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中国が嫌いになったEさんへ(続き)2015年8月31日

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【森島 賢】

 Eさんの「中国が大嫌いになりました」という手紙について、私の感想を前号で書きました。
 そこでは、日本の対中侵略戦争についての、中国の謝罪要求は、主に安倍晋三首相に対するものですが、それだけでなく、村や町の知識人に対するものでもある、という考えを書きました。
 今回は、その続きです。

 私は友人から、お前は「中国派」だ、と言われることがあります。私は否定しません。
 それは、中国に親しい友人が何人もいる、という理由だけではありません。私は中国が目ざしている社会体制に、親近感を持っています。中国は、世界の各国のなかで最も理想的な社会に向かっている、と考えています。
 現在の状態は、経済格差と官僚の腐敗、という2つの深刻な問題をかかえています。多くの人は中国の、この欠陥を批判しています。私も彼ら以上に厳しく批判します。しかし、少しづつですが、中国は理想社会に向かっている、と考えています。

 官僚の腐敗ですが、一昨年の正月に習近平主席は、今後10年間で根絶する、と内外に宣言しました。私はそれに期待しています。
 腐敗の原因は一党独裁にあると考えます。そして一党独裁は、日本の侵略戦争に抗戦するための必要悪だったと思います。1つの指導部のもとで一致団結しないと、抗戦できなかったのでしょう。
 日本だけでなく欧米諸国も中国を敵視していたし、いまでも敵視しています。一党独裁はそれに抵抗するために、止むを得なかった歴史の残滓だと考えています。

 もう1つの格差問題ですが、中国は経済格差の原因である生産手段の私有制を否定しています。私有制は格差の原因だけでなく、諸悪の根源なのです。だから、中国は私有制を基礎にする資本主義を否定し、社会主義へ向かっています。
 だからといって、中国は旧ソ連のように生産手段を国有制にして、国家官僚が独裁するような社会主義を目指してはいません。
 例えば農地という重要な生産手段は、国家有ではなく社会有にしています。実際には村有制です。だから村にある農地を誰がどれだけ使うかは、所有者である村が決めています。村民が民主的に決めています。
 中国が作ろうとしている社会の理想像の第一歩がこれです。 そこに私は共感します。

 もう少し詳しく、この理想像を描きましょう。
 この理想像では、村をほとんど自己完結した社会にします。村を基礎単位にして、社会を構成します。国家は村の連合体に過ぎません。ほとんど全ての政治権力を村に集中します。国家が持つ政治権力は、ごく僅かな範囲に限定します。
 国家が果たすべき責任は、警察、消防や、教育、医療などの無料で公平な給付と、村をまたがる全国の道路網、通信網の整備などに限定します。それに必要な経費は、社会の基礎単位である村が、村民の数に比例して公平に負担します。平和主義の国家だから、軍隊はありません。軍事費はゼロです。その代わり外交に力を入れます。

 この政治体制が理想像だとする理由は、政治権力を村に集中し、それを把握した権力者である村長は、村民の誰もが顔見知りで、人柄もよく知っている人だからです。悪い人は村長になれません。もしも村長が悪いことをしたら、村民がリコールして、すぐに辞職させます。村民の意志を、直接かつ即時に政治に反映させます。
 「村」といいましたが、それは旧村か、せいぜい旧郡くらいの広さが適当と考えます。顔見知りの範囲です。町の地域は「村」を「町」に読み替えれば同じことです。

 この社会は旧ソ連のような独裁的な社会主義とは、ほど遠いものです。村民の自由に基づく平等で民主的な社会主義といっていいでしょう。
 それは、古代から連綿とつづく村落共同体を引き継ぐものです。「群れ」で生きる動物としての人間の本来の姿です。人々を結びつける靭帯は、助け合いの気持ちです。この社会は協同組合社会といってもいいでしょう。日本の総合農協は、その模範です。
 日本の農協は、腐朽した資本主義社会に対峙し、それに代わる歴史的使命を持った先駆的な組織として、世界中から熱い注目を浴びています。それは、胸を張って誇れることです。

 社会主義は市場と両立しない、という人がいます。しかし、中国の社会主義は市場経済を取り入れています。中国は「社会主義市場経済」といっています。市場経済を取り入れることで、経済の中に自由に裏付けられた活気をもたらします。怠けている村は、村民の収入が減ることで、村全体が社会的な制裁を受けます。そうすることで国家全体が活性化し、豊かになります。
 生産者の自由な発想による、平等で参加型の社会主義です。国家の計画部局からの命令に従うのではなく、自由な発想で、市場をみながら、つまり、市場に反映された、消費者である国民の意向に従って生産するのです。

 国家が官僚による経済統制を弱め、村々が無政府的に、勝手に物を生産すれば、国家全体では、やがて過剰生産になり、不況になって失業者が続出する、という人がいます。しかし、それを未然に防ぐのは、国家の重要な役割りです。国家は、金融政策や財政政策などの経済政策で、不況をやわらげ、失業者をほとんど無くすことが出来るでしょう。それは国家の責任です。
 いま、中国経済は不況に陥っています。ここからどのように脱出するか、世界中の人が、かたずを飲んで、ある人は暖かく、また、ある人は冷たく見つめています。私は暖かく見守っています。
 すこし長文になりましたが、あなたの手紙に触発されて、私の社会観の基礎的な部分を書いてみました。これが私の理想社会の像です。中国はこの理想像を目ざしている、と考えています。ご批判を戴ければ幸いです。



【大連通信】

中国について大連を中心に書いたのでご参考までにお読みいただければ幸いです(太田原、森島)

◎麗しきアカシアの大連へ 第1号(Word)  ダウンロード
・清岡卓行の大連小説
・大連市歴史年表

◎麗しきアカシアの大連へ 第2号(Word)  ダウンロード
・ダイレンかタイレンか
・月寒を月札布に変えよ

◎麗しきアカシアの大連へ 第3号(Word)  ダウンロード
・北海の真珠...大連へ
・司馬遼太郎の絶望

◎麗しきアカシアの大連へ 第4号(Word)  ダウンロード
・満鉄 あじあ号
・3等車に乗った浅沼稲次郎

◎麗しきアカシアの大連へ 第5号(Word)  ダウンロード
・大連の春
・親日家が多い大連

◎麗しきアカシアの大連へ 第6号(Word)  ダウンロード
・中国の農協改革は
・日本型総合農協が模範

◎◆麗しきアカシアの大連へ 第7号(Word)  ダウンロード
・満州移民
・痛恨の結末

(前回 中国が嫌いになったEさんへ

(前々回 首相は誤った歴史観を訂正しなかった

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