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農業協同組合研究会 09年度第1回課題別研究会(1)

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今度こそ思い切った政策を!農業協同組合研究会 09年度第1回課題別研究会(1)

民主党政権下での新たな食料・農業・農村基本計画策定に向けた課題」を議論
・農業・農村の危機を見据える
・自給率向上と戸別所得補償制度
・今度こそ思い切った政策を

 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は11月21日、東京都内で09年度第一回の課題別研究会を開いた。
 テーマは、新たな食料・農業・農村基本計画、民主党の戸別所得補償制度、食料自給率50%目標など。審議会企画部会長の東大・鈴木宣弘教授が報告し参加した約50人のJA関係者と研究者らが議論した。
 (1)では研究会で行われた議論と梶井功会長の提言、(2)で鈴木宣弘東大教授の報告を伝える。
 政策の位置づけについて「食料自給率を上げるための国策とすべき。食料安全保障のための生産者への直接支払いだとすれば国民の理解も得られる」などの意見があり、梶井会長は「自給率50%目標はどうなったのか」と提言した。

今度こそ思い切った政策を! 農業協同組合研究会◆農業・農村の危機を見据える

 食料・農業・農村政策審議会企画部の部会長でもある鈴木教授が報告で強調したのは、政権交代が起きても「基本的には農村現場に対して何をしなければならないか、政策課題は変わっていない」ということ。努力しても農業生産額・所得が大幅に落ち込んでいくという「閉塞感」を打破しなければ明るい展望は持てず、そのためには場当たり的な政策ではなく将来方向をしっかり見据えた政策が求められている、と指摘した。
 そのために具体化すべき政策は実は前政権にも問題意識としてあり、基本計画策定に向けて昨年末から新たな議論が始まった審議会でも、課題として認識されていたという。
 それは農業者の経営安定のためのセーフティネット強化策としていわゆる最低限の所得を補償するいわゆる「岩盤」対策の導入と、農業の持つ多面的機能など「農があることの価値」に対する直接支払いの充実だ。そのうえではじめて農業者が創意工夫や経営能力を最大限に発揮できる環境整備となる、と鈴木教授は整理した。
 また、担い手の定義も、新基本計画の議論では、大規模化によるコストダウン一辺倒の視点ではなく、多様な経営体という視点も意識されていたという。
 こうした課題を議論するなかで政権交代となったが、新政権の目玉政策である戸別所得補償制度は、これまで議論されてきた課題を解決する政策との位置づけで新基本計画策定に向けて議論されていく見通しだという。


◆自給率向上と戸別所得補償制度

 参加者との意見交換ではテーマは戸別所得補償制度に集中した。
 この制度は生産費と販売価格が構造的に逆転してしまっている米などの品目を対象に「岩盤」対策として所得補償を行おうというものだが、「そもそも需給政策がしっかりすれば販売価格は生産費をもとに決まるのが経済学。なぜ戸別所得補償制度が必要なのか」との指摘もあった。
 この指摘に関連して広く生産者の所得を補償する政策は「産業政策なのか、社会保障的政策か、あるいは農村の環境を維持する環境政策なのか。性格があいまいな点が多くの混乱を生んでいるのではないか」との声も出た。
 この点に関しては、鈴木教授は報告のなかでも今回の米戸別所得補償は、補償水準の決め方によって対象が絞られる産業政策的な性格が強まるか、社会保障的な性格が色濃くなるかに特徴があるのではないかと指摘した。
 また、所得を補償するという場合、農業所得の水準を想定しそれに対する「岩盤」政策として構想すべきではないかとの意見も。
 そのほか、この政策の位置づけについては「食料自給率を上げるための国策とすべき。食料安全保障のための生産者への直接支払いだとすれば国民の理解も得られる」との意見もあった。そのために自給率向上に資する品目と、それ以外の品目への支援策は区別すべきではないかとの指摘だ。
 いずれも今後の政策検討にあたって重要な指摘で鈴木教授は「農業・農村の将来をしっかりつくるには、国境措置と国民が国産農産物を買い支えることが必要だが、それでも不足する所得への支援として生産者が安心できる措置は必要ではないか」と話した。


◆今度こそ思い切った政策を

 そのほか関心が集まったのは備蓄を含む需給調整政策。鈴木教授は「出口対策」の重要性を指摘し、政府備蓄を飼料米、米粉米などに活用するほか、食料援助にもあてるといった対策が主食用の生産調整の役割を緩和することにもつながるとした。
 現在、備蓄について新政権は明確な方針を打ち出していないが、民主党の政策集では300万トンの棚上げ備蓄構想が明記されている。 ただ、参加者からは「300万トンの根拠は何か」との指摘もあった。スイスでは政府と民間の双方で2年分の基礎的食料の備蓄を義務づけているが「不測の事態となっても2年あれば自国での自給体制が整うからとの考えがある」(梶井教授)との紹介もあった。
 そのほか戸別所得補償制度とWTO協定との関係を懸念する声もあったが鈴木教授は「黄色の政策かどうかなどあまり考える必要はないのでは。必要な政策は必要だ、というスタンスでいい。米国など08年農業法で飼料価格高騰に連動して直接支払い額を変動させる政策をつくったほど」と強調した。

◇   ◇

 現場では農業者の高齢化と所得減という切実な現実がある。参加した生産者からは「地域の生産者は70歳以上ばかり。しかも価格低迷で共済掛け金を解約して資金繰りする農家も。遅すぎたなあというのが実感だ。今度こそ(農業再生に向けた)思い切った政策を期待したい」と強調していた。

 

【会長あいさつ】
梶井功 東京農工大名誉教授

◆自給率50%目標は

梶井功 東京農工大名誉教授 民主党のマニフェスとでは生産計画を立てた10年後には食料自給率50%、さらに10年後には60%にすると明確に掲げていた。
 政権交代後、10月から新基本計画策定に向けて企画部会が再開された。しかし、政権交代後の再開された企画部会に示された課題には食料自給率目標の設定という項目はあるものの、50%という数字はない。
 目標があってそれを実現するためにはどういう施策を組むかというのが政策の考え方ではないか。ところが戸別所得補償制度という政策が先にあって、それがうまくいくかいかないかで目標水準を決めようというのでは順序が逆ではないか。この点が企画部会ではどう議論されているのか知りたいところだ。そのほか農地の確保策と耕地利用率の具体的な向上策も自給率向上には欠かせずこの議論も重要だと思う。
 また、90年代からご最近までの農政改革では、最低限の所得を補償するという「岩盤」対策は否定されてきた。それがここにきて現実になりつつあるが、どういう議論が展開されるかも注目される。

 

[研究会での鈴木宣弘東大教授の報告の記事はこちらから

(2009.12.02)