飼料原料の安定調達へ
集荷拠点の強化と物流コストダウン
◆中国の輸入で価格高騰
――最初に配合飼料情勢についてお聞かせください。
平成18年以降、米国内のエタノール需要が増大し、また、世界的な干ばつ傾向で穀物の国際価格が一気に上がって、日本の配合飼料価格も平成20年の10―12月までに全国全畜種平均で1トンあたり2万5000円ほど上昇しました。
21年には相場が崩れて、1万5000円ほど下がりその後はほぼ据え置きの状況が続きました。しかし、昨年の後半からトウモロコシはまた上昇に転じています。
その理由は、史上最低レベルの在庫率という状況下で中国がトウモロコシを輸入しはじめたからです。それまで中国は大豆を5000万トンも世界市場から買っていましたがトウモロコシは輸入していませんでした。ところが昨年後半から中国国内でのトウモロコシ価格を引き下げるために飼料・工業用途向けに米国から100万トン以上の買い付けを始めたのです。
中国が買い付けを始めたとなると、大変な需要が見込まれるうえに、米国のエタノール需要増もありますから、ファンド資金が流入し穀物相場が一気に高騰したということです。
直近では、シカゴ定期の7月限のトウモロコシは1ブッシェルで8ドル直前まで高騰しました。平成18年のシカゴ定期は2ドル50セント程度だったので3倍程度になったということです。ただ、18年当時は1ドル116円でしたが、現在は80円前後と円高が進んでおり、その差で原料価格としてはなんとかしのいでいるという状況です。
配合飼料価格の引き上げにともなって配合飼料安定基金から補てんが実施されてきたため、農家負担は平成20年の第1次価格高騰にくらべると低く収まっています。ただ、上昇が続いていますので、前回高騰時にもっとも農家実質負担が高まった水準との差は、1トンあたり400円にまで迫っています。
一方、畜産物相場はリーマン・ショック以降、牛肉を中心として需要が低迷していて、平成18年から20年の和牛A4の枝肉価格は1キロ2000円近い水準でしたが、現在は1500円割れの状況です。
飼料原料は高騰し、一方で畜産物価格は低迷するという状況にあって日本の畜産がどうなるのか危機感がありますが、われわれとしては畜産農家の経営安定にいかに寄与できるかが課題です。
◆配合飼料工場の集約も
――具体的な対応策をお聞かせください。
飼料原料の海外調達面では、中国がトウモロコシの輸入を始めているので産地では集荷合戦になるわけですが、全農としては米国の集荷会社のCGB社と全農グレインが原料を着実に確保しています。毎年、内陸のエレベーターを買収し集荷拠点と集荷エリアを拡大させてきました。
また、アルゼンチンからもACA農協連合会との40年にわたる提携関係を通じた買い付けをしています。そのほか、価格有利性があればウクライナ産、南アフリカ産、ブラジル産なども買い付けていきます。その都度、価格に着目して機敏に対応していくということです。
原料を運搬する船についても、長期用船比率を高め30%程度にすることで、船運賃の相場の乱高下に耐えられるような価格にし物流コストを抑えようとしています。
国内では配合飼料工場の集約化、効率化を進めています。今年6月からはホクレンと協力して十勝新工場を稼働させましたし、昨年10月には北九州くみあい飼料と熊本くみあい飼料を合併させて効率化を図りました。今後も老朽化した工場の集約化、効率化は継続して行っていきたいと思っています。
◆生産者ごとに推進担当者
――畜産農家に対する技術面などのサポートも重視していますね。
直接的な働きかけとして、平成22年度から「持続可能な畜産経営の実現」をスローガンに、配合飼料をはじめとする生産資材が高騰するなかでも生き残れる畜産経営をめざした取り組みを展開しています。
具体的には生産者ごとに窓口となる推進担当者を決めて対応する推進体制と、その推進担当者と連携して高度な技術対応を行うサポート体制によって農場の生産性を向上させる取り組みです。
高度な技術対応とは、JA全農の飼料畜産中央研究所や家畜衛生研究所、ETセンター等の技術を農場で活用していくということです。
とくに肉牛肥育農家については、枝肉重量アップと肉質改善の2つを大きな目標に、定期的な全頭体重測定とビタミンAコントロールの徹底などに取り組んでいます。
ただ、飼料原料の高騰、畜産物価格の低迷という状況では、今のスピードでは追いつかない面もあるので、取り組み内容を充実させスピードアップを図ることを考えています。
それから配合飼料安定基金が大事ですが、補てん財源が不足するおそれがあります。そのため国の異常基金の発動要件の緩和や、前回高騰時に補てん財源として業界で約1200億円借り入れたわけですが、その借入金の償還の延期と金利助成などを国に要請を続けているところです。
そのほか全農グループの販売会社と連携して消費拡大キャンペーンも展開したいと考えています。第1次配合飼料価格高騰時にも新聞広告を出したり街頭宣伝を行いましたが、何が効果的なのかを検討しているところです。
◆飼料原料の今後の動向
――トウモロコシなど飼料原料の高騰に対しては政策支援もぜひ必要だと思いますが、今後の世界的な需給、価格動向はどう考えておく必要があるのでしょうか。
エタノール需要は、すでに世界の需給のなかに組み込まれています。ですから大きな波乱要因にはなりません。今後の最大の波乱要因は異常気象による不安定な生産と中国ですね。中国は今年300万トン程度買い付けるとわれわれは見ていますが、人によっては1000万トンだとも言います。そうなると米国の生産量が3億4000万トンで、そのうち輸出は5000万トン程度ですから、中国が1000万トン単位で輸入を増やしていくとなれば大変なことになるわけです。これに世界各地で発生している異常気象による供給不安が重なれば世界の需給がさらにひっ迫するリスクもあります。
小麦は世界中で作られていますが、トウモロコシは産地が限られています。また、食用だけでなく飼料用やスターチ・工業用などさまざまな用途がありますから、中国の需要増大が見込まれるなかで相場は大きく崩れることはないだろうと思っています。1ブッシェル6ドル割れはあってもそこからさらに下がることはないだろうと。これだけ高騰すると世界中でトウモロコシを生産するのではないかと思われるかもしれませんが、耕地やインフラに制約がありますから、やはり米国中心にならざるを得ないわけです。米国での大豆とトウモロコシの作付面積の奪い合い、それと中国の需要動向によっては、8ドル台への高騰もあるだろうと考えています。
こういうなかで今後はトウモロコシに代わる原料をどうするかというのが最大の課題になると思います。
◆震災で新たな体制も構築
――東日本大震災による影響と今後についてお聞かせください。
今回の震災では北日本くみあい飼料の本社も含めて被災したことや関東でも停電が起きて、東北地区への配合飼料供給が滞ってしまって生産者にご迷惑をおかけしたことをお詫びしたいと思います。おかげさまで6月末には原状復帰することができました。
現在、震災をふまえて事業継続プラン(BCP)を作成しています。これは全国レベルで、どこかで震災などが起きたときに、どの地域からどの銘柄を供給するかというプランです。今後はどんな災害があっても、別の地域から生産者の求める銘柄が供給できる体制をつくっていきます。
―ありがとうございました。
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