【小松泰信・地方の眼力】敗北を自覚し、再生の道を歩め2016年11月30日
悲しいかな、読みが当たった。荒唐無稽な金丸提言のおかげで、JAグループは急遽要請活動を活発化させ、重い腰の自民党農林族を動かした。奏功して小泉提言はこぎれいなものとなる。「この程度でおさまるなら」として承諾、今後の決意を表明する。とりあえずの落着。シナリオライターのほくそ笑む顔が目に浮かぶ。それで良いのか、JAグループ。
◆物足りないと、煽る全国紙
この問題を社説に取り上げていた全国紙は、毎日、産経、読売の三紙であった。いずれも26日。
毎日新聞は、安倍首相が農業改革を成長戦略の要となる「岩盤規制」改革の本丸に位置づけ、全農改革を「試金石」と強調してきたにもかかわらず、強い指導力を発揮した形跡はない、と不満を示す。全農に改革の数値目標を含んだ年次計画を策定させ、政府・与党が進捗状況を定期的にチェックするだけでは、不十分との論調である。
産経新聞も「岩盤規制に踏み込めなかった印象は免れまい」「今やこの組織の意向に沿って動くことは、日本の農業を守り、競争力を高めることに必ずしもつながらない。農協の存在自体が農業の体質強化を妨げているともみなされはじめている」「今一度、ドリルで穴をあける覚悟を示してもらいたい」とまで言い放つ。〝さすが3K〟との声は、空耳か。
読売新聞は、「規制改革推進会議の提言を大筋で取り入れており、妥当な内容」「民間組織である全農に、政府が法的拘束力のない改革案を強制することはできない。...期限を設けなかったのは、実現性を見据えた政治判断」と、他紙よりも穏やかである。この余裕は、急所は押さえた、という確信のなせる技。要注意。
全国紙は、明らかに金丸提言にシンパシーを示し、〝全農の抜本改革が、今回もまた自民党農林族の反発で大幅に修正され小粒な内容になった〟と、訴えている。世論操作の一種とすれば、空恐ろしいことである。
◆地方紙の眼力に暫し溜飲を下げる
社説で取り上げていた地方紙は、琉球新報(26日)、北國新聞(26日)、中國新聞(28日)、河北新報(29日)、愛媛新聞(29日)の五紙(http://www.47news.jp/localnews/shasetsu/より)。
琉球新報は、まず「農業、食料の自給は国の根幹であり、改革に当たっては慎重な議論が求められる」と、煽る論調に自給の視点から待ったをかける。「改革会議の提言は農業の現場を反映していない。全量買い取りが実現すれば、需給によって販売価格が上下し、農家の手取りが減る可能性もある。目指す方向とは逆になるかもしれないのだ。...肝心の農産物価格が低下しては、何のための改革なのか疑わしい」と冷静な分析。
「1963年のキャラウェイ旋風で琉球農連(現在の経済連)に琉球政府が出した勧告は、農連事業の株式移行や肥料事業廃止などだった。結果的に勧告は撤回されたが、背景に農連を解体し、利権を得ようと市場参入をもくろむ『経済界の圧力があった』と推測し『繰り返してはならない歴史が繰り返されようとしている』」と、11月22日掲載の普天間朝重氏によるコラムを引用し、核心部分を分かりやすく説いている。
そして、「コスト抑制や効率化だけが農業の改革ではない。安定した経営と収入が保証される自立した仕組みこそが必要である。改革を目指すのなら産業としての農業の魅力を再生することに力を注ぐべきだ」と、締めている。
中國新聞は、全農の自主改革に委ねた点が、自民党案と金丸提言の決定的違いであり、まずはその主体性に注目すべき、とする。民間組織に押し付け改革は無理筋、「第二全農」という提言も強引という。「そもそも、政府は『岩盤規制』とするものの、持ちつ持たれつできた自民党とJAの産物であることを忘れてはなるまい」とバッサリ。そして、新〝改革プラン〟は、「農林業、そして農村が元気を取り戻し、持続可能な将来を見いだせる方策こそ示す必要がある」とする。
河北新報は、「(政府の農業改革)プログラムからは農業者の所得がどう向上していくのか、肝心のその道筋は見えない」「...所得向上は全農だけの役目ではあるまい。プログラムは、安い生産資材の供給や中間流通の整理合理化に向け業界再編の推進などを掲げる。これは政府の役割だ」と注文を付けている。
まさに、日常的な取材の積み重ねを土台にした、「地方紙の眼力」が伝わってくる。
◆自覚すべき敗北。そして生まれ変わる
日本農業新聞(26日)によれば、小泉進次郞は、政府・与党が進捗管理する点を「一番思いを持つところだ」とし、管理徹底のため、チーム小泉は「解散しない」と強調。そして「負けて勝つ、かな」と記者団に語った。また、JAたじまでの講演会では、金丸提言について「方向性は間違っていない」と述べている(同紙27日)。聞き捨てならないことばかりであるが、農水省幹部は、「名を捨てて実を取る戦略だ」と解説したそうだ(同紙25日)。捨てた〝名〟は農水省、取った〝実〟は退官後の天下り先、では洒落にならない。
購買、販売、両事業の協同組合事業方式の否定、進捗管理という「政府の監視」、そして農林族への借りなどから、進次郞の勝利宣言は聞かずとも、JAグループの敗北。この敗北から巻き返しを図るためには、「対話」路線の総括と決別。そして「対決」路線に舵を切ることである。
なぜ対決か。それは、話が通じる相手ではないことが明らかになったこと。さらには、全中の弱体化に続く、全農解体に向けた一連の動きが、JAグループの信用事業や共済事業にも及ぶだけではなく、協同組合全体の活動領域を狙った株式会社至上主義者たちによる〝押し込み強盗〟の前触れだからだ。JA陣営は、一方で「兵糧攻め」という最高の武器を持っていること、他方でそれが狙われていることを自覚すべきである。
本当の自己改革は、自民党との腐れ縁を清算し、自主・自立、政治的中立性のもとで、生活者とともに農業のあり方を模索していくなかからしか生まれてこない。これが、「生まれ変わる」すなわち再生ということなんだよね、アベちゃん。
「地方の眼力」なめんなよ
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