、農林水産業を“三大重要分野”の一つとして位置づける「日本再生戦略」を決定しているが、その一環として“緊急の経済対策”の必要性も特に農林水産業には強いと判断したということだろうか。とすれば歓迎すべき措置とすべきだろう。
 異例のこの措置のなかで特に目を引くのが、1000億円を投ずるこの施策の“目玉は6次産業化促進の農地・水利施設緊急整備(460億円)”(前号)になっていることである。
 民主党政権下初の予算編成になった10年度農水予算編成が、それまでの予算編成と大きく異なったのは、公共事業費、そのなかでも農業農村整備費を大きく削ったことだった(9年度予算額5772億円を2129億円に削減)。土地改良団体が自民党支持基盤になっているとの小沢判断による削減と巷間噂された削減であり、以後もその水準で推移してきていた(12年度は東日本大震災復興特別会計から156億円をプラス)。
 その農地水利施設整備事業を“緊急の経済対策”事業として急浮上させたのである。農業農村活性化にとっての農業農村整備事業の重要性を再認識したということなのであろう。結構なことである。

◆どうなる? 来年度本予算

 問題はそうした認識が、これからつくられる2013年度予算にも活かされるのか、である。「近いうちに国民の信を問う」との野田口約をめぐって与野党の対立が続き、国会審議も停滞しているなかで、13年度予算はどうなるのか見通しもつかない状況下だが、農林水産予算については、9月5日2兆3166億円の概算要求が民主党農林水産部会では了承されている。12年度予算を公共事業で766億円、非公共で672億円、計1439億円上回る要求額になっている。この要求予算がどうなるのか、これからの問題である。
 今世紀に入ってからの国家予算とそのなかでの農林水産予算の推移を簡単に図示しておこう。財政難を言われながらも、国家予算は00年を100として01年に95に落ち込んだものの以後横ばいとなり、08年〜10年に上昇、10年以降微減している。そのなかで農林水産予算は一貫して減少し、12年には00年の63の水準にまで落ち込んでいる。当然、国家予算中に占める農林水産予算の割合も減少の一途を辿り、00年の4%が12年には2.4%になってしまっている。農林水産予算は一貫して冷遇されてきたということである。

国家予算と農林水産予算

 概算要求額がそのまま認められることは、これまではなかった。民主党政権下でも10年度は要求額の10.9%が、11年度は8.7%が、12年度は6.7%が削られてその年の予算額になった。2兆3166億円も、これまで通りなら何%か削られることになろう。しかし、この要求額がそっくり予算として認められたとしても、それは10年度予算2兆4517億円をはるかに下回る額でしかないことを注意しておこう。その程度で「日本再生戦略」の三大重要分野の一つとした分野の予算といえるのだろうか。重要分野とするなら、それにふさわしい予算額を望みたいところだ。

◆戸別所得補償予算の見直しを

 概算要求のなかで、気になる点を一つあげておこう。まずは農業予算の中心といっていい“戸別所得補償制度の実施”予算だが、12年と同じ6901億円が計上されている。これでいいのだろうか。本欄(56)で問題にしたことだが、所得補償算定基準、特に米の算定基準を見直すべきである。米だけ8割の家族労働費と経営費で計算するのは、筋が通らない。“せめて1ha以上の農家になれば家族労働費も賄えるようにすべきなのではないか”((56)のむすび)。
 もう一つは食料自給率向上活動支援対策費や飼料増産総合対策事業費、消費・安全対策交付金、ODAを通じた飢餓・貧困対策や地球規模の課題への対応予算がマイナスになっている(順に7900万、1億7100万、7億5200万、3億600万円のマイナス)が、それでいいのか。前の三事業費減は食料自給率向上への取り組みの意欲を疑わせるし、ODA…対応予算については生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)が、“発展途上国への資金援助を2015年度までに倍増させる”ことを決めたことなど、無視しているように思える。検討してほしいものだ。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.11.09)