自由貿易の欺瞞2016年12月12日
日欧EPAの交渉が、今日から再開される。日本は酪農品や豚肉の関税をどれほど下げるか、という屈辱的な交渉である。
TPPは先週末に国会で批准された。今週から、さっそく日欧EPA交渉である。政府は、年末のどさくさにまぎれて、年内に大枠合意したい、と考えている。あと20日しかない。
またぞろ、自由貿易か保護貿易か、という欺瞞にみちた議論を始めるのだろうか。保護貿易派を守旧派として激しい攻撃を加えるのだろう。そうして、経済的強者である大資本のご機嫌をうかがおうとしている。こんな議論を続けていたら、政治不信を招き、極右勢力の台頭に隙を与える。
経済的強者の、こうした悪いたくらみには、農業者など経済的弱者たちが、厳しい反撃を喰らわせるだろう。
自由貿易といえば耳ざわりはいい。しかし、それは、ごく一部の人たちが描く、人間社会の1つの極めて特殊な理想にすぎない。
理想を追求するのは勝手だ。しかし、そのことで強者が潤い、弱者がますます貧困に陥り、格差を拡大するのなら、反対するしかない。自由貿易派の主張は、強者が弱者を搾取するための自由の主張である。
だから、世界の弱者たちは、自由貿易による格差の拡大に対し、断固として反対している。それが、世界の潮流である。アメリカ主導のTPPは瓦解したし、韓国で自由貿易を推進した朴大統領は政権を追われた。欧州を自由貿易ブロックにした元祖EUは崩壊の危機にある。
◇
自由貿易は、1つの理想かもしれない。すべての貿易取引を、政府の干渉なしで自由に行おう、というものである。
ここには取引の当事者が全て聖人君子だ、という大前提がある。他人を搾取しよう、などという不埒な人はいない、という前提である。
しかし、実際はそうではない。国際市場には、私利私欲がうずまいている。すきがあれば、他人を搾取しようとして、機会を狙っている。それが資本主義が誕生して以来から持っている本性である。
搾取の強化に成功して競争に勝った資本は、国際市場で生き残れるし、搾取に失敗し、競争に負けた資本は、国際市場から追い出される。こうした国際的な搾取のための自由を保証せよ、というのが自由貿易の主張である。それを隠すために、自由貿易などという耳ざわりのいいことを言う。
こんなことは、理想でも何でもない、搾取の強化だ、と考えるのが保護貿易の考えである。保護するものは、国内の後発産業だというが、その根底には強者に搾取される弱者を保護する、という思想がある。そうして、資本の悪い性質を矯正する。
◇
自由貿易の主張の、もう1つの問題点は、世界のブロック化にある。世界をいくつかのブロックに分けて、たがいに敵対して勝ち抜き、自分のブロックを広げようとする。そのためには、手段を選ばない。経済のブロック化だけでなく、安全保障のブロック化にも及ぶ。
安倍晋三首相は、以前、TPPは日米安保の強化になる、と発言したことがある。事実に即した正直な発言である。TPPは、アメリカ的な悪しき自由と、アメリカ的な悪しき民主主義を、武力を背景にしてアジア地域へ押し付けるものである。この発言は、それに日本が加担しようというものだ。しかし、アジアの人びとが、唯々諾々と受け入れるわけがない。
自由貿易が理想だ、というのなら各国とも分け隔てなく、仲良く取引するのがいい。だが、実際にはそうではない。敵対関係を作り出す。そのようなものは理想にはなりえない。
◇
ではどうするか。
世界中の人びとが仲良く貿易交渉をするために作った国際機関に、WTOがある。WTOはGATT体制を引き継ぐもので、戦前の世界経済のブロック化が、世界大戦を招いたことを反省して作られた国際機関である。
いまは休眠状態にあるが、いまこそ貿易交渉は、このWTOの場にもどらねばならない。TPPやEPAやFTAなどいう世界の政治、経済のブロック化の方向に進んではならない。
◇
さて、農業であるが、WTOでの農業交渉にのぞむ日本の基本姿勢は、「多様な農業の共存」である。その内容は、食糧安保の確保と、農業の多面的機能への配慮である。その根底には、農業者をはじめとする弱者への配慮がある。
これは、以前に、農林族と農水省の両者が考え抜いて作った、農産物貿易の交渉にのぞむ立派な姿勢である。しかし、いまや、両者は見るかげもない。両者とも、自由貿易の巣窟である首相官邸の、言うがままになってしまった。
当面する日欧EPAにしても、予想される日米FTAにしても、交渉にのぞみ、このWTOの基本姿勢を堅持するかどうか、弱者たちは厳しく監視するだろう。そうして、自由貿易という名前による搾取の強化には、断固として反対するだろう。
(2016.12.12)
(前回 新しい労働貴族の誕生)
(前々回 規制会議が農協を管理)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(139)-改正食料・農業・農村基本法(25)-2025年4月26日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(56)【防除学習帖】第295回2025年4月26日
-
農薬の正しい使い方(29)【今さら聞けない営農情報】第295回2025年4月26日
-
1人当たり精米消費、3月は微減 家庭内消費堅調も「中食」減少 米穀機構2025年4月25日
-
【JA人事】JAサロマ(北海道)櫛部文治組合長を再任(4月18日)2025年4月25日
-
静岡県菊川市でビオトープ「クミカ レフュジア菊川」の落成式開く 里山再生で希少動植物の"待避地"へ クミアイ化学工業2025年4月25日
-
25年産コシヒカリ 概算金で最低保証「2.2万円」 JA福井県2025年4月25日
-
(432)認証制度のとらえ方【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月25日
-
【'25新組合長に聞く】JA新ひたち野(茨城) 矢口博之氏(4/19就任) 「小美玉の恵み」ブランドに2025年4月25日
-
水稲栽培で鶏ふん堆肥を有効活用 4年前を迎えた広島大学との共同研究 JA全農ひろしま2025年4月25日
-
長野県産食材にこだわった焼肉店「和牛焼肉信州そだち」新規オープン JA全農2025年4月25日
-
【JA人事】JA中札内村(北海道)島次良己組合長を再任(4月10日)2025年4月25日
-
【JA人事】JA摩周湖(北海道)川口覚組合長を再任(4月24日)2025年4月25日
-
第41回「JA共済マルシェ」を開催 全国各地の旬の農産物・加工品が大集合、「農福連携」応援も JA共済連2025年4月25日
-
【JA人事】JAようてい(北海道)金子辰四郎組合長を新任(4月11日)2025年4月25日
-
宇城市の子どもたちへ地元農産物を贈呈 JA熊本うき園芸部会が学校給食に提供2025年4月25日
-
静岡の茶産業拡大へ 抹茶栽培農地における営農型太陽光発電所を共同開発 JA三井リース2025年4月25日
-
静岡・三島で町ぐるみの「きのこマルシェ」長谷川きのこ園で開催 JAふじ伊豆2025年4月25日
-
システム障害が暫定復旧 農林中金2025年4月25日
-
神奈川県のスタートアップAgnaviへ出資 AgVenture Lab2025年4月25日