【近藤康男・TPPから見える風景】絡み合う通商交渉スパゲッティ2017年11月9日
3日間のTPP11(とする)舞浜高級事務レベル会合が終わり、舞台はベトナムに、6日から首席交渉官会合、8~9日に閣僚会合、そして大枠合意を目指す10日の首脳会合に移っている。この原稿が掲載される頃には、実質的な“大枠合意”がされているかも知れない。閣僚会合では、少なくともムリムリの“政治的な大枠合意”がされている可能性はかなり高い。その可能性は五分五分だろうか? 個人的には、先送りの要素の多い“政治的大枠合意”の可能性が少し高いかと推測している。
◆互いに影響し合うメガFTA交渉
現在日本が直接関与している通商交渉は、TPP11、日EU・EPA、RCEP,日米経済対話と4件が並行している。その他に6件あるが、一部は中断、その他は全く報道されないままユックリと進んでいる。やはり影響が大きいのはメガFTAで、NAFTA,韓米FTAなどは、上記4件の交渉にも影響が絡んできている。影の主役は米国で、「米国第一」の本気度が国際機関、通商交渉に影響を与え、その影響が他の協定交渉に連鎖的に波及している。
○韓米FTAでの韓国の農産品での譲歩は日米交渉に影響する。
○NAFTAでのUSTRのISDS不要発言の行方はTPP11に影響する。
○TPP11でのル-ルの凍結動向はRCEPに影響、一方でその逆もある。
・メキシコ・カナダにとってTPP11の早期妥結はNAFTA再交渉での盾に出来る。
○南米4ヶ国の太平洋同盟へのカナダ・豪・NZ・(シンガポ-ルも)の参加の動きはNAFTA再交渉や米国のTPP離脱が後押ししている etc.
このため、早期合意を目指したり、逆に交渉が難航するという状況が生じていると見ている。RCEPでは、自由化率で中国・インドなどと"先進国"との間の溝が埋まっておらず、ル-ルでは"先進国"がTPP基準を押し付けようとして途上国の抵抗に会っている。TPP11の早期合意も難航している。
おかげでTPP11を主導する日本は米国抜きの乳製品低関税枠や牛肉などのセ-フガ-ド発動基準数量引き下げを言い出せず、しわ寄せが日本の農家に押しつけられそうな雲行きになっている。
このままではTPP以上に秘密のままで合意に突き進まれかねない
日本政府はTPP対比だけでなく、交渉参加国中の"先進国"の大多数と比べても情報公開度が圧倒的に低い。
全ての通州交渉が並行しているため、政府はこれ幸いと「交渉中なので...」を盾にして、メディアの取材にもまともに応じないまま、殻の中に閉じこもっている。新聞紙上にはTPP11の凍結項目がいくつか掲載されているが、本当にいくつあって、それは何の項目でTPP12のどの章なのかは、新聞記者にも知らされていないのが実態だ。
◆貝になった官僚たち
筆者の参加している市民団体のネットワ-クでも11月6日に政府説明会・意見交換会を開催したが、「交渉中の経過・内容も公表すべきだ」と迫り、実質的に論破したものの最後は出席7名全員が貝になってしまった。
外国の議員にも指摘される日本政府の透明性の欠如
市民団体側は、(1)自国の発言は相手国の交渉官には伝わっており、知らぬは自国(日本)の市民だけであること,(2)いくつかの国では交渉の方針、立場、更には提案内容、一部の相手国だが協定条文原案の交渉当事国による書き込みでさえ公表され、交渉中の経過・内容も必ずしも秘密が当然とされている訳ではないこと、(3)これまで具体的で確度も高い交渉内容を伝える報道があったが、交渉にマイナスの影響を与えた形跡は無いこと、など事例を挙げて追及をした。最後は、交渉中の自国の提案・意見が報道あるいは漏えいされて問題を生じたことがあったのか、であれば事例を教えて欲しいとも投げ掛けたが、沈黙が支配するのみだった。
政府との対峙は12月11日にも予定されている。ベトナムでのTPP11首脳会議、フィリピンでのRCEP首脳会議の結果も公式発表だけは公表されている筈だ。大詰めかどうかは何とも言えないが一つの節目をジックリ眺めたい。
(関連記事)
・途上国の経済政策を制約するか?TPP(17.10.26)
・目白押しの通商交渉、さてその行方は?(17.10.12)
・通商交渉における情報の透明性と秘密性を考える(17.09.28)
・続・日欧EPAはTPPよりマシだろか??(17.09.14)
・日欧EPAはTPPよりマシだろか??(17.08.31)
・日欧EPA情報開示彼我の差、戦略の欠如(17.08.18)
重要な記事
最新の記事
-
米農家(個人経営体)の「時給」63円 23年、農業経営統計調査(確報)から試算 所得補償の必要性示唆2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(1)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(2)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
「令和の百姓一揆」と「正念場」【小松泰信・地方の眼力】2025年4月2日
-
JAみやざき 中央会、信連、経済連を統合 4月1日2025年4月2日
-
サステナブルな取組を発信「第2回みどり戦略学生チャレンジ」参加登録開始 農水省2025年4月2日
-
JA全農×不二家「ニッポンエール パレッティエ(レモンタルト)」新発売2025年4月2日
-
姿かたちは美しく味はピカイチ 砂地のやわらかさがおいしさの秘密 JAあいち中央2025年4月2日
-
県産コシヒカリとわかめ使った「非常時持出米」 防災備蓄はもちろん、キャンプやピクニックにも JAみえきた2025年4月2日
-
霊峰・早池峰の恵みが熟成 ワイン「五月長根」は神秘の味わい JA全農いわて2025年4月2日
-
JA農業機械大展示会 6月27、28日にツインメッセ静岡で開催 静岡県下農業協同組合と静岡県経済農業協同組合連合会2025年4月2日
-
【役員人事】農林中金全共連アセットマネジメント(4月1日付)2025年4月2日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年4月2日
-
【スマート農業の風】(13)ロボット農機の運用は農業を救えるのか2025年4月2日
-
外食市場調査2月度 市場規模は2939億円 2か月連続で9割台に回復2025年4月2日
-
JAグループによる起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」第2期募集開始 あぐラボ2025年4月2日
-
全国産直食材アワードを発表 消費者の高評価を受けた生産者を選出 「産直アウル」2025年4月2日
-
九州農業ウィーク(ジェイアグリ九州)5月28~30日に開催 RXジャパン2025年4月2日
-
「JPFA植物工場国際シンポジウム」9月1、2日に開催 植物工場研究会2025年4月2日
-
耕作放棄地を解消する「えごまプロジェクト」の寄付開始 長野県南木曽町と「さとふる」2025年4月2日