TPPは空中分解2016年11月14日
TPPが先週衆議院で承認された。そして、参議院での審議が始まった。
その一方で、米国では、オバマ大統領が、在任中の議会での承認をあきらめた。とうとうTPPを断念したのである。安倍晋三首相は米国議会の早期承認にかすかな望みをかけていたが、その望みを絶たれた。
トランプ新大統領は、TPPには、もともと反対で、選挙中に何度もくり返してTPP反対を叫んできた。また、当選直後には、大統領就任の初日にTPPから離脱する、と明言した。これから4年間つづくトランプ新大統領の在任中に、まさか、この明言をひるがえすことはないだろう。これでTPPは完全に空中分解した、といっていい。
6年前から始まり、日本を揺るがせたTPP問題は、農業者など多くの国民の反対運動が、ついに最終的な勝利をおさめたのである。正義は勝ったのだ。
安倍首相は、TPPをアベノミクスの主柱に据えていた。その主柱が空中分解したのである。アベノミクスは、絶望的な状況に追い込まれた。
こうした状況のもとで、参議院はTPPの何を審議するのだろうか。
TPPを衆議院で議決するまでの経緯をみてみよう。与党は、なるべく早く通過させようとしていた。だが、度重なる後退を重ね、予定した期日から大幅に遅れて、ようやく議決にまでこぎ着けた。
第1の予定期日は、11月1日だった。それまでに衆議院を通過させれば、参議院が審議の途中で結論を出さなくても、30日後には衆議院の議決が国会の議決になる。会期を延長しなくても、そのようになる。これは、参議院を軽視した苦肉の策である。だから反対派でなくても、参議院の議員は怒るだろう。
第2の予定期日は8日だった。米国の大統領選挙の前に議決を予定した。この期日に、どんな意味があったのか。
大統領候補者は、2人ともTPPに反対していた。にもかかわらず、投票前までに日本の衆議院が、TPP賛成を議決することに、どんな意味があるのか。そうすることで、誰に忠誠を誓おうとしたのか。
◇
それは、日本政府と米国政府の背後にいて、姿を見せないが、両国の政治を操っている多国籍企業である。原籍が日本である多国籍企業もあるし、原籍が米国である多国籍企業もある。両者とも、TPPを成立させて、世界中の貧困層と中間層を対象にした搾取を強めようとする点で、共通した利害をもっている。もちろん、日本の農業者も搾取を強める対象にしている。両国政府は、このグループの代理人になっていて、忠誠を尽くしている。
だから日本政府は、相棒の米国政府に対して、共通の主君に対する忠誠のあかしとして、TPPの早期批准を迫ろう、というのだろう。TPPで被害を受ける農業者などの経済的弱者などは、全く眼中にない。
しかし、それも出来ず、さらに期日を延長して、大統領選挙が終わった10日になって、ようやく議決にたどりついた。
◇
このような不様な議決になったことは、反TPP運動が勝ち取った成果である。もしも仮に反TPP運動に力がなかったら、当初の予定通りに1日に議決されてしまっただろう。
不様な議決だったことは間違いないし、反TPP運動が不様な議決に追い込んだことも間違いない。
しかし、不様な議決とはいえ、議決されてしまったのだから、反TPP派が負けたことは否めない。しかし、勝ちに限りなく近い負けだったのである。そして、その後、米国がTPPを断念して、反TPP派の勝ちが確定した。
◇
巷間ささやかれていることを紹介しよう。サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙で落ちると政治家ではなくなる。
TPPに賛成した国会議員は、次の選挙で落選してもらわねばならない。そうして、国会は、こんどの衆議院での承認を取り消してもらわねばならない。
◇
新しい世界の政治が始まったのである。だから、旧来のマスコミにとって予測不可能なことが、つぎつぎに起きている。英国のEU離脱に始まり、トランプ新大統領の誕生に続き、さらにTPPの空中分解へと続いている。
これらは虐げられた経済的弱者の勝利であり、世界の新しい潮流である。その先端に、日本の農協がいる。農協は、新しい世界の希望の星になっている。
もしかすると、今後、トランプ新大統領が変心するかもしれない。TPPが形を変えて再来するかもしれない。また、TPPが空中分解しても、日米だけの2国間交渉で、無理難題をいってくるかも知れない。トランプ氏は元ビジナスマンだったから、みんなで物事を決めるよりも、2人で向き合って、サシで決めるほうが得意なのだそうだ。それらに充分な注意をはらいながら、新しい潮流に期待しよう。
今後、世界の新しい政治は、世界の経済的弱者の力強い連帯と、多国籍企業の醜い連合との間で繰り広げられるだろう。
そして、正義は勝つ。
(2016.11.14)
(前回 経済的弱者がトランプ大統領を生んだ)
(前々回 TPPとトランプ現象)
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