特集

協同組合組織唯一の総合的研究機関 JC総研誕生

一覧に戻る

JC総研誕生―現場主義の強化で協同組合活動に貢献

・JAの担当者に好評 人事労務管理セミナー
・直売所を活気づかせる「食育ソムリエ」
・協同組合を取り巻く環境変化などを研究

 新年を迎えた今年の元旦、(社)JA総合研究所と(財)協同組合経営研究所が合併し、協同組合組織を会員とするわが国唯一の総合的な研究所として(社)JC総研(日本協同組合総合研究所)が誕生した。そこで、このJC総研がどのような機能をもつのかを、JAの経営支援機能とシンクタンク機能(基礎研究分野)を中心に取材した。

◆JAの担当者に好評 人事労務管理セミナー


人事労務セミナーの会場風景。円内は吉川彰部長 「かつての農協労研時代から続くJAの人事労務課題解決に向けた各種セミナーやコンサル活動は、大変有意義で、業務改善に役立っています」と埼玉県のJAいるま野人事管理部の吉川彰部長は話してくれた。
 なかでも「広域JA人事担当部課長交流会では、その時々のテーマ設定と工夫された運営で、私たちJA担当者にとっては、お互いの意見交換の場として、大いに有効活用してきた」という。
 最近どのような課題で業務改善ができたかと聞くと、「時間外労働の削減」や「メンタルヘルス関係の軽減」などをあげられた。
 経営相談部が担当する「トータル人事制度の確立・運用および人を育てる職場づくりの支援」は、旧・JA総研時代からの重要なテーマだ。とくにJAのニーズが高いテーマでの「人事労務管理セミナー」毎年、多くのJAから人事担当役員や部課長が参加し、講師など専門家の講演による研修だけではなく、吉川部長の談話にもあるように、同じ立場にある全国のJA担当者との情報交換・意見交換が行える場としても有効に活用されている。
 また、毎月「人事管理REPORT」が発行され、現場での実務に役立つ情報が発信されている。
 コンサルティング事業では、すでに導入済み人事制度の運用改善に向けたコンサルやJA出講対応ニーズが高く、JAへの出講では、目標管理や人事考課制度の運用指導に関するものに集中。特に目標管理の出講が22年は前年より5割以上増えているという。また、労務法務の電話相談もここ数年2割程度ずつ増加している。

(写真)
人事労務セミナーの会場風景。円内は吉川彰部長


◆直売所を活気づかせる「食育ソムリエ」


 経営相談部のもう一つの大きな仕事が、JA農産物直売所(ファーマーズマーケット=FM)のコンサルティングやFMに出荷する生産者と消費者の懸け橋役である「食育ソムリエ」の養成だ。
 とくにFM店舗従業員の資質向上をめざす「食育ソムリエ」養成については、22年度から団体受講の受入を実施したこともあり、22年度上半期開講分では前年同期の2倍近い受講者数となった。
 年間14〜15億円販売するJA千葉みらいの農産物直売所「しょいかーご」千葉店には、13名の食育ソムリエが働いている。
toku1101241302.jpg 13名の食育ソムリエのリーダー的存在である山下里佳さんは店では加工品担当というように、各人がレジ係とかバックヤード担当などの仕事をしながら、食育ソムリエとして店の運営に関わっている。
 具体的には、野菜の保存方法とそれぞれの野菜や果物の食べ方・調理法、それぞれの野菜・果物の特徴などをPOPにして掲示したり、チラシにして配布したりしている。
 そのために、生産者から直接、それぞれの野菜などの特徴などを聞くと同時に、その農家でどう調理して食べているかも聞く。それは例えば大根とかニンジンの季節になると同じものが店頭にあふれるが、残さず売り切るために、消費者が知らない美味しい食べ方を伝えることで、需要を喚起するためだ。
 季節に合わせたイベントも、月1回開くソムリエ会議で「年間スケジュール」を決め、山下さんたちが中心になって実施していく。ひな祭りなど伝統行事にちなんだ料理だったり、千葉の伝統料理である「太巻ずし」づくりとか、麹をもっている生産者を講師にした味噌づくりなど、その内容は多彩だ。
 消費者に情報を伝えるだけではなく、消費者から「こんな食べ方もあるよ」とか、新しい情報をもらうこともある。「生産者と消費者の橋渡し」が食育ソムリエの役割だと山下さんは考えている。
 「昨年のような猛暑が農作物にどんな影響を与えているかという話を農家から聞き、消費者にそれを伝えることで、消費者に農業を理解してもらうことも、大事な役割だ」と田中美佐男店長は考えており、そうした面でも期待しているという。
 彼女たちの存在がFMをいっそう活気付けているといえる。

(写真)
野菜の保存方法が分かりやすく、掲示されている「しょいかーご」千葉店。円内は山下さん


◆協同組合を取り巻く環境変化などを研究


 JAの現場を支援する機能と同時に大事なのが「シンクタンク機能」だ。
 基礎研究部では、JAを取り巻く重要な環境要因の変化に関する研究や環境変化に対応するJAの組織事業のあり方に関する研究を柱とした調査研究かつ活動の体系化・重点化を中心に取り組んできている。
 そしてそれらの研究成果は「JA総研研究叢書」や季刊「JC総研レポート」(旧「JA総研レポート」)として積極的に対外発信しているし、今後さらに充実させていく考えだ。
 現在、特別研究会を設置し取り組まれている研究課題は、増田佳昭滋賀県立大学教授を主査とする「農協の組合員制度とガバナンスにかかる研究」(22年度内に報告書をまとめる予定)と、安藤光義東京大学准教授を主査とする「日本型農場制農業への構想と展望に関する研究会」(22年度中に中間報告の予定)の2つがある。
 また、協同組合研究部では、JAや協同組合連携による地域活性化の研究や協同組合運動の教育支援を行うととともに雑誌「にじ」の発行を行っていくことにしている。

 

◇   ◇   ◇


(社)JC総研の誕生にあたって
茂木 守 (社)JC総研会長


 平成23年1月1日、社団法人JA総合研究所は、財団法人協同組合経営研究所と統合し、社団法人JC総研(日本協同組合総合研究所)として、新たな第一歩を踏み出しました。
 経済のグローバル化の進展に伴い、農林漁業を取り巻く環境は悪化し、組合員の活動と暮らしもいっそう厳しさを増してきています。
 こうした情勢のなかで、JAのみならず漁協や森林組合、生協などの各種協同組合はさまざまな課題に直面しています。
 一方で、地産地消の取り組みをはじめ、里山や海を守ろうとする環境保全など地方重視の市民運動が先進諸国を中心に急速に拡大するとともに、2012年を「国際協同組合年」とした国連宣言が象徴するように、協同組合の役割と価値を再評価する動きが世界各国に拡がってきています。
 このように農林漁業や地域社会、環境を巡る状況が大きく変化するなかで、JC総研はJAをはじめ漁協・森林組合・生協などの各種協同組合に関する研究活動の充実・深化をはかるとともに、多様化する調査・研究ニーズに対応するために、「現場主義」に基づくシンクタンク機能と研修・コンサル事業のいっそうの強化に取り組んでまいります。
 それはこれらの取り組みに精進を重ねることによって、組合員と協同組合による諸活動のいっそうの前進に貢献していけるものと信じるからです。
 協同組合組織を会員とするわが国唯一の総合的な研究所として発足したJC総研に対し、会員および関係各位のご支援とご協力を心からお願い申し上げます。

◇ 

研究活動の新路線
今村 奈良臣 JC総研研究所長


 新年からJC総研として新発足するが、これまでのJA総研で、研究所長として指導してきた基本路線を紹介することを通じて、研究活動の革新を紹介したいと思う。
 第1に「実事求是」(『漢書』景十三王伝)の精神で研究・調査活動に全力をあげること。つまり、空理空論ではなく、実態に即し実態解明を通しつつ、その理論化に磨きをかけること。
 第2に「時間軸と空間軸の両者を踏まえて常に近未来の展望を提示する研究」に心がけること。つまり、正確な歴史認識を踏まえ、かつ世界の動向を視野に確実に攻めつつ、近未来(5―10年)を射程に置く研究を進めること。
 第3に、研究成果を多彩なかたちで社会に還元し、農業・農村、さらに農協の活動などにとっての指針となるべき刊行物等を積極的に広めること。
 これは、具体的には別掲してあるように、『JA総研リポート』(季刊)として、各号ごとに、その時々の重要テーマを設定して平易かつ読みやすく、実践にも役立つ内容に編集してある。
 さらに、近未来を展望した時、喫緊の課題とされている大きなテーマについて『JA総研叢書』の刊行を昨年より開始した。これも別掲したように、すでに3冊刊行され、引き続き、2冊がまさに刊行されようとしている。
 さらに研究所としての視野を広め、洞察力を深めるため、「学術委員会」を昨年末に設置し、研究の発展と深化をはかることとした。学術委員会のメンバーは、安藤光義(東京大学准教授)、小田切徳美(明治大学教授)、榊田みどり(農業ジャーナリスト)、鈴木宣弘(東京大学教授)、中嶋康博(東京大学准教授)(以上50音順)の各氏である。これら5人の学術委員会の初会合は旧年末に第1回会合を行ったが、談論風発、研究所の更なる発展に寄与してくれると思う。
 JC総研になっても以上述べた基本路線を踏襲したいと考えている。

(関連記事:「社団法人JC総研が発足」

(2011.01.24)