生産コスト低減の技術開発に
大きな期待が…
用途別の品種改良や加工向けに照準を
◆価格志向強まる
――きょうの話題の背景には世界的な食料需給のひっ迫があります。調達は極めて不安定です。安全性でも様々な問題が起こっています。また国内の食料自給率は向上せず、高齢化や耕作放棄地も問題です。
人口減少で食料消費も減少傾向にある中で、競争が激しく、消費でも生産でも現場は海外農産物との競争で施策のかなりをそちらにとられる状態が続いています。外食チェーンやスーパー、加工産業などが直接、農業生産に参入するという事態も本格化しました。
一方、消費生活では所得格差拡大の反映と、食の簡便化傾向が新しいニーズを生み出しています。
その中で生協は消費者の食と暮らしのパートナーとして最も信頼される存在になることを目標に掲げて事業を展開されていますが、その現場でどういう変化が起きているのか、どんなことが大事なのかなどを最初に赤松理事長にお話願えればと思います。
赤松 昨年の中国産冷凍ギョーザ事件を契機に国産農産物への回帰があり、同時に穀物が暴騰して昨年の今ごろは食品の値段がものすごく上がりました。
相対的に安かったお米のほうへ需要がシフトして和食関連がよく利用されました。ところが今年に入ってボーナスの出る6月ごろから1人当たり利用金額が顕著に少なくなりました。
買い上げ点数が減り、単価も去年より安くなってダブルパンチです。1割くらい食費が落ちているのではないかなという感じです。一時がんばったお米も元に戻りつつあります。
年収300〜200万円の世帯にとって1人1食100円のおかずでやれるかというと大変な話です。もやしなど安い食材が売れています。
消費者モニターでも昨年は食の安全安心が一番でしたが、今年は価格がそれを上回り、価格マインドが非常に強くなっています。
中国産はいやがられていましたが、ウナギなどは売れ始めました。国産はその4倍くらいしますからね。おカネさえあれば国産を買いたいが、そうはいかないというのが実情でしょうか。
国産の牛乳でも200円を超したら利用量がガクっと落ちました。パンは価格を上げ過ぎてお米にシフトされましたが、今は安くなりましたのでお米からパンに戻るかもしれません。
成清 値ごろ感みたいなものがありますね。景気とか収入によって。
赤松 牛肉もそうです。上がり過ぎたから豚や鶏にシフトしちゃった。ところが、それも供給過剰となって今は豚肉なんか大安値です。安いから利用するかというと消費量は一定ですからね。
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赤松 光 (コープネット事業連合理事長)
あかまつ・ひかる 昭和26年生まれ。49年戸山ハイツ生協を経て合併により都民生協(現コープとうきょう)移籍、平成7年コープとうきょう理事、13年コープネット理事、16年コープネット専務理事、17年から日本生協連理事、19年からコープネット理事長。
◆急場は越えたが・・・
――全農は生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋ということで「もっと近くに」を標語に生産者、消費者の身近な存在になるということを目標に事業を展開していますが、重点はやはり担い手対策、生産コストの低減、国産農産物の消費拡大ということで、かなり農業生産の維持強化に施策がシフトしている感じです。
特に販売では生協などの重点取引先とか実需者ニーズに焦点を絞る動きをしていますが、どういうふうに生産を組み立てようとしているのか、それと消費の関係をどう捉えているのか、そのあたりをお話下さい。
成清 全農は一昨年から続いた生産資材の高騰をどう乗り切っていくかに、この2年間全力投球をしてきました。
例えば配合飼料については、畑作・稲作に比べると生産コストに占める飼料価格のウェイトがはるかに高い。したがって対応もそこのところをよく考えたものにしているつもりです。
対応は簡単にいうと[1]全農がやること[2]生産者にやってもらうこと[3]両者が共同でやることの3つに分けました。
全農がやることは、まず飼料原料の量を確保すること、つまり安定供給です。2つ目は値上げ幅をなるべく抑えること。原料を安く買い、併せて製造と配送のコストを下げるということです。
生産者にやってもらうことは生産性を上げてもらうこと、この1点です。
豚を例にとれば、種豚を飼って、できた子豚を肥育する一貫生産が主ですが、子豚を肉豚に仕上げる数が農家によってまちまちです。
最高で母豚1頭当たり28〜29頭出荷する人がおり、一方では13〜14頭の人もいます。要因は病気とかいろいろです。他の畜種もそうですが、そうした生産性をまず上げていただこうということです。
両者が共同してやることについては、畜産経営の現状を消費者に理解してもらうための街頭活動や消費拡大キャンペーンなど広報活動的なものです。
配合飼料価格が一息ついたこともあって、とりあえずの急場は乗り越えられたかなと安心していましたが、昨年からの世界の経済危機で景気が低迷し、他の農産物と同じように畜産物も全畜種で価格が下がっています。長期化の兆しがあるので心配しているところです。
肥料対策も同じように3つに分けた取り組みとしていますが、全農が行う原料調達については飼料に比べれば肥料のほうが厳しい実態にあります。
飼料原料は農産物とその副産物が中心ですが、肥料原料は調達方法が多様で、鉱物資源や工業の副産物など様々で、原料により供給要因が異なっているからです。
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成清一臣 (JA全農専務理事)
なりきよ・ひとみ 昭和25年生まれ。48年全国農業協同組合連合会入会、平成14年全国農業協同組合連合会関連事業部次長、15年全国農業協同組合連合会関連事業部部長、17年全国農業協同組合連合会常務理事、19年から全国農業協同組合連合会代表理事専務。
◆栽培技術に力点
したがって、飼料以上に肥料原料を安定的に確保することが課題ですが、一応の目処はついています。
畜産農家の生産性向上に対応する耕種農家の取り組みについては施肥コストの削減があります。
無駄な肥料を減らす取り組みで施肥コストを削減するということは土壌の分析調査が基本になります。経済連・県本部と協力して全国にいくつか広域のセンターをつくり、そこで分析をして、それに合う施肥体系づくりを進めています。
飼料、肥料ともに一時的な高騰は収まったものの構造は変わっていないためこれからもこうした取り組みを続けていく考えです。
――コストダウンは進んだと見ますか。消費者の低価格志向に対しては生産コストを削減しないとマッチできません。
成清 耕種についてコストダウンというと、生産資材価格を引き下げることに議論が集中する傾向がありますが、もちろんそれも大事ですが生産性の向上を含めて作物別に生産コストを総体としてどのように引き下げるかという視点がより重要だと考えています。
そこで、来年からの中期計画で力点を置きたいと考えているのは、高度な栽培技術の修得、開発、普及です。耕地の整備から種子の選定、育苗技術、気温・日光の管埋、肥料・水管理などにわたる総合的な栽培技術をイメージしています。作物は植物であること、当たり前のことのようですが、このことを再確認し科学的にアプローチしていこうと思っています。つまり、肥料の価格を1袋10円下げた、20円下げたということではなく、トマト1個の生産コストは今年10だったが、次は8にしよう7を目指そう、そのために苗の作付け本数を2割増やそうなどという取り組みが重要だと考えています。
――値ごろ感がないと売れないという現実に合わせた生産にしていこう、その商品に合わせた売り方にしていこうという形で努力されているのだと思います。
一方、こんなに自給率が低くて供給の安全・安心が保てるのかという不安があります。生協では商品政策の中で自給率の向上に資するような商品を推奨し「お米そだちのみのりぶた」とか、いくつかの取り組みを進めていますが、それらの進み具合はどうか、また自給率が向上しない原因を消費者はどう考えているかなどをお話いただけますか。
赤松 生協や小売が売っている商品としての輸入農産物は2%ほどしかなく、加工向けが圧倒的です。実は国産農産物にしても加工向けのほうが多くなっています。国内の農業生産は今、8兆円ほどですが、うち加工用が米を含めて半分近くになっているのではないですか。
だから需要の側を押さえそれに合った野菜や米を作ることですね。その点で先ほどおっしゃった栽培管理は重要です。米だって用途別の品種を作っている産地がたくさんあります。
◆自給率と飼料
自給率は生鮮野菜は国内でほぼまかなえますが、問題は飼料です。家畜の飼料が自給できれば自給率100%も望めるのですがね。
飼料用米は補助金がなくなってもやれるように耕畜連携の循環型体系をどうつくっていくかです。その方向でトータルのコストが社会的に下がっていけば良いと思います。今はまだコストが合っていません。
消費者には自給率と飼料が結びつくようなイメージは余りないようです。米と野菜と飼料は分けて考えたほうが良いと思います。
安全安心については余りナショナリズムにならないことです。よその国の人も安全なものが食べたいのですからね。
日本は優れた農業技術を海外に移転してきましたが、安全性についても管理技術などを伝えて貢献すればよいと思います。
――生協は飼料問題を焦点として今後も持続的に豚肉や鶏卵に取り組んでいくのですか。
赤松 補助金はいずれなくなる可能性もあります。その時に技術革新で生産性が上がっているかどうかですね。飼料用米の単収1tが実現していれば持続的取り組みの条件になります。
今の「みのりぶた」は100g当たり20円ほど割高ですが、豚肉全体の中の1割くらいだから、そういう所得階層に買っていただいています。
しかし補助金がなくなって50円ほどに上がれば、理屈はわかっていても二の足を踏む人が予想され、「売れるだろうか」という疑問が湧いてくるでしよう。
――全農としても飼料を1つの焦点として取り組んでいるのですか。
成清 日本の飼料産業は安くて安定供給のできる米国のトウモロコシを基本に組み立てられています。太平洋側に受け入れ港とサイロをつくり、飼料工場を配置するというビジネスモデルです。
それによって畜産物も安定的に供給できるようになりましたが、視点を変えて自給率という点でみれば決定的に違った道を歩んできたことになります。
全農の飼料事業もこうしたビジネスモデルで組み立てられていますが、自給率向上のためには飼料穀物の自給率を高めることが最も重要だと考えています。
(後編につづく)