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TPPの短期的で局部的な論議2016年10月31日

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【森島 賢】

 TPPの国会論議を聞いていると、今のところ、TPPが及ぼす目先の、しかも局部的な影響についての論議ばかりになっている。つまり、日本の将来を見通した議論にもなっていないし、国のかたちを変えるほどの影響がある、という議論にもなっていない。
 議論は、まだ始まったばかりである。長期的で大局的な影響についての議論は、これから行うのだろう。それを期待している。
 しかし、与党は、議論はすでに充分に尽したから、今日中にも論議を打ち切って、政府案を強行採決して批准するという。いったい、国会は何を充分に議論したというのか。

 短期的・局部的な議論も、けっして充分な議論をしているわけではない。
 国会は、これまでSBS米の価格偽装問題に議論を集中してきた。しかし、未だに暗い闇の中にある。これは重大問題ではあるが、しかし、農業全体のなかでは局部的な問題ともいえる。
 TPPは自由な貿易という、いわば美名のもとで、米だけでなく、畜産物や甘味作物など基幹的な農産物の国内生産を減らそうとしている。それらを輸入にたよって、食糧主権を捨てようとしている。TPP問題の農業からみた本質は、ここにある。
 これらの日本農業にとっての基幹的農産物は、戦後の農産物輸入自由化政策のもとで、国内生産を減らし続けてきた。そうして、いまや食糧自給率を39%にまで引き下げ、食糧安保を危機的状況に落とし入れてきた。TPPは、この動きをさらに深刻化するものである。
 国会の議論は、こうした点にまで広がっていない。そうして、輸入米で米の供給量がふえても米価は下がらない、などという没論理的な議論をくり返している。

 農業だけではない。TPPは食品の安全をおびやかし、また、世界に誇る国民皆保険を崩壊させる。その上、ISD条項で日本の国家主権を無国籍企業に奪われる。農村で公共事業を行っても、利益は地元に残らず、無国籍企業に持ち去られる。
 政府は、こうしたTPPを、今後の経済政策の中心に据えるという。しかし、総じていえば、TPPは市場原理主義の権化であり、無国籍企業の利益のために、農業者など国民の大多数の経済的弱者を犠牲にして、国家主権を無国籍企業に売り渡す仕組みである。
 国会では、このようなTPPの本質についての議論を、これから始めようとしている。それなのに、与党は議論を打ち切ろうとしている。

 マスコミの報道によれば、与党は当初、先週末に議論を打ち切って強行採決の予定だった。しかし、野党の抵抗にあって、予定を延ばし、今日中に委員会で、明日中に本会議で、強行採決のつもりだという。
 たとい僅かな日数とはいえ、予定を延ばさせたことは、野党の抵抗の成果として誇っていい。しかし、それで充分という訳ではない。
 今朝のTV報道では、与党は強行採決を今週末までに、再度延ばしたという。最前線での激しいツバ競り合いは、野党が優勢の状態で続いている。
 さらに採決を延ばして、議論を深めねばならない。それは、地方の現場の声に耳を傾け、TPPが現場に及ぼす具体的な影響を洞察し、その枝葉ではなく、本質について議論することである。
 いまは、TPP加盟各国に先駆けて、国会で批准するときではない。まして、日本政府がアメリカ政府を押しのけて無国籍企業の大番頭に成り上がることでは決してない。
 そんなことを許してはならない。
(2016.10.31)

(前回 白けた衆議院補選

(前々回 SBSは輸入自由化の尖兵

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