【森島 賢・正義派の農政論】隠れ失業者の衝撃2018年6月11日
隠れ失業者(ミッシングワーカー)の特集番組を、NHKが6月2日に放送した。40-50歳代に103万人もの大量の隠れ失業者がいる、というものである。政府統計では、この年齢層の失業者数は72万人というから、実際の失業者数は足し算して175万人になる。政府がいう72万人の2.4倍である。
このような大量の隠れ失業が発生した原因には、非正規労働の急増があるという。非正規労働の急増は、労働規制を野放図に緩和した結果で、アベノミクスの失敗である。
これまで、安倍晋三首相は、労働市場の堅調をアベノミクスの成果だ、と自画自賛してきた。しかし、それは厚労省が作り上げた虚像に基づくものだったことが暴かれた。そしていま、失業者全体の実像が明らかになったのである。
政府は、この全体像に目を向けず、一部の好都合な虚像だけをみて、労働政策を行ってきた。労働政策は、アベノミクスの中心部分にある。その中心部分が腐朽してきたのである。
農業問題が発生する根源は、社会全体の失業問題である。以前、農村は失業者のプールだ、と言われたことがあった。隠れ失業者の大量の存在は、農業者にとっても他人事ではない。
ここでは、この特集番組を参考にして、失業問題を考えよう。
なぜ、政府は失業者について、一部の虚像だけを見て、全体の実像を見ようとしないのか。それは、一部の虚像は好都合で、全体像は不都合だからだろう。
政府がいう失業者の定義は、就業していないが、就業の意志と能力があって、かつ、就業のための活動をしている人である。完全失業者ともいう。そういう人は、40-50歳代で僅か72万人しかいない。
いっぽう、隠れ失業者は就業していないし、就業の意志も能力もあるが、しかし就職活動をしていない人である。だから、政府がいう失業者にはならない。そういう人が、この特集番組の推計では40-50歳代に103万人も大勢いる。
だから、実際の失業者は、政府がいう72万人ではなく、隠れ失業者の103万人を足し算した175万人なのである。
◇
では、なぜ政府は、これほど大勢の失業者を隠すのか。
政府にとって、失業者を少なく見せることは、労働政策の成功を印象づけるから、好都合だろう。しかし、多く見せると、失敗が露見するから、不都合だろう。
政府は、隠れ失業者は労働市場から消えてしまったとして、見向きもしない。
◇
ではなぜ、隠れ失業者が大勢いて、いまも急増しているのか。特集番組はいう。
1つ目は、若いころから正規労働者になれず、非正規労働者になって転職をくり返してきたが、高齢になるにつれて転職できなくなり、やがて就職活動をあきらめた、という人たちである。
この人たちは、労働規制の、いわゆる改革によって非正規労働を広く認めた政策の被害者である。
2つ目は、親が高齢になり、介護が必要になって、離職せざるを得なくなる人たちである。
この人たちは、政府が医療や介護に対する政策支援を怠ったため、その被害を受けている人たちである。
3つ目は、中高年の独身者の増加である。このうちの多くは非正規労働者である。だから、高齢になるにつれて転職できなくなり、親の年金に依存するようになる。しかし、やがて、この状況を続けられなくなる。だからといって、非正規労働者だったので、本人の年金では生活できない。無年金の人も少なくない。
この人たちも、労働規制の緩和という政策の犠牲者である。それに加えて、年金制度の改悪の犠牲者でもある。
◇
どうして、こんなことになってしまったのか。労働力不足といわれながら、働く意思も能力もある人が働いていない。これは国家的な損失である。そしてこれは、アベノミクスの失敗である。
労働力不足を補うために、大量の外国人労働者を受け入れるべきだ、という考えがある。いまでさえ、128万人もの外国人労働者を受け入れているが、さらに大量に受け入れよ、という主張が経団連などにある。
しかし、40-50歳代の働き盛りの、隠れ失業者を含む失業者の175万人もいるのだから。この人たちに働いてもらうだけで、外国人労働者に依存しなくてもいい。労働力不足は充分に解消できるのだ。このことを特集番組は伝えている。
◇
そもそも、経済システムとは、誰が何を作り、それを誰が消費するか、を決定するシステムである。日本は、この決定を全て市場に任せている。つまり、市場原理主義のシステムである。そして、このシステムが、いま機能不全に陥っている。だから、働く意思と能力のある人が働けない。これは、大きな国家的損失である。
ここから脱出するには、全てを市場に任せるのではなく、市場の機能の一部を規制しなければならない。労働力市場でみれば、最低賃金の大幅な増額と、非正規労働の規制の強化である。
働く意思と能力のある人が働けない、という不条理な国家的損失をなくすには、この方法しかないのである。
(2018.06.11)
(前々回 北東アジアの夜明けは近い)
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