特集

「総合環境事業に挑む出光興産」

一覧に戻る

農業・畜産・緑化・ヘルスケアの4本柱育成作戦を着実に実践

出光興産(株) アグリバイオ事業部 四位敏章執行役員・事業部長に聞く

 出光興産(株)のアグリバイオ事業部は2005年に発足。同社が手がけてきた微生物を活用した農業・畜産資材事業などを引継ぎ、「農業・畜産・緑化・ヘルスケア」の4つの分野を柱に総合環境事業を展開している。世界的な食料事情の激変のなか、安定的で安全・安心な食料の確保・提供がいっそう求められるようになっている。同時に飼料価格高騰など生産コストの上昇への対応と持続的な農業生産に向けた環境に配慮することも農業の課題だ。同事業部がこうした課題を視野にどう事業展開をするか、四位敏章事業部長に聞いた。

出光の技術を広く「農業」に活かす

◆本格的な農業事業に挑戦

四位敏章氏
四位敏章氏

 ――アグリバイオ事業部のこれまでの展開と今後の課題をどうお考えですか。
 この事業部は農業、畜産、緑化事業を柱に展開していますが、もう一段大きな事業にするためには、やはり農業というものを広く捉える必要があると考えています。今のような一部の微生物を使った事業だけでは非常に活躍の場が小さいし、緑化事業でもゴルフ場だけが対象であればこれが本当に農業であり、緑化なのかという課題もあります。
 これを大きくするには、どう考えればいいか。周辺技術、あるいは周辺資材と私は言っていますが、そこをさらに洗い出し当社がどの部分を狙うのかを明確にしなければならないと考えています。
 たとえば、農業分野では微生物防除剤にすでに20年近く取り組んでいますが、われわれも生産者の方のところに出向いて話をすると、出光は微生物防除剤しかないのか、という話も出てくる。そうすると微生物防除剤を使った総合防除体系(IPM)とは何ぞやという疑問にぶつかってくるわけです。それがたとえば宮崎県営農支援課の黒木修一先生が提唱されている3段階構造の防除体系ですね(下図)。私たちが提供している微生物防除剤(ボトキラー)はこの体系の1階部分で使用されるものですが、2階、3階部分で提供している資材はない。どうせ農業分野の事業を展開するのなら、この3段階全部を自らが手掛けてはじめてIPM対応を構築したと言えると思っています。

 それから生産者の方と話していると、とくに生産の省力化を手伝えないかということに気づく。このうちで出光の技術で供給できるものは何か、と。その結果、開発したのが微生物防除剤ボトキラーのダクト内自動投入機(きつつき君)です。タイマー設定で夜間でも自動散布されるわけですから労力が省ける。
 そのほかには近日発売予定の害虫捕殺シートがあります。商品名は「スマイルキャッチ」でハウス内でダニや有害虫を吸着させるものです。われわれは素材部門でプラスチックという原料も持っているわけですから、
その用途開発というかたちで農業資材が開発できないかという考えです。このようにして一通り周辺資材を積極的に開発し、「出光に相談してもらえれば必要最低限のものはそろう」という方向で事業を展開していこうと考えています。

◆日本農業の中核は水田

 ――水田用防除剤も開発・発売されました。その狙いをお聞かせください。

タフブロック

 日本農業の中核とは何かといえばやはり水田農業ですよね。そこで米生産に関してわれわれとして何か供給できるものはないのかと考えて発売したのが種子消毒剤「タフブロック」です。種子消毒は日本の稲作では非常に重要なことですから、これにわれわれの微生物防除剤を使って安全な防除をしてはどうですかとご提案ができるようになりました。
それから、われわれはこれまで生産者を事業の対象にしてきたわけですが、家庭菜園が非常に増えてきていますね。背景には安全・安心志向の高まりと団塊の世代のリタイアがある。そういう方々には化学合成農薬を使わないで栽培をする人も多いですから、ハイポネックス社と業務提携し家庭園芸向け微生物防除剤「エコガーデン・シリーズ」の展開を始めました。ホームセンターで販売しており、これは出光の過去の販売形態にはなかったことですから販売ルートを拡大するという点でも大きな転換でもあるといえます。

◆畜産では世界的な発見の成果

 ――畜産分野での事業展開方針をお聞かせください。
 今、もっとも問題になっているのは飼料の高騰ですね。今までは配合飼料が安く、われわれが提供する疾病予防と成長促進効果がある生菌剤(「モルッカ」など)はやや高いという時代は終わりました。さらに飼料も高いとなると畜産生産者は大変ですよね。
 そこでわれわれの生菌剤はどういう役目を発揮するのかを明確にする必要がある時代になっていると考えています。つまり、生菌剤を使用することによって既存の飼料を減らすことができる。そういう形で増体効果が出るような事業展開を図っていくということです。
 生菌剤自体の販売促進にももちろん努めていきますが、それにはやはり認知活動が重要です。飼料効率が良くなるということをもっと知ってもらう必要があるし、飼料高騰下だからこそ、その効果が明確になっていると思います。ということから、出光興産として全国の代理店、飼料メーカーにも集まっていただき、初めて研修会を開きました。
 環境に応じた事業対応が求められますが、その環境のなかで事業の意義自体も改めて発信していくことも大事になっていると思いますね。
 ――北大と共同で発見した新たな素材が話題になっています(別掲記事参照)。可能性をどう見ていますか。
 実は以前から抗生物質など既存の資材の切り替えにつながり、しかも天然物から効果のある安全な素材を見つけ出して商品開発するよう指示をしています。今回のルーメン機能を改善するカシューナッツ殻からの抽出油はすでに、別会社で塗料を製造していました。研究部門が畜産への応用ができないかと着目し北海道大学との共同研究で、これが飼料効率を上げしかも牛のげっぷからメタンを減らすことができることも実証されています。
 同様の効果を持つ酵母菌の生成物を使う方法がありますが、現在、この2つの方法で研究を進めており2011年にはどちらかの方法を商品化し実用化していく予定にしています。
 これは抗生物質代替の有望な商品で世界にも貢献できる事業になると思います。第一胃の状態を改善するわけですから牛が健康になって死亡率も改善し飼料効率も良くなる。このように既存の物質をいかに変えていくかという用途開発はまだまだ畜産分野にはあるのではないかと考えています。

◆イワダレソウ「クラピア」で緑化を推進

 ――緑化事業も新展開を見せていますね。

「クラピア」の公園での使用例(植栽直後)
「クラピア」の公園での使用例(植栽直後)

 緑化事業には実は2つあると考えています。1つは緑を作り出し、たとえば砂漠緑化をするなどということですね。そしてもう1つは雑草が生えないようにすることです。今は、緑を増やすという意味での緑化事業に力を入れているわけですが、一方で雑草を生えさせないようにする事業展開もということです。たとえば、製油所のパイプの下に草が生えてくると困るわけです。火災が発生したときには枯れ草が火災を助長することになるからですね。こういった場所にはもう草が生えないようにするということが必要になる。これも緑化事業だという考え方です。
とりあえず現在は、商品名「クラピア」として発売したイワダレソウを使って緑を増やすということと土壌流出防止を目的に事業展開を図っています。これは除草作業の簡素化、コストダウンにもなる。
具体的には栃木県のエスビーエル社とグリーンプロデュース社と共同で苗の生産会社「グリーンジオ」を立ち上げました。「クラピア」は畦畔の管理にも役立つと思います。高齢の農業者の方が多くなったこともあり、畦畔の除草作業では転倒事故も多いそうですね。これで土壌をしっかりと抑え草も生えないような状態になれば畦畔整備に役立つと思います。
それから中東でも第二次試験に入っています。砂漠は土壌がアルカリですがそこでも生えるという特徴と、多少の塩分があっても生育するという、このクラピアの特徴をいかして事業展開をしていきたいと思っています。

◆基本は環境にやさしく、食の安全・安心への貢献

 私はこの事業部立ち上げのときから、課題は食料自給率を上げることだと強調してきました。
 ただ、単純に過去の農業のやり方では土地が疲弊しており、その点でいえばわれわれの持つ微生物資材を使ってもらい土壌を回復させ各地の特産品を大量に生産できるようにすべきだと思います。やはり安全・安心な食料をつくっていくことが第一で、それも継続的に生産をしていただく。そのお手伝いで何ができるかを考えていきたい。単純に農業資材を販売するのではなく、出光の持っている技術を広く農業を捉えて活かすように真剣に取り組んでいきたいと考えています。

(2008.07.08)