政党のメルトダウン2016年8月8日
政党とは、同じ政治理念を持ち、その理念を実現しようとする人たちの集団である。実際の政党はどうか。政党はいま、メルトダウン(溶融)しているのではないか。
先日の東京都知事選をみると、同じ政党から2人の候補者が立ち、一方は公認され、他方は公認されなかった。そして、非公認の方が当選した。
日本だけではない。同じような現象が米国でも起きているし、英国でも起きている。
政党はいま、さまざまな国民の政治的要求を結集して、受け止める政治集団になっていない。
はじめに、米国をみてみよう。
先日、2大政党の大会が開かれ、大統領候補を決めたが、両党とも全党員が一致して決めたわけではない。多くの党員からの不協和音が聞こえた。
民主党では、予備選挙で多数の票を集めたクリントン氏を、全党員が納得し、一致して支持したわけではない。対立するサンダース氏を支持した党員のなかには、クリントン氏には、あくまで反対で、本選挙では反対党のトランプ氏に投票する党員が少なくないようだ。
他方、共和党大会には、多くの有力党員が出席さえしなかった。その人たちは、本選挙では反対党のクリントン氏に投票するのではないか、といわれている。
◇
英国にも、同じような状況がある。
先日のEU離脱問題で露わになったことだが、国家の進路を決めるほどに重大なこの問題について、同じ政党のなかで意見が2つに割れている。保守党のなかも離脱派と残留派が入り乱れているし、労働党のなかも両派が入り混じっている。
いったい、いまの政党は何なのか。
◇
日本にかぎらず、世界をみても、いまの政党は、国民の深層にある政治的対立を捉えきっていない。
それは、日米の両国とも、TPPに対する政治的な考えをみれば、よく分かる。
米国をマンガ的にいえば、以前なら民主党はTPP反対、共和党はTPP賛成の考えだろう。しかし今は、そうではない。両党とも反対の党員と、賛成の党員が入り乱れている。
日本はどうか。以前なら民進党はTPP反対、自民党は賛成でまとまっていただろう。しかし、実際は両党とも反対と賛成の党員が入り混じっている。何故か。
◇
いまの貿易政策についての最重要な政治選択は、自由貿易か、管理貿易か、などという了見の狭い選択ではない。貿易政策のなかで、市場原理主義を否定するか、肯定するか、の選択である。
TPPは市場原理主義的な貿易政策の極致であり、象徴である。だから、TPPは市場原理主義政策の賛否に直結している。そうした基本的な政治理念についての賛否が、国民から問われている。それなのに。同じ党内で意見が割れている。
◇
TPPに反対する人たちは、市場原理主義は、多くの人を貧困に追い落とし、格差を拡大している、と考える。だから反対している。
一方、賛成する人たちは、市場原理主義は経済成長の原動力だから、格差は止むを得ない、と考える。だから賛成している。
政党は、この最重要な政策を実現するために、同じ考えを持つ人の集まりであるはずだ。だが、そうなっていない。党員の考えは、人によってバラバラだ。
つまり、政党は日米両国とも、世論の深層を知ることができず、メルトダウンして、得体の知れないヌエ的な集団になっている。こんなことでは、国民から見放されてしまう。
◇
こうした状況のもとで、米国の大統領候補選で与党候補の公約は、いまのTPPは、国益にならないから反対、というものである。国益になるTPPがある、という考えのようだ。
いったい、国益とは誰にとっての利益なのか。格差が拡大するなかで、貧困層にとっての利益なのか、それとも、富裕層にとっての利益なのか。国民全体の利益など、ありはしない。
日本をみると、先日の参院選で、野党第1党の公約は、いまのTPPには反対、というものだった。別のTPPなら賛成と言いたいようだった。格差の拡大を必然にする市場原理主義に基づかないTPPがある、とでも言うのだろうか。そんなものは、ありはしない。
◇
いまや、世界の政治は、貧困層と富裕層との間の対立関係を基軸にして、そのなかで激しく動いている。
政党には、この認識がない。だから、党内外で無用な混乱が続いている。メルトダウンの原因は、まさに、ここにある。
秋の国会は、TPP国会といわれている。充分に議論を尽くすことを期待したい。
論点は、TPPの情報公開が充分かどうかとか、日本が妥協しすぎたかどうか、などという些細なことではない。いまや国民の大多数になってしまった貧困層にとって、TPPが利益にならないこと、だから、TPPが貧困層をさらに増大させ、格差をさらに拡大させることを、徹底的に暴露することである。
(2016.08.08)
(前回 次の総選挙は野党の選挙協力で与野党逆転か)
(前々回 農業版アベノミクスのたそがれ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
鳥インフル 米アラバマ州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月24日
-
「農山漁村」経済・生活環境プラットフォーム 設立記念シンポジウム開催 農水省2025年1月24日
-
(419)芸能アイドルと「卒論」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年1月24日
-
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 24日から開催 JA全農2025年1月24日
-
ブルボン×ニッポンエール「フェットチーネグミPREMIUM長野県産ぶどう三姉妹味」新発売 JA全農2025年1月24日
-
JAしれとこ斜里と原料ばれいしょの安定調達で連携 カルビーグループ2025年1月24日
-
「一村逸品大賞」受賞商品集めた特設ページ開設 JAタウン2025年1月24日
-
未利用バイオマスをバイオ炭に再利用「農林水産業みらい基金」助成事業に採択 HATSUTORI2025年1月24日
-
他人事にしない「ひきこもり」高橋みなみ、宮本亞門らと語り合うフェス開催 パルシステム2025年1月24日
-
食品流通業界の最新情報発信「スーパーマーケット・トレードショー2025」幕張メッセで開催2025年1月24日
-
初心者でも簡単に植物を元気に育てられる植物活性剤「アミノ家族」シリーズ新発売 アルケー2025年1月24日
-
国際協同組合年 祖国の料理ともに味わうイベント開催 パルシステム東京2025年1月24日
-
高たんぱく・低糖質で食物繊維たっぷりな大豆麺「細麺」「平麺」2人前を新発売 キッコーマン食品2025年1月24日
-
まるでプリンの味わい「ハッピーターンズ カラメルプリン」期間限定発売 亀田製菓2025年1月24日
-
The幕之内 新作駅弁「日本ばし大増 上幕之内」30日から通年販売 JR-Cross2025年1月24日
-
100人の小学生が「食と農業」の未来つくる仲間に「クボタ アグリキッズサミット」開催2025年1月24日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(2)今後を見据えた農協の取り組み 営農黒字化シフトへ2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(3)水田に土砂、生活困惑2025年1月23日
-
災害乗り越え前に 秋田しんせい農協ルポ(4)自給運動は農協運動2025年1月23日
-
人づくりはトップ先頭に 第5次全国運動がキックオフ 150JAから500人参加【全中・JA人づくりトップセミナー】(1)2025年1月23日