生産コスト低減の技術開発に
大きな期待が…
用途別の品種改良や加工向けに照準を
◆反収1トンを目指す
成清 飼料米流通の最大の課題はトウモロコシとの価格差です。各地で飼料米の利活用がすすんでいますが、ほとんどの場合、この価格差を国の補助金と消費者側の負担(蓄産物をプレミアム付で買う)で賄っている実態にあります。これはこれとして大切な取り組みですが、飼料米を広く流通させるためには米の生産コストを決定的に引き下げる仕組みづくりが必要だと考えています。究極的には前に触れた広い意味での栽培技術を確立することになると思いますが、国で措置してもらうことと民間で対応すべきことと分担してすすめることになると考えています。
全農としては、3年ほど前からこういう観点に立って、田植えから栽培管理、刈取り、乾燥、保管、配送の各ステージ別にコスト引き下げの方法について研究しています。研究をしていくなかで、いろいろなことがわかってきました。たとえば、乾燥工程で言えば、刈取り前のモミの水分は24%ほどあります。食用にしろエサ用にしろ使うときは15%程度まで落とす必要があります。食用の場合は、昔は天日干しが主流でしたが、今はほとんど火カでコストはトンあたり2〜3万円かかっています。これでははなしにならないので、田んぼで刈取り時期を遅らせて、いわば立ち枯れ状態にして水分を落としその後火力で乾燥させるなどの工夫が必要になります、また、この場合は雀などの鳥害にも気をつけなければなりません。
今、トウモロコシの価格は、配合飼料工場への持込ベースで約2万5000円です。仮に乾燥を含めた流通経費を3000円に抑えたとして田んぼでトンあたり2万2000円でモミを仕上げなけばペイしないことになります。この実態をみると気が遠くなる思いがしますが、国家百年の計、田んぼの集積を含めて官民あげてじっくり取り組むべきテーマだと考えています。究極的には、この研究をなしとげることでしか水田のフル活用は実現しないと思っています。幸い国の独立行政法人のなかには、ものすごいノウハウが蓄積されています。国家プロジェクトとして取り組めばできないことはないと思われます。
――1t2万5000円の輸入トウモロコシに対抗しなければなりませんね。
赤松 飼料用はおいしくなくてもよいのですからね。それに高タンパク米のほうがよいはずです。
成清 そうです。タンパク値は高い方がよいと思います。
赤松 しかし家畜も味がわかるのでは?(笑い)
成清 海外の飼料原料で今、危惧しているのはタンパク源です。BSEの関係で魚以外の動物性タンパクが使えず植物性タンパクが飼料用に当てられていますが、その中心になるのは大豆粕で配合飼料に約10%配合します。
大豆粕は大豆から油を絞った粕ですが、中国が大豆の輸入を急増させています。直近は4000万tに近い数量を輸入しており世界の貿易量の50〜60%を占めています。反面、わが国の需要はピークで500万t程度あったものが今では300万tを割っています。その意味でも高タンパクの米は注目されます。
赤松 日本は生産調整以来、高単収の品種を開発すると無言の圧力(笑い)がかかり、味が第一で低単収・低タンパクを求めるという逆の努力をしてきたようですね。
しかし先だって行った旭川の農事試験場では、用途を限れば単収1tの品種は「できるんじゃないのか」といっていました。
◆広域で地産地消
――全農は購入先の多角化方針を掲げていますが、どんな認識からですか。
成清 トウモロコシの買付け先はやはり米国です。よその国は生産量やインフラや政治的安定度で米国に及びません。多角化はマイロ、大豆、麦が中心です。
――値上げ要因があるからリスク分散をしたいという認識ですか。
成清 そうです。
――「みのりぶた」について、自給率向上に寄与するための商品という組合員の認識はどうですか。
赤松 大宣伝をして理解して買ってもらっています。しかし豚肉の高い時に価格の契約をしていますから生協としては厳しい状況です。
――コープネット事業連合はエリア内で地産地消を進めていますが、進展状況はいかがですか。
赤松 エリアの8都県で2010年には域内調達を50%にする目標ですが、現状は40%前後です。国産品ならどこで作った物でもいいじゃないかとの意見もありますが、やはりなるべく近くで生産者の顔が見えることを重視しました。
8都県の全農県本部との協同組合間提携として各県ごとに生産目標を立てて話し合い、それぞれ交流も活発です。8月下旬にはシンポジウムを開いて生産者の報告があるなど「大変良かった」と好評でした。
――実需者ニーズをつかんで生産するという点で全農としてはどうですか。
成清 農産物も、自動車や電気製品などと同じように消費者の求めているものは何かということに留意して生産する時代になったと思っています。これまでは、身近に1億を超える消費人口があったために、生産の側の都合で農産物をつくっていてもなんとかやれてきましたが、これからの世の中はそうはいかないと思ってかかるべきです。消費者のニーズ、すなわち売れ筋情報をすばやくキャッチして、そのニーズに応じて生産するというように発想を180度転換すべきだと考えています。
全農の青果センターは今は別会社にしていますが、昭和47年に設立された市場取引ではない産地と卸・小売との相対取引を基本としています。設立当初は苦労もあったようですが、今では生産者と消費者を結ぶ懸け橋になるという全農の経営理念を実践している事業拠点として社会にキチンと認知された存在になっています。また、平塚にある営農・技術センターは肥料や農機の技術講習のほかに、栽培技術の研究もしています。これからは、消費者のニーズを待っているのではなく、先に触れた生産面での総合的な栽培技術と相まった作物を提案していくことが大切だと考えています。
視点を変えれば、データは古いですが、2000年の国民の飲食費の業態別支出額を調べたものがあります。それによると、総額で80兆円で、内訳をみると、家庭消費を中心にした生鮮品は15兆円で年々減少しています。次に、加工品に41兆円、外食に24兆円となっており、こちらは逆に増えています。近年のデータはありませんが、この傾向はさらにすすんでいると思われます。単に家庭消費をターゲットにした生産ではなく、最初から加工や外食用途を自的にした生産も当然のこととして視野に入れておくべきと考えています。
――加工にからんでは全国JA大会議案が打ち出している資本提携とかもあります。コラボですね。
成清 モチはモチ屋です。武家の商法では失敗します。ところで平塚では漬け物用のナスを作ったりしています。ダイコンにしてもおろし用と漬け物は違っていて当然だとも考えます。
――外食産業やスーパーなどが農業に参入していますが、生協にもそういう動きがあるのですか。
赤松 生産の場がわかる実験的な範囲ではやりたいと考えています。生協が事業を起こして本格的にやることは考えていません。もしやるとすれば、どこかと協同することになります。今いわれたようにモチはモチ屋ですからね。
株式会社の農業参入については、門戸を広げておいて別の規制をきちんとかけておけばよいと思います。外の血を入れたほうが活力が出るし、新しい技術も生まれてくるのではないでしようか。
――全農としてはどうですか。
成清 農地や農村はJAの所有物ではないのだから、その限りにおいては会社が参入しても止むを得ない部分はあると思います。
――農家の反対理由は株式会社の農業は長期に持続しないので周辺の農業に悪影響を与えるというのが主なものです。農業以外に転用されるとか、また採算が合わずに荒らし作りや耕作放棄になると困るとかです。
赤松 でも、それは生産者だって同じことをやってきました。転用収入が非常に大きな比率を占めている農家もあり、土地の有効活用が進まない原因にもなっています。
――平場ではそういうところもあります。
成清 しかし必要な農地は国の規制できちんと確保しておくべきと考えます。
――農地の確保というのは自給率とか自給力の政策の問題です。
成清 私の居住地でもいつの間にか農地が駐車場になったり家が建ったりで、すごい勢いで農地が減っています。涙が出る思いです。大都市周辺においては耕作放棄というよりは他用途転用が問題です。
――集落営農や担い手対策も含めて何とか農地を維持しようとしても、楽観はできないのですね。
◆基本は助け合い
――全農の事業は株式会社でかなり動かしており、生協も一時に比べ株式会社の取り組みが進んでいます。それと比べて協同組合としてやることの意味をどうとらえておられますか。
赤松 協同組合は最後は人と人のつながりです。助け合いが基本です。しかし市場経済のもと、事業は利益を出さなくてはなりません。そこが矛盾です。
本当は生協なんだから、おカネのない人を助けなければいけない。とすれば商品を安くで提供すべきです。だからなるべく、おカネのある人たちから利益を挙げて、おカネのない人には安くで売るという所得再分配みたいなことができれば良いと考えます。
しかし、まだまだ、そんな力はありません。そこで少なくとも組合員にはそうした助け合いの心を持ってほしいということで情報提供をしています。
――助け合いを軸にというところが一般の株式会社と違うという、そこが存在価値ですね。
成清 農協も基本は相互扶助です。ただ、農業で暮らしを立てている農家が少なくなり、また、正組合員より准組合員が増えているなど相互扶助の主体が大きく変わってきているなかで、農協設立時の理念だけでこれからも組織運営を続けていくことには無理があると思われます。時代の変化に応じて組織理念を再構築すべきときにきているのではないでしょうか。
対談を終えて
コープネットの赤松理事長と、全農の成清専務に政策レベルではなく、実際に事業を進めている立場から、消費と生産の現場、自給率向上に向けた取り組み、農地の保全、協同組合の価値等についてお話いただいた。
農家の組織である農協と、様々な職業を持つ幅広い階層の人たちが組合員となっている生協とは、農業に対しても自ずから立つ位置が異なる。しかし、具体的な取組の中では、資材価格高騰の中での生産者のコスト引き下げの努力、地域の農産物を出来るだけ地域で消費しようとする消費者の取組、自給率の向上を目指したえさ米の取り組みなど、お互いの持ち場での協同の取組が進んでいる。心強いことだ。
ただ、これらの取り組みも、政策の後押しがなければ続けられないのは、日本の耕地の状況では自明の理であり、消費者の理解も得て、水田フル活用を後押しする長期政策の実現に向けた協同が進むことを願う。
(前編記事)