中国は包囲網で圧迫されている2015年9月7日
この欄で書いた「中国が嫌いになったEさんへ」について、いくつかの意見が寄せられました。
寄せられた意見の1つは、今の中国社会の問題点をいくつか取り上げ、それでも理想社会なのか、というものです。
はじめに誤解を解きたいのは、私もこの意見と同じで、今の中国が理想社会だ、とは考えていません。
私が言いたいことは、たしかに今の中国には多くの問題があるけれど、それらの問題を解決して理想社会へ向かっているし、その実現に社会的、制度的な保証がある、ということです。
しかし、米国をはじめいくつかの国は、それを妨げるために、敵意を持って中国を包囲し、圧迫している。つまり、中国包囲網がある、ということも強調したいのです。
日本は、この中国包囲網のなかの一員です。日本の農業を崩壊させるTPPは、中国包囲網の一部です。また、いま国会で審議中の安保法制案も、中国を仮想敵国にしていて、中国包囲網の一部です。
さて、各国の政治のもっとも底流にあるものは、政治体制として、資本主義を採るか、社会主義を採るか、という点にあります。それは、生産手段の私的所有か、社会的所有か、と言い換えていい。
私は、社会の諸悪の根源は、生産手段の私有制にあると考えています。それを取り除くために、いま直ちに、革命的に生産手段の私有制を全廃するのではなく、生産手段の私的所有権に対して、徐々に規制を強化し、私有権の廃止を目指す。そのように考えています。
◇
中米の両国を考えるとき、中国は自国の資本主義化を最も怖れているし、米国は自国の社会主義化を最も怖れています。両国とも、この点を基軸にして国際政治と国内政治を行っています。中米だけではなく全ての国が、自国の政治体制を守ろうとしています。
それだけなら良いのですが、米国は、隙があれば社会主義の中国を転覆し、資本主義国にしたいと狙っています。中国に干渉し、内政と外交を非難し、米国風の偏った価値観を、中国に力ずくで押し付けようとしています。米国だけでなく、いくつかの資本主義国は、強弱の差こそあれ、そのように考えています。時にはTPPのように中国包囲網を作って、圧力を強めようとします。
いっぽう、中国は他国への内政不干渉を堅持しています。米国の内政に干渉したことは一度もありません。しかし、他国からの干渉を排し、自国の社会主義を守ろうとしています。そめに、国家の統一は最重要課題と考えています。そうしないと、資本主義化されるからです。
◇
社会主義はソ連の解体によって、その失敗は明らかになった、すでに地球上から社会主義はなくなった、という人がいます。だが、そうではありません。中国は旧ソ連型でない、新しい型の社会主義を目ざしています。
どこが新しいかというと、旧ソ連は生産手段を全て国有にしました。そして、権力を国家に集中していました。だが、中国は違います。例えば、重要な生産手段である農地は、国有ではなく、社会有です。農地の所有権は村社会が持っています。権力を国家に集中するのではなく、村に分散しました。村は国家の命令で動く下部機関ではなく、大幅な自治権を持った国家の基礎単位なのです。
その上、近年では市場原理を採り入れています。だから、村の農業をどうするかは、国家の命令に従うのではなく、市場に反映された消費者、つまり国民の意向に従っています。
◇
中国と旧ソ連とでは、とり巻く世界の状況も違います。
旧ソ連の発足当時、周囲の国は全て資本主義国でした。その国々は、自分の国がソ連のような社会主義体制になることに、強い危機感を持っていました。自国の政治体制が根底から覆るからです。だから敵意を持ってソ連をみていました。隙があればソ連の国家体制を転覆したい、と考えていました。
ソ連は、それを防ぐため、権力を国家に集中することが必要だったのです。そこには、取り返しのつかない行き過ぎが、あちこちにあって、ついに崩壊しました。
しかし、いまの中国を取り巻く状況は変わりました。中国は孤立していません。先日の軍事パレードには、49か国の代表が出席し、17か国の軍が参加しました。
◇
ここで強調したいことは、このような状況の変化ではありません。あい変らず強力な中国包囲網が張りめぐらされていることです。そして、中国の社会主義国家体制を転覆し、資本主義化しようと狙っていることです。
TPPは中国包囲網です。農協攻撃の狙いは、反TPP勢力の力を削ぐことです。安保法制案の狙いは、日米同盟の軍事力を強化して、仮想敵国の中国を包囲し、社会主義の拡散を阻止し、さらに資本主義化することです。
中国の国民の大多数は、資本主義化を望んでいません。だから、中国包囲網に対抗します。そのためには、国民の一致団結が何より重要です。
この点で、中国がおかれている状況は、旧ソ連がおかれていた状況と変わっていません。
このことが、本欄に寄せられた意見で指摘された、中国の問題を考える基本点だ、と思います。
各論に入りたいのですが、長くなるので、続きは次号にします。
(前回 中国が嫌いになったEさんへ(続き))
(前々回 中国が嫌いになったEさんへ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(132)-改正食料・農業・農村基本法(18)-2025年3月8日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(49)【防除学習帖】第288回2025年3月8日
-
農薬の正しい使い方(22)【今さら聞けない営農情報】第288回2025年3月8日
-
魚沼コシで目標販売価格2.8万~3.3万円 JA魚沼、生産者集会で示す 農家から歓迎と激励2025年3月7日
-
日本人と餅【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第331回2025年3月7日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】「コメ騒動」の原因と展望~再整理2025年3月7日
-
(425)世界の農業をめぐる大変化(過去60年)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月7日
-
ラワンぶきのふきのとうから生まれた焼酎 JAあしょろ(北海道)2025年3月7日
-
寒暖差が育んだトマトのおいしさ凝縮 JA愛知東(愛知)2025年3月7日
-
給付還元利率 3年連続引き上げ 「制度」0.02%上げ0.95%に JA全国共済会2025年3月7日
-
「とやまGAP推進大会」に関係者約70人が参加 JA全農とやま2025年3月7日
-
新潟県産チューリップ出荷最盛期を前に「目合わせ会」 JA全農にいがた2025年3月7日
-
新潟空港で春の花と「越後姫」の紹介展示 JA全農にいがた、新潟市2025年3月7日
-
第1回ひるがの高原だいこん杯 だいこんを使った簡単レシピコンテスト JA全農岐阜2025年3月7日
-
令和7年度は事業開拓と業務効率化を推進 日本穀物検定協会2025年3月7日
-
【スマート農業の風】(12)ドローン散布とデータ農業2025年3月7日
-
小麦ブランの成分 免疫に働きかける新機能を発見 農研機構×日清製粉2025年3月7日
-
フードロス削減へ 乾燥野菜「野菜を食べる」シリーズ発売 農業総研×NTTアグリ2025年3月7日
-
外食市場調査1月度市場規模は3066億円2019年比94.6% コロナ禍以降で最も回復2025年3月7日
-
45年超の長期連用試験から畑地土壌炭素貯留効果を解明 国際農研2025年3月7日