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集落営農 現地ルポ

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【現地ルポ】JAいわい東(岩手県)の協業集落営農から何が見えるか? (田代洋一氏 大妻女子大学教授)

農家から離れない工夫
 ・おくたま農産
 ・とぎの森ファーム
(著者)田代洋一氏 大妻女子大学社会情報学部教授

 農業協同組合新聞(JAcom)では、地域の営農情報や組合員紹介、JA事業のトピックスなどを掲載している各地JAの広報誌を紹介しています。その「JA広報誌だより」をきっかけにしたレポートが大妻女子大の田代教授から寄せられました。
 田代先生がお訪ねしたのは、JAいわい東の協業集落営農の取り組みです。

◆農家から離れない工夫

 本紙の「JA広報誌だより」にJAいわい東の協業集落営農の事例が紹介されたので、早速お訪ねしてみた。
 同JAは岩手県南の東磐井郡一円の合併農協であり、中山間地域にあって水稲よりも園芸や畜産を主作目にしている。同JAは旧農協ごとに営農センターを置いて、JAが地域・農家から離れないよう工夫している。2006年には転作と集落営農を担当する農政対策課を立ち上げた。現在のところ集落営農組織は11、うち3つが法人化しており、さらに2つほど立ち上がる予定である。
 JAは、集落営農(法人)から経理を受託し、資材の大口利用は5%引き、集落営農には2%上乗せしており、今秋には集落営農協議会を立ち上げる予定だ。
 以下では集落単位と旧村単位の大小二つの集落営農を紹介する。


【とぎの森ファーム】

小菊選別の様子 旧千厩町小梨村の尖の森集落をエリアとする組合員43戸、利用権23.3haの組織。前身は1970年頃のほ場整備に伴い設立された、育苗と田植を協同する水稲生産組合である。法人化は2004年。大きい農家ほど機械投資が大変で法人化の意向が強かった。法人ができてからは中山間地域直接支払いも法人が有効活用している。
小菊の収穫風景 法人には集落のほぼ全戸と集落外の7〜8戸が参加している。作付けは水稲12.5ha、大豆5.8ha、小菊2.5ha、飼料稲2.3haなどである。その他に、耕作放棄を防ぐために畑を9haほど借りて、大豆を作っている。
 法人が機械作業と水管理を担い、小作料は10a1万4000円。畦畔管理を地権者がやるとプラス6000円だ。畑の小作料は3000円。オペレーターは常時4〜5人(30歳〜62歳)、作業員は8人、うち6人は小菊担当の女性で32〜77歳。時給はオペが850円、作業員が750円だ。小菊は仏花用で、東北一、二の産地であり、高齢女性も得意とするところだ。
とぎの森ファームのみなさんと田代教授(前列右が岩渕喜一郎組合長、右から3人目が田代教授、後列中央が岩渕修一副組合長) 収支は農業の赤字を営業外収入(交付金等)でカバーしてほぼトントン。部門別には小菊が赤字だが、「米大豆は数人で出来てしまい雇用力がない。全体でトントンなら地元に雇用と収入をもたらすことが大切だ」 という。
 今年の総会で農産物加工施設の建設を決議した。地域に要介護者や一人暮し高齢者が多いので福祉弁当に取組み、豆腐製造、味噌加工にもチャレンジするためという。

(写真)
上:小菊選別の様子
中:小菊の収穫風景
下:とぎの森ファームのみなさんと田代教授(前列右が岩渕喜一郎組合長、右から3人目が田代教授、後列中央が岩渕修一副組合長)


【おくたま農産】

2010年8月のスイートコーンまつりから 旧千厩町奥玉村には8集落があるが、昭和30年代および1997年にほ場整備を行った7集落をエリアとする大規模集落営農である。この前身は整備後に各集落に作られた営農土地管理組合である。やり方としては組合代表等に利用権を設定する方式が多数を占めた。2007年に法人化するにあたっては、2集落が集落単位の案だったが、その他の集落は、法人化への対応が困難であり奥玉全域での法人組織の結成を望む声が多く、ほぼ旧村単位の法人化になった。
田植えの風景 7集落の95%が参加し、構成員339名、利用権面積174ha。運営方式は、小作料が10a13,000円。機械作業と水管理は法人が行い、畦畔管理は7つの土地管理組合等を法人の事実上の下部組織としてそこに任せ、中山間地域直接支払いの緩傾斜の8000円のうち3000円を下部組織に支払っている。しかしそれだけでは足りなくて周到な畦畔管理を地権者にお願いする代わりに、その年の収益状況に応じて10a2万〜3万円を支払っており、法人の収支はトントンか多少の赤字になっている。「法人はふるさとを守るための組織であり、法人に任せきりでは地域は守れない。この支払いがなければ法人化も難しかった」という。
法人のオペレーターは常時10名程度で38〜70歳、50代が多い。作業員はオペのほかに17〜18人である。時給はオペが1300円、その他は1000円。
田植えの風景 作付けは水稲103ha、飼料作32ha、大豆12ha、飼料米3haのほか、小菊、トマト、枝豆、そば、スイートコーン、白菜、えごま等が計17haになる。うち小菊とトマトは個人に作業委託、その他は集落の組合が管理している。小菊等は若い農業者が取り組んでおり、法人一元化で潰してはならないという配慮である。加工販売部を当初から設けているが、昨年「工房あらたま」をつくり、味噌加工、米粉によるケーキの試作等を行っている。メンバーは30代から70代までの女性14〜15名。
法人のゴールは残り1集落も含めた旧奥玉村全体の法人化だ。

(写真)
上:2010年8月のスイートコーンまつりから
中:田植えの風景
下:(同上)


◆2つの法人が示唆すること

[1] 農業集落単位と旧村単位の規模の違いはあるが、旧村単位の場合も、農業集落を下部組織としてきちんと踏まえている。その意味で「集落営農」である。
[2] 東日本の集落営農は、ともすれば交付金を受けるために販売・経理の一元化だけをした「ペーパー集落営農」が多いが、両法人はしっかりした協業の実態をもっている。 その背景としてほ場整備時代以来の長い協業の歴史をもっている。
[3] 水稲と麦大豆だけの集落営農ではなく、園芸地帯の特色を活かして野菜等の集約作も取り込み、青年や女性の本領発揮の場を確保している。とくに女性の就業の場として加工部門等を併設している。
[4] 小菊の取組みや畦畔管理への手厚い支払いなど、法人としての収益性は多少犠牲にしても「組合員の雇用と収入」を大事にし、「ふるさとを守る」ことを追求している。
[5] 農協の地域支援と地域の農協利用がかみ合っている。

◇   ◇

 二つの事例は集落営農や法人化が一朝一夕にはできないことを示唆すると同時に、集落営農(法人)に取り組むために不可欠な要素を示唆しているといえよう。

(2010.09.09)