◆全職員が研修しモデル事業を推進
一等米4割、JAにも打撃 大林氏
――今日の座談会では、最初に22年度のモデル対策に各現場でどう取り組んできたか、その評価は? といったところからお話いただきたいと思います。
JAグリーン近江の大林常務は昨年の座談会で「米づくりは1人ではできない。地域ぐるみ、集落ぐるみで」と強調されていました。モデル対策によってこの点に何か変化はあったでしょうか。
大林 22年度モデル対策についてはほぼ100%、対象農家に加入していただきました。
われわれのJAではこの制度の普及にあたって、全職員研修もやりました。とくに渉外職ですね、営農渉外はもちろんですが、信用渉外、共済渉外職員も含めて研修をして推進にあたってきました。
JAの立場からすれば、これまでは補助金もすべてJAの口座に入っていたわけですが、戸別所得補償制度では「国から個人へ」というつながりが強調されました。そこで、やはり交付金はJAへ、という話も生産者にさせていただいたということです。これも99%、JAを指定してもらったという結果です。
加入申請では、地域水田農業協議会と連携を取りながら、各支店に専門の窓口を設置して申請の手伝いもしました。
ただ、農政事務所もそれなりの動きをしていただいたと思いますが、当初は何回説明の機会があっても、なかなか生産者1人ひとりにまでは理解してもらえなかった。
だから、そこは組合員のためにJAとして力を入れなければだめだということから、われわれも推進に力を入れ、ほぼ100%加入という結果になったということだと思います。その点ではJAがなかったら何もできていなかったのではないか、という思いはあります。
◆米価下落に品質低下が追い打ち
大林 加入推進に力を入れたことから、全体としては理解を得られたのではないかと思っています。一方、米価は大幅に下がりましたね。われわれのJAでも概算金支払いの時期から、今後の需給状況などを考えると、米の価格は下がることが想定されていました。では、いくらにするのか、生産者からはいろいろな意見をいただきましたが、昨年にくらべ60kgで2000円ほど安く設定せざるを得ず理解してもらうのにかなり苦労をしました。
そこに追い打ちをかけるように品質の低下です。われわれの地域では1等比率が40%ぐらいだったんですが、価格低下プラス品質低下でさらに安くなる。1等と2等の価格差で約600円ですから、2000円プラス600円の低下という非常に厳しい状況でした。
そういう意味では10a1万5000円の定額支払いは生産者にとってプラス要素はあったと思います。ただ、西日本のほうが1等比率が悪いなどの状況がありますが、交付金は全国一律ということで不公平感が生産者にはあると思っています。
◆崩れた地域のとも補償
作況97で、ダブルパンチ 下村氏
――JA上伊那ではモデル事業をどう評価されていますか。
下村 特筆すべきことは、22年度は初めて生産調整が達成できなかった年だったということです。上伊那地域全体で、わずか1.9haですがオーバーしました。かつてないことです。
原因は今回の政策転換で、これまで上伊那地域で培ってきた、とも補償が崩れてしまったということです。これまでのとも補償は、加工用米生産を活用したものでした。
たとえば、配分面積が100であれば、そこから加工用米生産分として20を拠出してもらって地域でプールし、加工用米を多く生産する人には一定の補償をしながら主食用米との所得均衡を図り、それによって主食用米の計画生産を地域全体で達成するという取り組みをしてきました。
しかし、モデル対策の実施で加工用米生産は生産調整とリンクしなくなりましたから、市町村によっては、加工用米面積の拠出ができないから配分どおりにします、というところもでてきた。これはJAだけでリードできるものではないので、結果として上伊那地域全体のとも補償が崩れたということです。もちろん市町村によっては継続できたところもあります。
ただ、こうした地域のとも補償の仕組みはこれまでの助成金が水田協議会にまとまって入っていたからできたわけです。モデル対策からは交付は個人ということになると、一旦支払われてしまった交付金からもう一度集めるなんてことはとてもできませんから、ここは課題です。
加入申請は89%ですが、規模の小さい10a未満のみなさんは入っていないので、出荷する生産者はおおむね100%加入だと思います。この点は各市町村の水田協がしっかり組織されていますので浸透力がかなりありました。
1等米比率は96%程度で日本一は守ったのかなと思っていますが、1等米のなかでも1ランク落ちるものが非常に増えました。
概算金は1700円減となりましたし、作況は97でしたから、このダブルパンチでJAの米の取扱い金額については約7億円の減収見込みです。ここから手数料率を考えるとJA全体の収益にも大きな影響を与えており、23年度事業計画にも響いています。
◆下がるべくして下がった米価
計画生産、改めて徹底を 馬場氏
――米価下落が産地に大きな影響を与えていることが分かりした。全国的には22年度をどう総括されていますか。
馬場 ちょうど一年前のこの座談会のときに危惧していたことが、そのとおりになってしまったと思います。
21年産の価格推移を振り返ると出来秋からずっと下がりはじめて、昨年の夏には公表価格で60kg1万3280円(包装代・消費税相当額を控除)となりました。もっとも実際の全農の相対取引価格はもっと低く、1万1500円ぐらい。というのも民間在庫が積み上がっていたからです。22年6月時点の民間在庫は216万t、その1年前も212万tありました(図1)。
つまり、20年産米から持ち越しが生じ、その結果、21年産米をつい先日まで売っていたという状況があった。この状況を背景として22年度のモデル事業が実施されたということです。仮にこのような需給緩和という背景がなければ、すなわち民間在庫が150万tとか、180万tに収まっていれば、まだここまでの下落はなかったかもしれません。
結果として、民間在庫がこれだけあるなかでは価格を下げるだけでした。しかも新たな仕組みは標準的販売価格(1万3978円、全中試算)から下がってもそこは補てんするということでしたから、客観的な需給状況に加え、この仕組みの影響によっても下がった。つまり、米価は下がるべくして下がったということだと思います(図2)。
加入件数については全国的に想定された状況になったと思います。ただ、過剰作付け面積は減ったとはいえ4万1000ha残った(表1)。これも過剰感に輪をかけ需給は緩和したということだと考えています。
そうはいいながらも、モデル事業そのものについてはそれこそ地域のJAのみなさんの力で加入が進んだと思います。
それから生産調整と水田利活用自給力向上事業のリンクをはずした点については少し心配だったんですが、米の計画生産にそれほど大きな影響はなかったと思います。とはいえ過剰作付が残った以上、米による転作に参加することによって、一部分でも主食用の計画生産への参加が進むという当初の想定どおりにはならなかったということだと考えています。
◆地域でどう転作を進めるか?
――現場では主食用米以外の作物振興が課題になっています。モデル対策では麦・大豆・新規需要米はそれなりの水準の交付金となったかと思いますが、野菜などの地域振興作物は当初は全国一律10a1万円とされました。その後、激変緩和措置分の予算を地域裁量で助成にあてることになりましたが、この点の取り組みはいかがでしたか。
下村 昨年は転作野菜の作付は助成金額が激減したことから減るのでないかと心配しましたが、結果的に野菜は減ることもありませんでしたが、増えることもなかったという状況です。つまり麦、大豆がつくれない方は、これまでと同様に野菜による転作をしたということでしょう。
その点では制度変更の影響はなかったということになりますが、転作は野菜しかないという地域があるわけで、その点では新制度に無関心だった、といううことかもしれません。また、小麦、大豆の推進もしたんですが、病害や気象などの影響で生産が増えていないのが現状です。
一方でモデル対策では米による転作が強調されたわけですね。しかし、飼料用米にしても米粉にしても需要がなければ作れませんから、推進はしましたが現実に売る場所がないということでした。
今年になってからは畜産農家によるホールクロップサイレージ(WCS)への需要が出てきました。といっても流通に乗るということではなくて、米農家に10a8万円が交付されるなら、米農家が作ったWCSを畜産農家が持っていけばいいではないか、ということです。地域内流通ですね。
◆飼料用米生産は伸びる
大林 生産調整についてはずっと達成できていますが、そのためにこれまでは集落単位でのとも補償を仕組み、麦と大豆を転作作物としてブロックローテーションをしています。どこに麦と大豆をつくって、どこに米をつくるかを集落で話し合い、農地の有効利用と、同じ作るのであればいいものができるようにと考えてやっていますから、その点では制度が変わっても大きな混乱はなかったですね。交付金も集落で一括して受け取り、集落のなかで調整して配分しています。
また、われわれのJA管内は県内畜産の8割ぐらいを生産していることから牛、豚、鶏など家畜がたくさんいます。それに対する飼料用米やWCSの生産も課題ですが、できるものから取り組もうといろいろ研究してもらい、とりあえず採卵鶏への飼料用米供給を始め、22年度は飼料用米で28haほどになりました。
そのほかWCSは10ha、米粉が7ha。まだキャパは小さいですが、やはり実感したのは飼料用米、WCSともにインフラ、ハードの整備の必要性です。たとえばWCSの場合は今まで持っていない機械を導入しなければいけませんし、飼料用米もそれなりに保管できる設備がないといけない。そこはいろいろな工夫をしながらやってきていますが、現状ではこれぐらいの栽培面積が限界です。
今年はもっと増やそうと思っていますが、それにはいろいろな対応策が必要です。
たとえば、近江牛についても飼料用米が使えないかと研究もしてきました。実は近江牛の8割程度を生産していますから、独自の配合飼料工場を持っているんです。そこで生産者の要望に合わせていちばんいい飼料ができるように飼料を配合していますが、今年は米の粉砕機を設置する予定です。牛には米をそのまま食べさせると消化されないので、加熱か粉砕が必要だそうですが、加熱はコストもかかるので粉砕機にしました。
玄米を粉砕して5%混ぜるのであれば配合飼料として使えるということです。ただ和牛には使えずホルスタインとF1(交雑種)が対象です。計画では120t。単収600kgで20haですからなかなか作付を増やすことは難しい。今、その肉は生協を通じて米を飼料にしていることを消費者に理解してもらって売り出していこうということになっています。
WCSでは、ロールベーラーという特殊な機械が入りますから、個々の農家で導入できるものでもありませんし、集落で持ってもなかなか採算がとれない。そこでJA出資法人がありますので、そこが保有してWCSに対応していきたいと考えています。乳用種もたくさんいますからそういった対応でWCSは、現在の倍ぐらいの作付けにしていきたいと思っています。
◆需要開拓と施設整備が課題
下村 米粉用米ではわれわれは地産地消の取り組みをしましたが、2haの作付けにとどまりましたね。JA内部では米粉の工場をつくるべきだという意見もありましたが、現実には需要が見込めません。もちろん学校給食への供給などでこの取り組みは進めていますが。
大林 われわれも米粉は学校給食の取り組みが中心です。やはり全国流通させるには需要の開発がもっと必要な分野だと思いますね。
馬場 米粉は結局、小麦粉との相対的な価格で代替が進むかどうかですからね。今後は小麦価格が上昇してくるかもしれませんが。
新規需要米のなかでいちばん増えたのは飼料用米です。全国ベースで飼料用米の作付けは4000haが22年産では1万5000haぐらいになりました(表2)。また、全体量約8万tのうち4万tは全農の飼料用工場に行っています。これは地場流通だけでなく全国流通をせざるを得ないということで、そこはかなり全農も意識的に取り組んだ結果です。これはきちんと定着させていきたいですね。
(後編に続く)