「積善の家に餘慶あり」という思想2015年9月28日
神谷慶治先生の家の応接間には、「積善之家必有餘慶」の額が掲げてあった。中国の、実に5000年前の格言である。日本では、普通は表題のように読むようだ。
その応接間には、現役の学生だけでなく、卒業生や若い農業者など10人ほどがたむろしていた。「来る者は拒まず、去る者は追わず」という風だった。塾長格の先輩は「オレの悪口はいくら言ってもいい、困ったことができたら、悪口は忘れてオレのところに来い」といっていた。戦時中は広い庭を掘り返し、芋を作って食べたりもしたそうだ。
そうした中で、先生は多くの時間を割いて、二宮尊徳の報徳の考えを話してくれた。高度成長が始まる直前のころである。
ここでは、旧き良き時代を懐古しようというのではない。
「積善の家に餘慶あり」とは、ふだん善行を積み重ねれば、やがて思わぬ慶事がやってくる、という意味だろう。慶事がくるのは、自分の世代ではなく、子や孫の世代になるかもしれないし、結局、慶事はやってこないかも知れない。慶事は期待しない、という意味でもある。
この思想は、市場原理主義の別名である「3ダケ主義」とは遥かに遠く離れている。そして、これは農協など協同組合の根本思想でもある。思想以前の素朴な社会観や人間観といってもいい。
◇
積善餘慶の思想の対極にある「3ダケ主義」とは、今ダケ、金ダケ、自分ダケ、という主義である。この主義を、各国はどのように受け止めているか。
米国は「3ダケ主義」の本家本元である。株主の目先の利益だけを追う企業が横行している。また、自分ダケよければいい、と考える人が多い。金持ちの自分が払う税金を、なぜ低所得者の医療に使うのか、という不満を言い募る人が多い。
◇
中国にも「3ダケ主義」が、ごく一部にある。それが官僚の汚職につながっている、しかしながら、習近平主席は、汚職撲滅を最重要政策にし、圧倒的な大多数の国民の支持をえて、着々と実行している。
中国メディアによれば、昨年は11月までに横領・贈収賄事件で3万9533人を捜査、処分したという。人口割でみると、日本の各県で平均80人の官僚が捜査、処分された計算になる。
こうした中国の中央政府への国民の満足度について、米国ハーバード大学などが世論調査を行った結果は、92.8%の国民が満足しているという。習近平政権は、国民の圧倒的な支持をえているのである。
積善餘慶の思想は、5000年の歴史を経て、いまもなお生き続けている。
◇
日本との間にある尖閣諸島の問題でも、それがみられる。中国は、この問題は今すぐに解決するのではなく、また、両国が主張を繰り返すのではなく、子や孫の世代の叡智に期待しよう、と考えている。
それに対し、日本の安倍晋三首相は自分ダケの誤った歴史観、つまり日中戦争は聖戦だった、とする歴史観に固執しているので、中国と話し合いさえもできない。
◇
日本はいま、積善餘慶の思想を捨て、「3ダケ主義」に走ろうとしている。
いまの農協改革にもそれがみられる。改革の第1の眼目は「所得増」という金ダケ主義である。そして、外国と競争して打ち負かし、自分ダケ勝ち残ろうというのである。また今ダケが大事で、将来、日本の農業が壊滅してもいい、という考えである。
こうした「3ダケ主義」の農政とは、きっぱりと決別すべきである。そうして積善餘慶の思想のもとで、活き活きと生きられる農村を再建しよう。
(前回 中国は包囲網で圧迫されている(続き))
(前々回 中国は包囲網で圧迫されている)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(132)-改正食料・農業・農村基本法(18)-2025年3月8日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(49)【防除学習帖】第288回2025年3月8日
-
農薬の正しい使い方(22)【今さら聞けない営農情報】第288回2025年3月8日
-
魚沼コシで目標販売価格2.8万~3.3万円 JA魚沼、生産者集会で示す 農家から歓迎と激励2025年3月7日
-
日本人と餅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第331回2025年3月7日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
-
(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
-
ラワンぶきのふきのとうから生まれた焼酎 JAあしょろ(北海道)2025年3月7日
-
寒暖差が育んだトマトのおいしさ凝縮 JA愛知東(愛知)2025年3月7日
-
給付還元利率 3年連続引き上げ 「制度」0.02%上げ0.95%に JA全国共済会2025年3月7日
-
「とやまGAP推進大会」に関係者約70人が参加 JA全農とやま2025年3月7日
-
新潟県産チューリップ出荷最盛期を前に「目合わせ会」 JA全農にいがた2025年3月7日
-
新潟空港で春の花と「越後姫」の紹介展示 JA全農にいがた、新潟市2025年3月7日
-
第1回ひるがの高原だいこん杯 だいこんを使った簡単レシピコンテスト JA全農岐阜2025年3月7日
-
令和7年度は事業開拓と業務効率化を推進 日本穀物検定協会2025年3月7日
-
【スマート農業の風】(12)ドローン散布とデータ農業2025年3月7日
-
小麦ブランの成分 免疫に働きかける新機能を発見 農研機構×日清製粉2025年3月7日
-
フードロス削減へ 乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズ発売 農業総研×NTTアグリ2025年3月7日
-
外食市場調査1月度市場規模は3066億円2019年比94.6% コロナ禍以降で最も回復2025年3月7日
-
45年超の長期連用試験から畑地土壌炭素貯留効果を解明 国際農研2025年3月7日