◆目標を大きく上回る15万haに供給
23年農薬年度から本格的に普及推進されたAVH―301剤(混合剤商品名は「エーワン」「ボデーガード」「ゲットスター」)は、農薬登録取得後の全国約6000という多数のほ場での試験結果が好評だったこともあり、全国のJAの4割に当たる285JAで防除暦・注文書に採用された。
そして販売の実質初年度である23農薬年度の供給実績は表にもあるように15万ha以上と計画の13万haを大きく超える実績をあげ、その水田作付面積に対する普及率は9・2%と、予想を上回る好調なスタートをきった。これは、抵抗性雑草の防除に苦慮している生産現場が多かったこと、また、2成分の除草剤であることが特別栽培などで有利であったことも大きく普及した理由といえよう。
とくに東北では、暦・注文書採用JA率が80%と高いこともあって普及率17・5%と高く多くのほ場でAVH―301が使用された。
また、県別の普及率をみると、もっとも高いのが新潟県で25・6%(暦・注文書採用JA率100%)と実に県内4分の1の水田で使用された。次いで岩手県の22・3%(同63%)、秋田県21・5%(同100%)、そして近畿の京都府が19・7%(同100%)と続き、宮城県19・3%(同50%)、山形県18・6%(同94%)が特に高い普及率を示した。九州の大分県が13・5%(同70%)と米どころ東北各県に次ぐ普及率を示していることも注目される。
◆特種雑草にも高い効果
使用されたほ場での除草効果については、SU抵抗性のホタルイ、アゼナ、オモダカ、コナギなどの雑草だけではなく、最近増えているクサネム、イボクサなどの特殊雑草など幅広い草種に対して、概ね良好な効果が得られたという評価が寄せられている。
全農では、さらに安定した効果を得るために、使用後1週間の止水(処理層が壊れないよう、入水も避ける)など、一般の除草剤と同様に水管理の徹底を周知するために、チラシの作成などを検討している。
また、23農薬年度は稲に白化症状が見られたとのクレームがあったようだ。白化症状はフロアブル剤を散布した際に薬剤が大量に稲体に付着した場合に発生する。また、ジャンボ剤や粒剤を使用した場合に見られたケースもまれにあった。
しかし、稲が成長するに従って目立たなくなり、収量には影響がないことが現地試験の結果から分っている。
また、いずれの場合も、処理時に湛水深を深くすることで、白化症状の発現頻度を低減できることも試験によって判明している。
全農では、こうした情報提供や注意喚起を行うなど、事前のJAへの説明や生産者への周知を今後もはかっていくことにしている。
さらに、安定した効果の高さ、特にSU抵抗性雑草だけではなく全国的に問題となりつつある特殊雑草への効果も説明しながら、さらなる普及を目指す。
(写真)上からクログワイ、イボクサ、イヌホタルイ
◆SU剤減少しAVH剤にシフト
日植調による水稲除草剤の出荷量調査結果(平成22年10月〜23年6月、各メーカーからの出荷量)によると、一発処理剤に含まれるいわゆる広葉雑草に効果のある成分(主にSU剤、AVH―301剤、新規ALS剤など)の出荷実績は、これまで広く使用されてきたSU剤が含まれる除草剤の使用率が前年の84%から73%に大きく減少。
その一方でAVH―301(テフリルトリオン)は20万2000ha(集計が10月〜6月のメーカー出荷実績なので全農のデータとは異なる)となり、SU剤の減少分がほぼAVH―301剤の増加につながったといえる。
また、一発処理除草剤に含まれるヒエ剤では、ピラクロニル(協友)が45万ha強と大きく躍進した(主力剤はバッチリ剤〈協友〉、イネキング剤〈三井〉、イッポン剤〈日農〉)。ヒエ剤としての効果に加えて広葉への効果が評価され、実績が増えたのではないかと推測されている。
(写真)上からクサネム、オモダカ
◆MY―100とのコンビで大きな力を発揮
そうしたなかで全農が共同開発したMY―100剤(オキサジクロメホン)は、32万2000haと第2位ではあったが、ピラクロニル以外の主要な他のヒエ剤が前年比80%台に減少するなか、前年比105%と増加していることは注目に値する。MY―100が増加した大きな要因は、AVH―301混合剤である「エーワン」剤が、全農の出荷実績でも10万haを超えていることにあるといえる。
全農が長年にわたって普及に力を入れているMY―100と新たに開発したAVH―301ががっちりと手を組むことで大きな力を発揮しはじめたといるのではないだろうか。
この23農薬年度の実績をバネに、これから始まる24農薬年度での躍進を期待したい。
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園芸分野にも有力剤が登場
カイガラムシの特効薬 「スプラサイド」の権利取得
全農の農薬事業は水稲分野では強いが園芸分野が弱いとよくいわれる。そんな全農はかねてから園芸分野でも有力な剤を開発したいと考えていた。昨年3月に設立された「農薬開発積立金」の使用分野としても、山崎周二常務は、部長時代に本紙のインタビューなどでも早くから園芸分野をあげていた。
そうしたなか、カンキツ・リンゴ・茶などの栽培農家を中心に、各種カイガラムシ類やロウムシ類に対する特効薬として、日本で44年間も使われてきているロングセラー殺虫剤の「スプラサイド」の製造・販売が中止されることになった。
スプラサイドは、シンジェンタが製造販売してきたが、全世界における販売数量が減少したことを理由に、製造販売を中止し、「日本においても今年末をもって本剤のシンジェンタ社としての販売を中止する」(シンジェンタジャパン社)ことにした。
カイガラムシ類は農業害虫だけでも日本に250種類もいるといわれ、防除が難しい害虫だ。スプラサイドは殺虫スペクトルが広いこと、2齢幼虫の初期まで効くなどカンキツなどの生産者にとって使い勝手がよいことや歴史が長い剤なので低コストで提供されるなど、多くの園芸農家に不可欠な薬剤として支持されてきている。
◆国内生産者の営農を守るために
この剤の製造販売が中止されることは、果樹や茶生産者にとっては死活問題にもなりかねず、全農は「国内生産者の営農を守るため」(山崎常務)に、シンジェンタジャパン社の協力も得て、日本における本剤の登録・製造・販売の権利を「農薬開発積立金」を初めて使って譲り受けることにした。
正式には、シンジェンタジャパン社からの製品販売終了(今年12月)後の2012年1月に全農への権利移管が行われ、10月からクミアイ化学工業による製品販売が開始されることになる。
クミ化はかつて本剤を製造販売していた実績もあるので「その経験やノウハウを活かして現在の市場規模を確保していきたい」(石原英助社長)という。
また、最近は「一般の樹木のカイガラムシ類が問題になってきており、そこにも広がることも期待できる」と上園孝雄肥料農薬部長は考えている。
本剤の権利取得は、園芸分野が弱いといわてきた全農にとって、「園芸分野もやはり全農」といわれるようになる第一歩を踏み出したと期待されている。
※山崎常務の「崎」の字は正式には旧字体です。