一人ひとりの声を積み上げ行動へ!
農業生産のど真中から国民に発信する
◆自らの取り組み提示
十勝地区農協青年部協議会は22年度版のポリシーブックをもとに23年度版を作成した(23年度は北海道の12地区全協議会で作成)。 盛り込まれた項目は▽農地の集積、経営規模の拡大、▽新規就農者、農業労働者の確保、▽肥料、燃料、資材、飼料の価格について、▽乳価、▽消費者に対する理解促進についての5つのテーマ。
それぞれの課題について、おおむね(1)基本的考え方、(2)現場の状況、(3)課題、(4)個人、青年部として取り組むこと、(5)JAとして取り組むこと、(6)行政への要請事項、といった項目について盟友たち自身が議論をして考えを示している。
たとえば、「農地の集積、経営規模の拡大」については、「周りに農地の出し手がいない。また、出し手がいても賃借することになり中長期的な営農計画が立てられない」、「「後継者がいないと相続で土地が分散。所有者も分からない農地が発生」、「経営規模拡大をしたいが、機械など施設投資が高く負のループに陥りやすい」などと現状を指摘、課題として▽借地料の適正水準の設定、▽農地の出し手への支援、▽相続の際に農地の一括買い取りを行う仕組みづくりなど総合的対策が必要だと提起した。
そのうえで、個人や青年部として取り組むこととして、「農地を任せられるよう地域で信用される農業者となることをめざす。地域の実態に応じて共同で法人を設立することを検討する」などをあげ、要請事項としては、農地を分散させずに地域の担い手が引き受けられるような国としての制度や、農地の出し手への奨励措置、条件不利地域での借り手へのメリット措置などを求めている。
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北海道農協青年部協議会のポスター。「エキサイティング・イノベーション」がスローガン
◆学びと発信も大切に
この「ポリシーブック」で注目されるのが、農業者として現場をしっかり認識し、さらに個人や青年部として取り組む目標を打ち出すことだろう。
肥料など生産資材の問題についても単に価格の安定や政策支援を求めるだけではなく、「小さい節約を地道に積み上げる」、「栽培技術の向上と実践」、「しっかりとした知識を学ぶための勉強会を行う」などと自らの行動目標を示した。
新規就農者の確保についても「自らの農業に誇りを持ち積極的に農業を行っていることをアピールする」、「若手農業者の先輩として自分たちが相談相手となる」などを示し、消費者に対する理解促進の課題では「自ら食農教育の知識を習得する」、「親としてまず自分の子どもに食農教育をする」などを挙げたうえで、青年部としての積極的なPR活動を行う方針を示した。
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十勝地区農協青年部協議会の活動の一コマ。農業理解のため自信と意欲をもって営農を実践していることをPRすることや、食農教育に積極的に取り組むことなどを「ポリシーブック」のなかに自らの行動目標として盛り込んでいる。
◆肩の力抜いた話し合いから
もっともこのように紹介すると、立派な政策提案集というイメージだが、十勝地区農協青年協議会会長としてポリシーブックづくりに取り組んだ北海道青年部協議会の黒田栄継副会長は「入り口は簡単なことから。肩に力を入れないで日頃の疑問、自分の抱えている問題を話し合えばいい」と話す。
たとえば盟友どうしの居酒屋での会話にもヒントがあるのでは、という。「どうすれば小麦いっぱいとれる?」、「ところで、TPPって何?」といった疑問や、「あーあ、俺も嫁さんほしいな」といった盟友にとっては切実な問題まであるだろうが、「それをみんなで話すことによって理解が深まるし、次の行動が見えてくる」と黒田副会長。結婚問題だって仲間で話せば「じゃあ、今度合コンしよう」と次の行動につながるのではないか、ということだ。
具体的にはこうした疑問や問題を付箋に一人ひとりが書き、それを話すことで、課題を明らかにして解決策、行動目標を決めていく―。十勝地区のポリシーブックもこうして練り上げられていったものだ。
JAめむろ青年部の岩間崇浩副部長はポリシーブックづくりを部員に説明したとき「何でこんな面倒くさいことを俺らがしなきゃならないんだ」との声が上がったという。
しかし、どんなことでもいいから話をしようと始めてみると「場は盛り上がりました」。 農地集約の問題から労働力の確保の苦労、中山間地に広がる鳥獣害などなど盟友たちが悩みや課題をぶつけあった。岩間副部長は「みんなが何を思っているのかを共有できたこと自体が楽しかった」と話し、ポリシーブックに盛り込んだことをそのまま青年部の次年度活動の核にしていこうと決まったという。
JA十勝池田町青年部の水上裕喜副部長によると、同青年部ではこの取り組みにより、たとえば盟友の結婚問題も仲間で真剣に話し合うきっかけになったという。「これまでは独身者どうし、既婚者どうしで集まりがちでしたが、結婚も盟友が直面している大事な課題だと分かり、既婚者と独身者を混ぜてグループで話し合うようにしてもらいました。今までになかったことです」。
話をしてみなければ分からないことが分かったという。決して無駄なことではないと今、盟友みんなが感じている。
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北海道農協青年部協議会・黒田栄継副会長
◆一人ひとりの向上が組織の向上
ポリシーブックへの取り組みには、政権交代を機に特定の政党へ要請するだけではなく、農業者がしっかり農業政策について自らの考えを持ち発信していくことによって、安定した政策実現をめざさなければならないという問題意識がある。
ただ、それだけではなくこの取り組みは「青年部の存在意義」そのものと関わること、というのが黒田副会長が強調していることだ。 なぜなら、JA青年組織綱領には「食と農の価値を高める政策提言を行う」こととあわせ、「多くの出会いから生まれる新たな可能性を原動力に自己を高める」、「組織活動の実践により盟友の結束力を高め明日の担い手を育成する」とあるからだ。つまり、自分や組織を向上させることを綱領に掲げている。
そのために自分や地域が抱えている課題を着実に仲間で共有し解決策を打ち出していく、それがポリシーブックづくりだといえる。
「あくまでも自分たちの組織力の向上のためと考えていい。その話し合いのなかから行政やJAへの要請が出てくるはず。入り口はどっちでも同じところにたどりつくはずです」と黒田副会長は話す。
◆PDCAサイクルが要
作成されたポリシーブックはどう活用されているのか? 先行事例となった北海道ではホクレンとの意見交換会で提示、質問ではなく青年部からの事業提案のかたちで意見交換ができたという。知事にも提出したほか、ある町長からは町政に生かしたいとの要望が出されたという。また、あるJAでは組合長との話し合いが講演スタイルからポリシーブックに基づいた意見交換のスタイルに変わった。 盟友からは「積極的にものごとを考えるようになった」、「個人のスキルアップ向上には間違いなくつながった」という声が上がっている。
そして重要なことは、この取り組みは1回で終わらせないこと。作成したポリシーブックをもとに行動しその結果を検証、さらに内容を見直していく、といういわゆるPDCAサイクルに載せることが大切だ。その意味でポリシーブックは行政やJAグループなど関係機関、そして盟友との「コミュニケーション・ツール」でもある。 「私たちは農業生産のど真ん中で生きていて、現場を知る偽りのない声を国民に発信できる。ポリシーブックは私たちの最強のツールだと思う」と黒田副会長は話す。
全国の盟友たちの力強い取り組みが期待される。
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