地域とともに生きる農協をめざして
「つながる」取り組みで組織基盤を強化
◆協同組合原則から大会議案を考える
田代 8月末の朝日新聞の世論調査ではTPP問題をはじめ日本の外交力に期待しないという声が78%を占めていました。国民は政府はあてにならないと思っているようですし、日本の将来は地域から協同の力で切り拓いていくしかないと思われます。その意味で第26回JA全国大会には期待も高く、本日は大会議案を軸に縦横に話し合っていただきたいと思います。
大会議案を拝見し、まずはJAは変わったのかなという印象を受けました。リストラ型経営から事業伸張型へ、支店拠点化などがそれです。果たして変わったのか、それとも従来路線の延長なのか、今大会の新機軸は何かについて、最初に冨士専務からお聞かせいただけますか。
冨士 JA全国大会を振り返ると、やはりある時は前回大会を引き継ぎ、またある時は新機軸を打ち出すということだったと思います。
今回は第25回大会を一部引き継いではいますが、ご指摘のように組合員の高齢化など組織基盤自体が大きな転機を迎えていることからすれば、新しい機軸も出していかなければならないということです。
また、くしくも今回は国際協同組合年でもありますから、大会議案の組織協議でもこれを意識すべきだという意見が出されました。そうした議論もふまえ、今回のテーマを「協同組合の力で農業と地域を豊かに」としたように、「協同」を強調しています。
まず、今回の大会議案では、協同組合原則(左頁)の第6原則の「協同組合間の協同」の重要性をふまえていることを指摘したいと思います。
これは地域による協同、全国における協同、そして国際間の協同、すべてを意識しています。グローバル化が進むなかで競争が激化している。そういう時代環境のなかで、競争ではなく協同による事業方式でお互いが連携し合って豊かにしていく、という立ち位置に私たちはあるということです。第6原則をこのように新しく位置づけて捉えるべきだと思います。
さらに第7原則では「地域社会への係わり」をいっていますが、言い換えれば地域社会への貢献ということであると認識しています。それはなぜか? 協同組合はもともと組合員のための組織であるがゆえ、組合員のための利益集団、だから閉鎖的な組織だと受け止められてしまいがちです。でも、そうではないんだということを、この第7原則が言っているわけです。
地域社会に貢献していく協同組合とは、利潤追求ではない、まさにコミュニティを発祥の地としている協同組合であって、こうした方向を協同組合の価値、原則のなかから位置づけていこうということも、大会議案で強調したいことです。
【協同組合原則】
1.定義
協同組合とは、人々が自主的に結びついた自律の団体です。人々が共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、経済的・社会的・文化的に共通して必要とするものや強い願いを充すことを目的にしています。
2.価値
協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正、連帯という価値観に基づいています。
組合員は、創始者達の伝統を受け継いで、正直、公開、社会的責任、他者への配慮という倫理的な価値を信条としています。
3.原則
第1原則 自主的で開かれた組合員制
第2原則 組合員による民主的な管理
第3原則 組合財政への参加
第4原則 自主・自立
第5原則 教育・研修、広報
第6原則 協同組合間の協同
第7原則 地域社会への係わり
◆農業振興が地域の活性化に欠かせない
田代 大会議案のはじめにはJA綱領に加えて協同組合原則が掲載されていますね。今のお話からその意味が理解できます。
種市市長に伺いたいと思いますが、青森県は東日本大震災の被害にも遭われました。今、地域で何が問題なのか、それに応える大会議案になっているかお聞かせ願います。
種市 農業基本法が施行されてちょうど50年ということですが、私が高校を卒業したのが昭和35年でした。当時を思うと基本法ができて新しい農業がこれから始まるんだという思いを持ちましたね。
そのときに東畑精一さんが今の農業は改革が待ったなしだ、いわゆる時計の針を止めないで修理をするようなことが求められているという話を聞きました。厳しさも感じましたが当時は1ドル360円の時代、とにかく1日1万円、1万ドル農業をやろうと提唱しながら、農業は天職だと思い一生懸命に取り組んだことを思い出します。
今は行政を預かる立場となり、この立場で農業をどうするかを考えなければいけないわけですが、やはり農業や漁業が活性化しないと町は元気にならないと感じています。たとえば冷害に見舞われたとなると、もう町全体が寂れます。そこはつながっているんです。
ただ、農業は自然相手の仕事ですからなかなか大変で、しかも三沢市の場合はとくにやませというハンディがある。それならばと私たちは長いもなど土のなかにもぐる野菜を作ろうと努力をし、今では全国に誇れる野菜産地になったと思います。厳しい環境でしたからそれが逆に絆の強さを生み、たとえば共同出荷など、とにかくみんなで力を合わせて産地づくりをしようとしてきました。
しかし、今は外から見ていると、農協運動というものが少し下火になったのかなということを感じます。やはり農協は運動なくして事業なしだと思いますが、今は環境が厳しいために経済オンリーに振り回されているという感じを受け、農協運動があって経済活動がある、ということを少し忘れかけているのかなという気もしています。
冨士専務が指摘した社会貢献のことで思うのは、そもそも農業とは社会貢献をしなければこれは発展しないのではないかということです。ソロバンと論語という言葉もありますがソロバンが経済だとすれば論語とは文化だと思います。ここにも着目しないと農業の発展はない。農協はそこが原点で、もう一回戻る必要があるのかな、ということを感じています。
◆「次代につなぐ」ため次代のニーズをつかむ
田代 たしかに農協にとっては運動と事業のかみ合わせが大切ですが、大会議案ではこれを「次代につなぐ協同」と言っているわけですね。
冨士 種市市長が言われる運動、いわゆるJAにおける協同活動は、今の第一世代といわれる方々が作りあげたものですね。しかし、その方々が高齢化し、本来の協同活動や運動というものから事業に結びつけていくというパワーが落ちてきているという課題が生じています。そこをもう一回、世代交代するなかで再構築していくことが求められるということです。
種市 農協職員が組合員宅を訪問すると、おじいさん、おばあさん、農協が来たよ、という言葉が出るといいますね。ですから、世代交代のなかでやはり若い世代が農協に求めているもの、それをきちんと把握する。そこには福祉活動などもあると思いますが、それを農協が的確につかむことによって信頼してもらえるようになると思いますし、そのうえで若い世代の組織化も図っていくべきではないかと思います。
もうひとつは外に向けての発信をどうするか、です。今はメディアの時代ですからどう活用し国民の理解を得るかがこれからもっともっと大事になるという気がします。
田代 広報についても議案の実践指針の4番目の課題として「国民理解の醸成」が強調されていますね。
冨士 これも協同組合原則の第5原則にあることです。そこでは教育・研修と並んで「広報」を挙げていますね。つまりインナーだけではなく外に発信していくことの大切さを強調しているわけです。たとえばTPPなど、社会、経済の問題に対して自分たちがどう考えていくかを発信していかなければなりません。
これがなぜ必要かといえば、自分たちの営農や暮らしを豊かにしていくにはもう自分たちだけで完結しないからです。他の人や組織と結びつくことによって豊かになっていく。地域の方々や企業、団体等とつながりあっていくということのためにも、広報活動が大事だということから、第4の柱にしました。組織内広報も大事ですが、外に向けてわれわれの思い、気持ちを発信していくことが大事だということです。
◆「10年後の姿」をめざして働く
田代 そうした取り組みも含め、今回は初めて「10年後のJAの姿」を打ち出していますが、これは非常に評価されていると聞いています。
ただ、大会は3年ごとに開くわけで、10年後の姿を示したことがかえって3年で達成しなければならないことをあいまいにした面がないかも危惧されます。3年ごとの大会と「10年後の姿」との関係をどう捉えればいいのでしょうか。
冨士 10年後か、20年後かという議論もありましたが、今の時代は10年程度が提示できる現実的な姿だろうということになりました。ただ、このめざす姿はいわば当たり前のJAの姿でもあり、むしろその意味は、いろいろな面で組織の力が落ちてきているなか、JA役職員は何のために働いているのか、これに応える姿として全国のJA役職員の共通の目標にしようではないかということです。
そのうえで事業展開としては、やはり3年を節目に計画する。これを10年後にめざす姿につなげていく。
そのために実践指針も示しました。ただこれは一つの参考例です。日本は北から南までさまざまな条件があり、まさに金太郎飴的な取り組みはできません。ですから今回の「地域農業戦略」、「地域くらし戦略」、それから「経営基盤戦略」の3つの戦略を、それぞれJAが策定しようとは言っていますが、一律の数値目標は提示していません。むしろ自分たちのJAの課題を組合員とともに徹底的に話し合って3つの戦略をつくる、そのことこそが目標なのであって数値目標を示さなかったのも今回の特徴だといえます。
◆地域の声を聞き振興計画を立てる
田代 三沢市でも地域振興計画を作られていると思いますが、行政の計画立案のポイントをお聞かせいただけますか。
種市 冨士専務が言われたように10年後の姿というものをなかなか一本化して出すことはできないというのはその通りでJAグループの場合はそれぞれの単協、県連なりで計画を立てる必要があると思います。
三沢市でも総合振興計画を作っています。これは10年間の計画で前期5年と後期5年に分けています。ちょうど今その前期の5年が経ったところで、この間の反省をしたわけですが、やはり自分たちだけで反省するのではなく市民にもアンケートに答えてもらうなど、いろいろ意見をもらいながら、さらに今後5年間の目標を立てようという作業をしています。市民からアンケートをとればわれわれがいいことだと思っていても市民はなかなか評価していないといったことも分かり、それなら見直すということにもなります。
さらに新しい時代のなかで何が必要になってきているのか、それを加えながら目標をきちんと設定していこうと考えています。
総合振興計画には「健康で助け合うまちづくり」、「環境と共生し安心できるまちづくり」など6つの大きな柱があります。その柱のなかに24項目ほどを設定するという組み立てにしているほか、1年ごとにこれだけはやるという重点目標を掲げています。やはり目標がないと職員の方々もなかなか何をやっていいか分からないですから、目標を立ててそこに誘導していかなければなりません。
東日本大震災では三沢も被害を受け、額でいえば78億円でした。そのうち45億円は漁業関係で津波で港は全滅、船も沈没し、漁協事務所も甚大な被害を受けました。すべてを失ったわけですが、震災からの復旧、復興を最優先として1年で復旧させることができました。漁業者も早期に操業を再開し今では震災前と変わりなく仕事をしていますから、今後は総合振興計画をどう実現するかが課題です。
◆協同の力で産地づくりを
田代 地域にとっては持続的な農業をいかに確立するかが課題だと思います。先ほど三沢市が今では全国に誇れる野菜産地になったと言われましたが、改めてこれまでの取り組みをお聞かせいただけますか。
種市 実は三沢は野菜などは全然できなかった地域です。昔は他の地域から仕入れてきてそれを市民が店頭で買うということでした。そこでもう絶対に三沢でも野菜を作って販売しようと私も若いころに仲間と立ち上がって、直売所を始めたんです。そのころは交代で店番をして、持ってきた野菜を売るということをやっていました。
ただ、野菜といってもカボチャと馬鈴薯だけ。市場にはまったく当てにされず、東京に出てきて市場に売り込んだこともありましたが、三沢の野菜はもういいよ、と言われたこともあって、私は今に見てろ、きちんと産地を作るぞ、と言って帰ってきたこともありました。
でも5年も経たないうちに結構、産地化したんです。それが長いもなどの根菜類です。とくに長いもの生産に取り組んだときには、3畝や5畝の作付けではだめだ、本気にならないから最低でも10aはやれ、と呼びかけたものです。さらに共同でトラクターを買ったこともあってたちまち産地になりました。今では農協だけでも野菜の販売額は65億円ほどになると思います。その販売には経済連や全農という組織の力もありました。
ただ、長いもについては二次加工ができていないため、今度新設する給食センターに加工センターも併設して、なんとか地産地消にもつなげていきたいと思っています。給食には野菜だけでなく地元で獲れた魚介類も使おうと計画しています。
田代 今ではにんにくも有名ですが、まず長いもから始まったということですか。
種市 そうです。三沢では地元の企業と提携して無菌苗を作って農家に供給したことが非常に品質のいいにんにくづくりにつながって、今では県内でも商品化率はいちばん高いのではないかと思います。一時は中国産ニンニクの輸入が増えましたが、やはり安全、安心の国産がいいということで今では市場で引っ張りだこです。これからは黒にんにく、これを産地化しようと取り組みをはじめています。
◆6次産業化による所得向上も新たな課題
田代 三沢市のように各地で地域農業を振興していくためにもJAの販売戦略が重要になると思いますが、JAの販売戦略で強調したいことはどこでしょうか。
冨士 まさに種市市長の体験のように、私、作る人、JAは売る人、ではなくて生産者とJAが一緒になって産地化していく、加工も考える、新品種、新技術にも一緒になって取り組み、そして生産者を組織化していくということが大事だと思います。JAが生産者と一緒になって事業提案をしていく、そのなかに販売戦略があり、販売戦略のうえに産地化がある、という関係にあると思います。
つまり、営農指導から経営支援、さらに販売までJAが事業提案できる体制をきちんとつくろうということです。またそれをJA、連合会、県本部、そして全農との連携で実現していこうということでもあります。
同時に農業経営管理・分析については中央会が経営管理支援システムを持っていますから、JAもそれを活用して高度化し、JAでも生産者の財務指導ができるようにフォローアップしていくことも提起しています。
もうひとつは6次産業化の促進です。これは先般、国会で成立した6次化ファンド法の活用も含めてのことです。
今、農業生産額は8兆円ですが、末端の食料消費額では90兆円になります。輸入品を除いても60兆円はある。その一部を所得に取り込むという意味でも6次化、加工流通に取り組まなければなりません。それも1次である生産段階から加工し流通させ所得を上げていくことが大事なわけです。
その観点から6次化ファンド法には積極的に対応していこうと考えており、JAグループ全国連と政府がつくる機構(農林漁業成長産業化支援機構)からの出資で「JA・6次化ファンド」として100億円程度を組成することを検討しています。それを活用して農業者やJAなどによって6次産業化事業体をつくる。つまり、JAグループ主体のバリューチェーンづくりをめざすということです。
田代 たとえば、被災地でも復興支援を名目に企業が農業に進出している地域もありますが、そうではなくJAグループが主導していこうという考えでもあるわけですか。
冨士 まさにそういう意味でのJA・6次化ファンドです。6次産業化といっても企業だけが利益を得るというかたちではなく、生産者にきちんと所得が残る仕組みをつくる、そういう意気込みでやります。(関連記事)
今こそ農村の可能性を引き出す事業構築を
JAの役割と機能 積極的に発信しよう
◆地域営農ビジョン運動の意義
田代 その一方で高齢農家、兼業農家、女性農業者など「多様な担い手」が役割を発揮することも課題としていますから、そのためにはやはり直売所も重要になるのではないかと思いますが。
冨士 JAが関わっているファーマーズ・マーケットは全国で2000ほどあり2600億円ほどの販売額になっています。高齢農家の方でも年間500万円、600万円の売り上げがある方もいらっしゃいますから、非常に活況を呈しているといえます。そこではまた規格外の農産物で加工品をつくるといった新しい商品企画が誕生するという動きも見られるなど、直売所を拠点にしていろいろな事業が展開されている例もあります。そのような場を、地域活性化の拠点にしていくことが大事だと思います。
田代 大会議案の重要な柱に地域営農ビジョンがあります。一方で農政としては「人・農地プラン」を推進していますね。地域営農ビジョン運動の位置づけや特徴をどう理解すればいいのでしょうか。
冨士 もともと第25回大会でも、「集落営農ビジョン」という言葉で地域の将来ビジョンを組合員とともに描いていく運動に取り組むことにしていました。しかし、そこに行政による「人・農地プラン」が打ち出されたわけです。そこで今回議論になったのは行政が進める、その「人・農地プラン」とは別にビジョンづくりに取り組もうとしてもうまくいかない、現場が混乱する、ということでした。ですから、「人・農地プラン」のほうが後発なのですが、「地域営農ビジョン」づくりには「人・農地プラン」と一体として取り組むと整理したわけです。
ただ、「人・農地プラン」は地域で選んだ担い手に農地を集約していこうというプランですが、われわれの「地域営農ビジョン」はそれだけではなく販売戦略や農家の組織化、JAの果たすべき役割といったことを盛り込もうということです。
それから、「集落」という言葉を今回は使っていませんが、それは集落といえば水田だ、という受け止め方になってしまうからです。畜産地帯も野菜・果樹地帯も含めて将来ビジョンを描く運動なんだ、という意味を強調するためにも「地域営農ビジョン」としました。
◆多様な担い手を組み合わせる
田代 「次代につなぐ協同」のためには農家の内外から青年が農村に定着してもらうことも重要です。国は新規就農支援で給付金を給付する事業をはじめましたが、JAとしてはどんな独自の取り組みが求められますか。
冨士 すでにJAでも、農業インターン制度などによって臨時職員として3年間、所得を保障し農家で実習するとか、JA出資法人で研修するというやりかたで独り立ちを支援していくという取り組みを始めている事例も数多くあります。そこに国の青年就農者交付金を活用することもできますから、新規就農問題でははずみがついてきていると思います。
同時に、最近の若い人のなかには、専業的に農業をしようという人だけでなく、半農半漁、半農半林業といったかたちで、農村で生きていくこと自体に価値を見出している人もいます。地域のなかでいろいろ兼業をしながら農業をやっていければいいというわけです。
そういう青年層に農村に定住してもらうことも大事ですし、定年帰農者への支援も大事になります。農村では60代はまだまだ基幹的な人材ですから、そういう方々にもがんばっていただくための支援は不可欠です。こうした多様な担い手を組み合わせて地域農業を振興していくということだと思います。
◆支店の拠点化にはどう取り組むべきか?
田代 「支店拠点化」も今回の新機軸ではないかと思いますが、同時にこれまで広域合併にともなう支店の統廃合と金融支店化も進めてきており、現場ではどうすればいいのか、という声も聞かれます。
冨士 今回の組織協議のなかで、支店を拠点にして組合員と向き合うということについては評価もありましたが、これまでの取り組みをふまえると果たしてどうなのか、という意見もありました。もっとも議論になったのはこの支店の拠点化ですし、組織協議を経て修正したのもここでした。
現在、709JAで支店は8700ほどあります。1支店あたりの職員数は11人、区域は中学校区ほどで人口は1万5000人というのが平均像です。
もちろん地域によって違いはあり、支店といっても小規模な金融店舗もあれば職員数が20〜30人もいる基幹支店もあります。また、経営上の理由から統廃合を進めているJAはそれに引き続き取り組むということです。
そのうえで自分たちのJAはさらに支店を統廃合していくのか、現状程度を維持していくのか、また、今のかたちがたとえば本店、基幹支店、支店という機構だとすればそれを今後はどうするのかなど、きちんと戦略を出してほしいということです。
これから支店において、さまざまな協同活動と事業をどう結びつけるのか、それをガバナンス、職務権限も含めてどう再構築していくのかということを、しっかり検討していかなければいけないということです。
田代 種市市長は地域にとってこの支店拠点化をどうお考えですか。
種市 私も農協の役員時代には支店を拠点にという考え方でした。ガバナンスの問題については本店がそれを発揮し支店が動いていけばいいと思っていましたが、これは事業の中身によると思います。銀行でも支店で決済できる融資案件もあれば本店でなければいけないこともあるでしょう。要は本支店の分担ということになるのでしょうがJAの場合、いちばん大事なことは営農指導だと思いますからそこは支店が組合員と向き合って実践することだと思います。
◆地域くらし戦略とJAのライフライン機能
田代 今回は「地域くらし戦略」にも非常に力点が置かれていると思います。
とくに被災地支援で避難所にいち早くを米を集めて送ったり、女性部が炊き出しを行ったりとライフラインとしてのJAの機能が注目されましたし、高齢者介護や買い物弱者対策でもJAが注目されていると思います。
一方でJAの生活事業は採算の点から子会社化や外部委託化の動きもあります。地域くらし戦略と生活事業との関連をどのようにお考えですか。
冨士 地域に立脚したJAである以上、「地域くらし戦略」に力を入れていかないと組織・事業基盤の強化につながっていかないという問題意識があります。組合員はもちろん地域住民に対してもライフラインの一翼を担い、JAの総合力をいかんなく発揮するという位置づけにしたいということです。
一方ではご指摘のように、生活事業は生活店舗も含めて縮小してきていますから、全農とも連携して新たな生活事業を展開する必要があります。例えば、すでに、生活アドバイザーの導入、太陽光パネルなど自然エネルギーを導入した住宅を供給する事業、買い物弱者対策、またJAくらしの宅配便等に取り組んでいるJAもたくさんあります。
そうした新たな生活事業の展開をしていくことを基本に置きながら、もうひとつは、ここでも「協同」ということも重視したいと思っています。先ほどから“つながる”ということを強調していますが、組合員とJAがつながることはもちろん、地域の人々とつながる、ということです。組合員の基盤だけではなかなか生活の問題を解決できないという状況がありますから、地域の人々の力を借りて事業を展開していく、場合によっては地域外の人々とつながっていくということが不可欠です。
それから医療、高齢者福祉事業を一体のサービスとしてJAの総合事業制という強みを生かし地域のなかで安心・安全な暮らしを提供していく。これらをトータルに「地域くらし戦略」として描こうということです。
◆JAの良さをいかにアピールするか?
種市 私も総合事業を展開しているところがJAの良さだと思いますし、さらに全国的なネットワークを持っていることも素晴らしいことだと思います。
今、行政でも地域の一人暮らしの方や身体に障害を抱えている方に対してどうサポートするかは大きな課題です。たとえば買い物の代行はできないか、など行政でも課題になっているわけですが、地域のなかで困っていること、何かを頼みたいと住民が思っていること、これにはJAができることであれば取り組み、JAの素晴らしさをアピールしていく必要があると思いますね。
田代 最近、私はJAがタクシー会社をやってもいいのではないかと思っています。JAが山間部の集落に移動販売のサービスをしている例もありますが、品揃えがどうしても限られてしまいやはり市街地のAコープにいっていろいろと買い物をしたいという声もあるといいます。それなら送迎の車を出すというサービスもあるでしょうが、実際に聞いた話では町中のAコープに行くのにタクシーを使っているというわけです。ですから、買い物弱者対策としてもどういう戦略でやっていけばこの地域に役立つのかを考える必要もあると思います。
種市 それは行政も同じでどういうところにどういうかたちで手をさしのべるのかということですが、その場合、JAがこういうサービスをするという提案があればそれを行政が支援するかたちをとるのも行政の役割だと思います。行政ももちろんですが、JAにも今求められていることは何か、それを吸い上げる作業をしていただきたいですね。
田代 一人暮らしの孤独死といった問題も起きているなかでJAの職員の方が定期的に訪ねてくれるとなればかなり安心感が違ってくると思います。
種市 そうなれば都会で暮らす子どもたちにもJAは素晴らしい組織だなと評価されることにもなり、それがJAへの理解やイメージが変わることにもなると思います。そういう社会貢献をしながら事業に結びつけていく。ここが大事なところだと思います。
◆自然エネルギーによる地域づくり
田代 自然エネルギー、再生可能エネルギーの利用も課題になりますね。
冨士 これについてはわれわれもぜひ取り組むべきだと思っていますが、小水力や風力といったエネルギー分野はJAが事業主体になかなかなりにくく、今の枠組みでは売電の事業主体にはなれません。
ですから、自然再生エネルギーだけの事業体をつくり売電収入で地域を活性化していくという単線の構想ではなく、自然再生エネルギーを使って地域興しをしていく、たとえば旅館や、レストラン、または牧場の経営をするとか、ですね。木質バイオマスの利用では熱も生み出すわけですからそれを給湯に使うなど、地域全体の資源を再開発するようなプロジェクトとして取り組み、地域を振興していくという考え方を持っていきたいと思います。そこにJAとしても役割発揮できると思うので、広く地域のめざす方向を見据えながら自然再生エネルギーを考えていきたいと思います。
種市 まさに農村の可能性をいかに活用するかということだと私も思います。
◆安心・安全で豊かな暮らしのために
田代 それでは最後にまとめとしてお話をいただけますか。
種市 私は農業に携わり農協で仕事をし、それから行政に関わってきたわけですが、基本的な考え方は同じだという気がしています。JAであれば組合員が主役ですし、行政では市民が主役です。
当然、市としても地域の振興計画やビジョンをつくり実践していきますが、その考え方として私は「協働のまちづくり」と言っています。つまり、市民自らがどういう町でありたいか、それを提案してもらう取り組みを進めています。協働のまちづくりというのは何でも行政主導というのではなく本当に市民が求めていることに市民も主体的に取り組もうということです。その提案に基づいて私たちが事業として総合振興計画のなかに盛り込んでいく。
JAについても3年なり、10年なりの目標と計画を立てることが求められているわけですが、最初にも言いましたようにJAの事業は協同活動がなければ成り立たないのではないかということです。
信用事業にしても共済事業にしても銀行や保険会社があるわけですから、JAは協同活動があるから成り立っているんだということを今一度きちんと整理をして組合員に理解を求めていく必要があるのではないかということですし、組合員ばかりではなくJAという組織について市民、国民に理解を求めていくことも大事だと思います。
冨士 やはりめざすべきは安全・安心で豊かな暮らしということです。それは豊かな食があり文化があり、そして高齢者であっても安心して暮らせるケアや医療があり、エネルギーも自然再生エネルギーで満たされているという姿であって、それをJAが組合員だけでなく地域の人々とともに作りあげていく。そのためにさまざまな取り組みを実践していこう、それを大会で決議するということだと思います。
田代 食に加えてエネルギーも地産地消という考えがこれからは広がってくると思います。今日は幅広くお話をいただきました。この大会を機に、各県の方針の下、各地で地についた実践が始まることを期待したいと思います。ありがとうございました。
座談会を終えて
お二人は大会議案の勘所を議論する最適任のキャリアであり、かみ合った議論になったのではないかと思う。
種市市長が強調されたのは、協同活動あっての農協事業という点であり、支店拠点化のポイントも営農指導だと言われる。市の計画も、市民にどういう町でありたいかを提案してもらったという。市民と提案責任を分かち合う時代だ。大会にもそれが必要だ。
冨士専務のお話からは、協同組合原則という原点に立ち戻って取り組む意気を感じる。単協多様化を踏まえ今回は数値目標を示さなかった、水田に偏ることを避け「集落」ではなく「地域営農ビジョン」にした、JAファンド100億円等、新たな話もうかがえた。支店拠点化の具体的戦略は地域に投げ返されたようだ。准組合員対策、経営管理委員会など今後に積み残した論点もいくつかある。
これからの日本は地域自立しかない。大会を契機に、農協と自治体の協働による地域づくりが切望される。(田代洋一)