◆民主公約、本音はTPP参加?
11月20日、“参加国の個別かつ多様な事情を認識しつつ既存のASEAN+1FTAよりも相当程度改善した、より広く、深い約束がなされる”ことを基本方針とするというRCEP(東アジア地域包括的経済連携)共同宣言が出された。共同宣言を出した会議には、もちろん我が国も参加している。
“参加国の個別かつ多様な事情を認識”しての関税交渉が、全品目の関税撤廃を原則とするTPP(環太平洋連携協定)関税交渉と全く異なる交渉になることは、あらためていうまでもないだろう。が、全く異質なRCEPとTPP参加の交渉を“同時並行的に進め”ることを民主党は衆院選マニュフェストに掲げている。そんな交渉ができるのだろうか。
“参加各国の個別かつ多様な事情を認識し”例外品目を設けるべきことをTPPで主張するつもりなのかもしれない。が、そんなことは許さないことを、つい先頃、P4協定といわれている現行TPP協定発足時からの加盟国ニュージーランドの首相が言明している(11.25付日本農業新聞)。逆に、例外なき関税化をRCEPで日本は主張しようということなのだろうか。が、“個別かつ多様な事情を認識”に加えて“異なる発展段階を考慮”しての交渉方針までも「基本方針」に加えたRCEPである。そんな主張は参加国からは相手にされないだろう。“同時並行的に進”めるとは表向きの話しで、本音はTPP参加にあるといっていいのではないか。こんなごまかしを許してはならない、と私は思う。
◆「仕分け」で行われたこと
農林水産業に関する民主党公約のなかで、“現在予算事業として行われている農家への戸別所得補償を法律に基づく安定した制度とすることで、食料自給率50%を目指す”という項目と“農地・農村・農業の今後の方向性を示す「人・農地プラン」を13年度までに作成し、これに基づく新規就農者への給付金の給付、地域の中心となる事業者への農地集積を行うことで、就農促進と生産性の向上を図る”という項目、この2項目が私は気になる。
戸別所得補償制度について、問題はあるが有益な制度と評価した上で、制度としての安定のために法制化が急務であることを、私は本欄でも何度か指摘し、要望してきた。民主党政権下で現大臣は4人目の農水大臣になるが、各大臣とも農水相就任時にはこの法制化を言ってこられた。が、野党時代には法案を提出、審議したこともある制度なのに、政権をとってからは法案すらもまだ姿を見せていない。本当にやる気はあるのだろうか。
“新規就農者への給付金の給付”については、11月18日に行われた民主党御自慢の行政刷新会議の「新事業仕分け」で、青年就農給付金については、“民間有識者ら「仕分け人」から予算額の縮減や対象・給付額の絞り込みを求める声が相次”ぎ、「見直し」と判定されたことを11.19付日本農業新聞が報じていた。
12年度に始まったこの給付金には、12年度当初予算計上額(8200人分104億円)の2倍近い申請が集まり、各県から強い予算増の要望が出されている。現場からは強い要望があるこの給付金すらを不要と判断し、増どころか縮減「見直し」を決める「仕分け人」を選ぶのが民主党の政治主導行政なのだ、ということも、公約を評価するに当たっては念頭に置く必要があろう。
◆自民党農政の課題
この農政2項目に関連しては、自民党も政権公約に掲げていることに注目すべきだろう。11.22付日本農業新聞の報道によれば
・所得補償から農地として維持する支援策に振り替えて拡充(多面的機能直接支払い法)
・新規就農・経営継承の応援など担い手の育成確保対策を推進(担い手総合支援法)
となっている。自分の地域では、民主党公約と自民党公約のどっちが地域農業を維持し発展させることになるか、地域実態に即してじっくり吟味する必要があろう。吟味に当たっては、民主党公約が“地域の中心となる事業者…”としていることにも注意を払ってほしいと思う。農政公約なのに農業者ではなく、事業者にしているのは何故か、である。
なお、自民党が大敗した前回衆院選の際、参院選大敗の教訓を踏まえて党農林族が修正した農政路線を当時の石破農相が受け入れず、農政が“迷走”していることを問題とし、“選挙に勝とうと思うなら、農政を“迷走”させる石破農水相の責任を、自民党農林族の先生方はもっと追求しなければならないのではないか”と本欄(29)で論じたことがある。その石破氏が今度は党幹事長であることも念頭に置く必要があろう。
東京農工大学名誉教授